第八百九十話
「……基樹、聞いていいか?」
「ん?」
「なんでお互いに生徒会長と副会長と会計しか連れてこないように変更になったんだ?」
「こっちの残り三人が空気すぎるからな」
「そうなのか?」
「ああ、三つ子なんだが、すごく……な」
さて、スタジアム近くのホテルの部屋を使って、沖野宮高校と天窓学園の話し合いが始まっていた。
ただ……フォルノスが言った通り、お互いに生徒会長、副会長、会計しか参加しないのである。
天窓学園側は、生徒会長に基樹、副会長にはその彼女である美奈。そして会計には……。
「……ミーシェ、何故お前が、会計の席に座っている?」
そう、剣術神祖のミーシェは会計の席に座っているのだ。
……フォルノスはてっきり『庶務あたりについているだろうな』だと思っていたのに。
別にフォルノスは別の役職をバカにする意図はないのだが、普段ボーっとしていて何を考えているのかよくわからない上に、剣を振ることしかわからんミーシェとなると、庶務くらいしか務まらないと思っていたのである。
だが、会計である。
もちろん、双方の学校はキャッシュレスだって進んでいるし、実際に現金をうまく動かすというよりは、数字を割り振ったり、それが正しく運用されているのかを見るところだろう。
「会計だから、金庫番。私のような強い存在がいた方が安全」
「……」
会計の仕事をどれほど物騒なものだと思っているのだろうか。
まあ、魔戦士学校ということでいろいろ思うところはあるのかもしれないが、そこまで血気盛んというわけでもないよ?だって自分で稼げるのが魔戦士だからね?
「まあそれはともかく、話し合いに来たんだろ?とりあえずそっちに話題に移ろうか」
「ああ。そうだな。で、国枝。任せたぞ」
「丸投げかよ……」
「国枝。安心しろ。うちのミーシェも金の話をする気はほぼないからな」
「「……」」
国枝と牧人は頭痛が痛くなった。
「あ、あはは……まあ、神祖だし、日本の学校の制度に関しては分からない部分もあるよ。うん」
「そう、その通り。これから知っていけばいい。というわけで、私のことはほぼ無視してくれて構わない」
「まあ、私もそこまで話すことはないな」
美奈のフォローに乗っかるようにミーシェとフォルノスが頷くが……フォローした美奈を含め、全員が『それを免罪符とするのは無理があんだろ』と思った。
★
「む!聡子お母さんですね!」
さて、ホテルでは残りのメンバーが話し合っていた。
なお、どちらも庶務と広報と書記は三人組のような構成なので、何となくで話し合っているようだ。
というわけで、生徒会には関係ないが、特別参加枠を新しく作って入ってきた椿と、黒瀬聡子は話している。
聡子は天窓学園の元生徒会長。
アトムと同格の『頂上会議』の席にも座るほどの女性であり、学生という身分ではあるが、普段から制服ではなく着物を着ている。
あふれでる母性のような外見と雰囲気を十八歳ながら醸し出すほどで、椿が『お母さん』と呼んでいるように、『お姉さんではなくお母さんと呼んでくださいね』と普段から言っているほどだ。
実際そこまで違和感はないので、みんなそう呼んでいる。
「フフフ。かわいい子ですねぇ」
聡子は椿の頭を撫でている。
椿は気持ちよさそうにしている。
基本的に誰に触られたとしても不快感を感じるような性格ではない。
聡子のようなお母さんに撫でられるのはいい気持ちになるのだ。
「えへへ。私は今回チーム戦に参加しますからね!聡子お母さんにも負けませんよ!」
「どこからでもかかってらっしゃい」
フフンと胸を張る聡子。
水色の着物に包まれた大きな胸が揺れて、椿の視線がそこに映った。
「あ、それと、最初に言っておくことがありました」
「?」
「こちらの書記と広報と庶務ですが、今回のチーム戦では参加しませんよ」
「!?」
椿。びっくり!
「その理由ですが、私が参加すると、あの三人が機能しないのですよ」
「?」
「私の力は、『母性が足りない人』に対して特攻ともいえる性能があるのですよ。あの三人はとある事情で、母親からあまり良い感情を与えられないのです。その状態で私が力を使ってしまうと、あの三人が機能しないので、お留守番をすることになりました」
「へぇ……でも、大丈夫なんですか?」
「私がよーしよーしと頭を撫でたら聞いてくれましたよ?」
「なるほどです!」
……まあ、頂上会議のような『日本の魔法社会を決める会議』の席に座るような人間なので、清濁併せ吞むというよりはいろいろわかっているはずだが、高志や来夏とは別系統の『確信犯』である。
もちろん、母親のような愛情というものは実際に存在するのだろう。
きっと腹黒いけどね。
「ただ、椿ちゃんはあまり効かなさそうですねぇ」
「?」
首をかしげる椿。
確かに、椿の母親は風香である。
そもそも椿自身の自己主張が激しいし、おそらく未来の風香なら『余裕』はあるだろう。
椿の内側から発揮されるエネルギーを全て受け止めて、しっかり応えることができるほどの精神力が宿っているはずだ。
聡子は母性に溢れているが、『母』ではない。自称はするけどね。
そういう状態では、『母性』を軸とする聡子の力は通用しづらいだろう。
「……むふふ。今からとても楽しみです!」
「私も楽しみですよ。お互いに頑張りましょうね」
頭をなでている聡子。
椿は『えへへ♪』と気持ちよさそうにしている。
……調教が進んでいるのだろうか。




