第八十五話
「そういえば……ルーカスっていつ寝てるんだ?」
「『不眠』のスキルを持っているので、寝なくても大丈夫です!」
とのことなので。
全力でベッドに放り込むために頭をひねる秀星だった。
「なかなかすごい人間もいたものですね。秀星様」
「流石に不憫すぎるからな」
「とはいえ、レシピブックを引っ張り出すほどのものなのでしょうか」
「いや、しらんけど」
秀星は現在、『万物加工のレシピブック』をみてベッドの項目を見ていた。
「まあなんていうか……俺もさ。エリクサーブラッドの影響で睡眠の必要がなくなったけど、ルーカスが言うのとでは重みが違うだろ」
「世界中のすべての人間がルーカス様の方を向くでしょうね」
「そういうわけだ……いやちょっと悲しいけどさ。思いっきりぐっすり眠るのはいいことだろ」
「……」
「……」
思い返してみれば、秀星もセフィアも、睡眠を必要としない。
秀星の場合はエリクサーブラッドの影響で体力が自動的に補完され、そもそも人間ではないセフィアに睡眠という情報があっても大した差はない。
「今はルーカスのことを考えようか」
「そうですね」
少し悲しくなってきたので話題変換する二人。
秀星のページがある部分で止まった。
「なんだこれ。『堕落神ラターグの特注品』っていうのがあるんだけど」
「ベッドと布団と枕のセットですね。高次元に存在する神々の中でも『最高神』の一柱である『堕落神ラターグ』様が用いる寝具のことです」
「……世も末だな」
「あえて否定はしません」
「ところで、神器を作ったのは……」
「すべて、『創造神ゼツヤ』様がお作りになられました。下位神ですね」
「……」
何かが複雑になってきた秀星だったが、もういいと思うことにした。
「このベッドがあればルーカスを寝かしつけることができるということだな」
「寝ようとしない赤ん坊に悩む親みたいな言い方ですね」
「まあ、たまにはそんな感じでもいいじゃないか」
というわけで……。
作成開始!
「うーわ、使う素材がエグすぎるだろ」
「最高神が使うベッドですよ。安くはありません」
「でもグータラなんだよな」
「グータラですね」
作るための素材の収集難易度の高さに愕然としたり。
「なあ、これってどうやってノコギリできるんだ?明らかに幽霊みたいな物質なんだけど」
「頑張ってください」
「よしわかった。おりゃあああああ!」
「本当に頑張っただけで解決するところは秀星様らしいですね」
加工方法がそもそもわからん素材を気合でどうにかしていったり。
「……なあ、ミシンとかないのか?」
「ありません。手編みで頑張ってください」
「ベッドの骨組み作るのはあんなに楽だったのに……」
「そもそも、天界にミシンがあったら雰囲気を壊してしまいますよ」
「だよなぁ」
「まあ本当はありますけど」
「おいコラア!」
道具の地味さを嘆いていたら実は……みたいな、精神を直接殴りに来ているかのような状況になったり。
「やっとできた!」
「それで、どうやってベッドに放り込むのですか?」
「……」
出来上がったあとでノープランだったことに気がついたり。
まあ、秀星らしいすっとぼけた部分が多いことはもうすでに言い逃れの余地はないが、ベッドは完成した。
ベッドはな。
「どうやって寝かせようか……もう強制連行でいいかな」
「最後の最後で……いえ、最初から最後まで適当ですね。秀星様」
基本適当な男にとって、優秀なメイドの存在は時に辛いものである。
辛辣。という意味で。