第八十二話
皆さんは運動会の練習で、すごい数の生徒が校庭でいろいろやっていた。と言うことがあるだろうか。
沖野宮高校は普通科高校であり、これといった特徴はない。魔戦士が多いということを考えるとそれが特徴ともいえるかもしれないがそれはいいとしよう。
今重要なのは、それ相応の人数が校庭に集まるということだ。
確かに、運動会の練習だからと言って全員が真面目にしている訳ではないし、サボっている人もいるだろうから、そう言った生徒は使うスペースは広くはない。
とはいえ、一人一人がそれなりにスペースを使うのだ。
……もうそろそろ何がいいたいのかわかってきた人も多いかもしれないので、ぶっちゃけよう。
すごく『狭い』のだ。
圧倒的にスペースが足りない。
「すごくカオスなことになったな……」
いたるところで火柱が上がり、氷塊が出現し、雷が落ちて、竜巻が巻き込んで行き、濁流が押し寄せ、毒があふれ出す校庭。
そこまで聞くとただの世紀末だが、そのほとんどは演武のようなものだ。
校舎に影響はない。というか、あると判断すればやらない。
とはいえ、なかなか壮絶だった。
「凄まじい光景だな」
秀星が屋上で見学していると、宗一郎が英里を連れて上がってきていた。
相変わらず英里はアタッシュケースを持っている。
一体何が入っているのやら。
「……まあでも、本当にやばい魔獣島にいけば、こんな感じだからな」
「それもそうだが、別にそれは今考えるようなことでないだろう」
「それもそうですけどね」
校庭のあちこちで、イリーガル・ドラゴンのメンバーが沖野宮高校の生徒に教えているようだ。
「本来は合同訓練なんだが……」
「まあ、場所代くらいは講義で返す。ということだろう。校長は金のほうが欲しかったようだがな」
「そうなのか?」
「この学校の校長は魔戦士ではない。魔法社会を知ってはいるがな」
「校長先生の息子は魔戦士です。現在、魔戦士育成専門学校に通っています」
「……そんな学校があるのか」
「ある。まあ、日本では三つしかないがな。そもそも、羽計はその学校から転校してきているぞ」
そんなつながりがあったのか。
「私も、その学校の校長からスカウトが来たが、即座に蹴ってやった」
「なにか悪い部分でもあったのか?」
「選民主義というか……魔戦士以外の人間の過小評価を露骨にやっているようなところだ」
なるほど。
「まあそれはいい。ただ……明らかに狭いな」
「普通科高校の校庭だもんなぁ」
窮屈だ。
魔法の演舞だけをやっているわけではないし、大規模な魔法はそれなりにスペースが必要だ。
しかも、いろんなものを見ようと移動する生徒たちが多いので、離れた位置にあるものを見ようとすればそれで人の移動が発生。
結果的に渋滞である。
「まあでも、間近で見られるのはいいことか」
「そうですね。彼らも本気を出していないでしょうし」
英里がつぶやいたように、彼らは本気など全く出していない。
出す意味がないということもあるが、そもそも彼らが本気を出したら校舎が危ないし、そうなると、規模的に隠しきれなくなる可能性だって十分にある。
九重市に存在するマスコミのほとんどは魔法社会とは関係のない者たちだ。
そういった者たちにバレると面倒なことになる。
「まあ、細かい部分は私が考えることだ」
「会長が対応するのですか?不安ですね」
「そういうことを即答するのやめてくれない?」
宗一郎……。
評価が極端に低いわけではない。
単純に、評価できるところとできないところの差が激しいのだ。
「まあ、それはいいとしよう」
諦めるなよ会長。
「ルーカスはどこだ?先程から姿を見かけないのだが……」
「あそこ」
秀星が指さした先に、確かにいた。
来夏が思いっきり抱きしめていたが。
というか反対側から雫が抱きしめていてサンドイッチ状態だが。
「あれは何をやっているんだ?」
「来夏はあれでも母親だからな。ルーカスの境遇になにか感じるんだろ。雫もまぁ……思うところがあるんだろうな」
十年もの間地下に閉じ込められていた雫。
彼女も確かに不幸だったが、それでも、助けられた。
だから、自分も何かを与えたいのだ。
「ただ、病弱で体力がないと言ってたな。窒息するんじゃないか?」
「会長。すでに手遅れのようです」
ルーカスはパタリと倒れた。
慌てる来夏と雫。
さらに、心臓マッサージを始めようとする来夏。
いや、君がやると骨まで砕いてしまう可能性があるから止めておきなさい。
「本当にマジで何やってんだか……」
秀星は呆れた様子で屋上を後にするのだった。