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第八百九十二話

「基樹君。向こうの国枝君。どうだった?」


 お互いに生徒会長、副会長、書紀の三人だけで臨んだ会議はおわった。

 いろいろ議題はあったわけだが、基本的には沖野宮高校と天窓学園が連携して行うべきことに関する会議である。

 それだけを言えば喧嘩腰になるような会議になるようなことはなさそうだと思うかもしれないが、魔王時代にこの手の『運営』というものを行ったことがある基樹と、行間や意図を文から察することができる国枝は気がついてしまったのだ。


 これは、果てしなく面倒なことになる。と。


 双方ともに、学校に実力のある魔戦士を多数抱えているし、生徒会役員メンバーはバカ強いので、資金的にはなんの問題もない。

 魔法という概念が表に出てきて一年くらいなので、さすがに七十億人をこえる人間に行き渡らせるには足りたいため、あまりレアとは言えない素材であっても今は高く買い取ってくれる。

 資金的にはなんの問題もない。


 問題なのは、新しい試みが多いということだ。


 バトルロイヤルのようなゲームにばかり力を入れているように見られたが、アレは単純に、秀星がいる故に何でもありと言えるゲームを作るとなると、ある意味で『どこまでもいじれる』バトルロイヤルがやりやすかったのだ。実際に秀星は好き勝手していたし。


 魔法省もかなりのデータを揃えたはずで、これからはそれ以外にもシフトしていくことになるだろう。

 退屈しない……のだが、生徒会となると、それらの運営側になるのだ。

 しかも、はじめての試みが多いため、マニュアルがない。


 ……絶対に面倒なことになるに決まってるだろ!


 というわけで、主に基樹と国枝は自分の身に降りかかりそうな面倒な部分を押し付けあっていたのだ。

 自分たち学校の敷地内のことであるならば、沖野宮高校は宗一郎と英里が作ったマニュアル。天窓学園なら聡子が作ったマニュアルがあるのでそれをもとにして運営すればいいが、2つの学校が連携した場合のマニュアルはないのだ。おそらく宗一郎、英里、聡子の三人も、作っていて面倒なことになると思って諦めたのだろう。諦めないでほしかった。


 ちなみに、金に関しては出ていく量は多いがそれ以上に入ってくるのが圧倒的に多いため、会計である牧人とミーシェはほぼ気にしていなかった。

 様々なイベントが行われると金の動きが多くなって牧人の仕事が増えることは目に見えているのだが、最近、『換金額の増額』と『チームへの援助金』が高性能のシステムによって作業が楽になったので油断しているようだ。ミーシェは知らん。多分何も考えてないだろう。


「ああ。まあ、やりづらいな。こっちの思惑が全て透けてるし」


 美奈からの質問にため息混じりに答える基樹。

 国枝が持つ『日本語理解』のスキルは基樹としても相当厄介なものだったようだ。

 日本語を使う限り、それらの『意図』を正確に理解してくる。


 理解、という言葉を検索してみれば、『物事の道理や筋道が正しくわかること。意味・内容をのみこむこと』という文を見つけられる。

 この中の『筋道が正しくわかる』というのが厄介さの極みのようなもので、なぜその言葉が使われるのかという『過程』すらも把握してしまうのだ。

 正直反則である。


「ちなみに、どんな感じに押し付けてきたの?百点満点だとどれくらいかな」


 美奈には『今回の会議は面倒なことを押し付け合う内容だ』ということは説明している。

 ミーシェは多分言ってもわからないだろうから放置。そばにいたセフィコットで遊んでいた。


「まあ……六十点ってところだろうな。多分向こうもそう思ってるだろ」

「私はよくわからなかったけどなぁ……」

「俺は元魔王としていろいろ経験を積んでるからな。どんな作業をするのが面倒なのかはわかってるんだよ。多分向こうは『何をすることになるのか』を理解して、あの席に座ってたはずだ。お互いに押し付けたいことがほぼ同じだからな。内心では醜いだけの争いだったぞ」


 苦虫を噛み潰したような表情になる基樹。

 というか、会議なのに議事録をまとめる書記が参加していない時点で汚いことをやる気満々だ。


「秀星と話すときはこういうことは考えないんだけどなぁ」

「え。お兄ちゃんとは?」

「アイツにはセフィアがいるからな。端末の正確な数は知らないが、ユグドラシル・ストアの様子を見る限り、圧倒的だろ。アイツは自分で『人材』を抱えているし、電子社会になっている現代でも無双できるだけのスキルが備わってるから、ぶっちゃけ全部引き受けて相手に貸しを作るってところまで可能なんだ」


 交渉において駆け引きというものは重要だが、それらを超えた『貸し』というものは一度作ると、そこから先はその貸しの利子で搾り取られる。

 単純に金で解決できない問題になった場合はなおさらだ。

 恩というものを強者相手に踏み倒すとろくなことにならないのは自明の理であるが、秀星の場合はスペックが反則すぎる。


「そ、そういうことかぁ……」


 美奈は朝森家ではかなり常識的な強さである。

 一般的な魔戦士と比べると優秀ではあるものの、秀星を測れるほどの強さも視点も持ち合わせていない。


「はぁ、まあそれはいいさ。言葉の節々で、『イベントで勝ったほうが得をする』っていう勝負にしたからな」

「え、そ、それって……勝つ作戦があるの?」

「神祖が関わっていて『計算』なんて通じないからな。ただ……特別参加枠であの人が来るのは想定の範囲内だったが、おそらくあの人だけでかなりの戦力を封殺できるだろ」

「あ、そっか」


 聡子が持つ神器は最高神が作ったもの。

 当然その出力は圧倒的であり、もとから持つ母性を圧倒的にブーストできる。

 神器を持っているだけで神祖に対抗できるかどうかという話なら、すでにアトムが撃退している経験があるので問題はない。


 ある意味、そこに掛けているのだ。


(さてと、掛け金を上げたのは俺だからな。負けてひどい目にあっても文句は言えないんだよねぇ。どうにかなりますように)


 基樹にも解決できない問題は存在する。

 そうなった場合、結局は運である。

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