第八百九十五話
「……拮抗している。と判断していいのかね?思ったよりフォルノスと師匠は周りのこと考えて戦ってるな」
「うーん。この規模のスタジアムだと、相手に有効打を与えようとすると壊れちゃうから、今ある隙を突くような攻撃にならざるを得ないからね。余った意識のリソースを何に使うのかとなれば、それは周囲のことになると思うよ」
「だよな……」
「あと、牧人君って思ってたより強いね」
「俺が書いた実用書を呼んだらああなったらしいぞ」
「そ……そっか」
牧人と美奈は相変わらず弾幕パーティーだ。
ただし、ただ単純にうちあっているのではなく、相手の攻撃を全て相殺するかのように消し飛ばしている。
美奈が使用するのは鉄の剣の生成と射出だ。
かなり簡易的に作っているので継続的に使えるものではないが、シンプルな構造故に様々な付与魔法と一緒に使うこともできる。
当然、その中には『追尾』や『待ち伏せ』など、美奈が意図する必要がなく自動で発動することができる魔法も数多く存在する。
牧人の魔法は属性が多種多様ではあるが、その全てに『物体に掛けられている付与魔法をまとめて消し飛ばす』付与魔法を掛けているため、美奈が放った鉄の剣は本当に鉄の剣としての機能しか発揮していないのだ。
当然、地面に落ちた鉄の剣は『待機』などの付与も全て消失するため、新たに美奈が意識を向けない限りは無視できる。
ただ、牧人の方もいうほど決定打はない。
様々な属性の魔法を使って美奈が嫌がる属性を探しているように見えるが、なかなか見つからないようだ。
血筋と言ってしまえばそれまでだが、スペックでいえば美奈のほうが上なのである。
「国枝と基樹だが……アレは完全に基樹のほうが遊んでるな」
「まあ、元魔王だもんね。スペックの問題かな」
「それもあるが、基樹は国枝が一度でも使った攻撃は全て完全に封じてるな。使わせすらしない」
「何か狙ってるってこと?」
「俺が記述した『真理』の一端に触れた国枝の価値観。それを知りたいんだろうな」
「価値観?」
「基樹は速読も可能だから、片手間に俺が書いた実用書を読んでるだろうけど、国枝のようにその『行間』や『意図』を全て把握することは不可能だからな」
「それもそっか」
「あとまぁ。国枝もそれをわかってるみたいだが」
「え?」
「国枝のスキル『日本語理解』は常時発動型。相手が何かしゃべるたびに『解析』を行っている。基樹はその気になれば国枝と牧人をまとめて叩き潰せるからな。その分油断があってペラペラ喋ってる。おそらく、そこから基樹の『意図』を見抜かれてるだろ」
「め、面倒なスキルだねぇ……」
「とはいえ、そのちょっと前にさんざん言葉に気をつけながらめんどくさいことを押し付けあってたんだ。基樹だってそれくらいはわかってるし、まあ、先輩として手間賃をくれてやってるくらいの感覚だろ」
「なるほど」
次にフォルノスとミーシェだが……こちらに関しては語るまでもない。
遠距離攻撃をちょっとやろうとしてもあまり意味はないので、お互いに近接武器を持って戦っている。
斬撃の音が鳴り響いているし、お互いにあまり喋らない。
時折視線がチラチラ動くが、おそらく周囲のメンバーを見ているのだろう。
いずれにせよ、フォルノスとミーシェの戦いがそのままこのイベントの決着につながると言って差し支えないので、二人はただ戦うしかない。
「神祖の二人は意味わかんないね」
「それでいいんじゃないか?お互いに本気なんて出すつもりは毛頭ないみたいだが」
「秀星君はなにかわかることはある?」
「そうだな……やっぱり神力を使った武器の生成練度が師匠のほうが高いな。さっきから何度か、フォルノスの武器にはヒビが入ってる」
「……全然そんなふうには見えないけど」
「フォルノスもすぐに直してるからな。もともと、ちょっと神力を流し込めばすぐに修復できるような代物だ」
「そういうものなの?」
「もともと形が定まったあとの安定性は抜群だからな。だって、それでできてる神々は不老不死だぞ」
「確かに」
戦うところを見ているからこそわかりやすく説明できる部分はある。
ただ一つ言えば、神祖という領域はやはりわからない。
「さてと」
風香は立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「ちょっと聡子さんをしばき倒してくる」
「そ……そうか……」
風香はすごくニッコリしたあと、二人が話している『スタジアムの観客席』から出ていった。




