第八百十七話
「ずずっ……このラーメンおいしいですね!」
「椿ちゃん。何を食べてもおいしいって言っとるぞ……」
居酒屋に突撃した椿と標。
かなりこじんまりとした内装で、どうやら運営しているのはセフィコットのようだが、インテリアは本格的だったので椿は感激した。
というわけで、標に会う前に呟いていた高カロリーシリーズを片っ端から頼んでお腹の中に納めていく。
……ていうか本当にこの小さな体のどこに入っているのだろうか。
「げふっ……あ、そうでした。標さん。この『有料メニュー』ってなんですか?」
メニュー欄を見ると、ほぼ全てが無料である。
メインになりそうなものからシメに使えそうなおにぎりや小さな茶碗に盛られたご飯など、ほかにもさまざまだが、全てにおいて『無料!』と表示されているのだ。
バクバクモリモリと食べていた椿だが、メニューの下に映る『有料メニュー』の欄が気になっていたようだ。
ちなみに、無料メニューは文字だけだが、有料メニューはイラスト付きである。
「ん?ああ、それか。このイベント中に『スコア』を稼いでおるじゃろ?このイベントにおいては最終的にイベントの順位を決める重要なものじゃ。ただ、こうした店でスコアを使って有料メニューを注文することもできるのじゃ」
「なるほど!……でも、居酒屋で使う人っているんですか?」
「有料メニューを食べておくと、『特典カプセル』がもらえるのじゃ。カプセルの中には暗証番号が入っておる。これをスマホに入力すると、特典が発生するのじゃ」
「どんなものがあるんですか?」
「スマホに新機能が追加されたり、誰かを倒したときにスコア獲得にボーナスが付いたりと、まあいろいろじゃな」
「なるほど、それなら……片っ端から頼みましょう!」
標はコケそうになった。
「……椿ちゃん。本当にお腹は大丈夫なのかのう……」
標は試しに椿のお腹を触ってみる。
……なんだかプニプニしている。
大量に食べているのに、あまり膨れているようには見えない。
(これは……余分なものが魔力にでも変換されておるのか?)
そういう技術があることを知っている標。
中には『無駄な脂肪を魔力に変換するスキル』という世の中の女性を全員敵に回しそうなものまであるのだ。別に食べて余分と判断したものを魔力に変換する程度なら別に不思議なことはない。
ただ、椿がそれを使っていることを自覚しているようには見えないのが標の悩みポイントである。
……まあ、追求したら最終的に『ギャグ補正の力でどうにかなってる!』と言われてしまうので、そうなると答えが見えてこなくなるので議論することに意味はない。
「ふむ、不思議なお腹じゃな」
「有料は別腹ですからね!」
「初めて聞いたぞ」
確かに。
「というか、標さんも結構飲んでますよね」
「酒は別腹じゃ」
お二人とも、『別腹』を便利な言葉だと勘違いしてない?
「ええと、私のスコアは……五万ポイントですね!」
「……ワシ、四万しか稼げてなかったのじゃがな」
どうやらお腹いっぱい食べまくって時々戦っていた椿の方が稼げているらしい。
ちょっとゲームバランスが悪くないだろうか。と思わなくもないが、参加人数がそう多くない上に遭遇戦なので、数多くのスコアイベントを用意しておかないと安いポイント数で勝敗が決する。
そのため、純粋に戦うことばかり考えている人よりも、イベントそのものを楽しむことを考えている椿がかなりポイントを稼げているのだ。
ちなみに、『懸賞スコア』というものが全員に設定されており、強い人を倒すとその分多く溜まる。
風香が戦っているようなレベルになると、一人倒せば十万や二十万は稼げるバランスぶっ壊れ具合なのだが、まあここで言っても仕方がない。
なお、椿の懸賞スコアは『66000』で、標の懸賞スコアは『152000』である。
倍以上の開きがある上に椿が少々低い気がするが、椿は弱くはないが倒すということそのものに意識を全て割ける精神構造をしていないので、戦闘においては精神的な強さで他者にやや劣るのである。
まあちょっと頭おかしい外れ値を除くと平均が大体三万くらいなので、それを比べると椿はものすごく強いのだが。
「有料メニューは結構高額に設定されてますね」
「スコアは思ったより手に入りやすい設定じゃからな」
派手に稼いで派手に使う。となった場合、内容はそのままでも数字だけがインフレするのが経済というものだ。
「でも全部食べられますね!」
「本当に全部使う気か!?」
「ぶっちゃけ、イベントで上位になったらもらえるものって、自分でどうにかできそうですからね!」
魔法省がイベントの上位者に用意しているのは、金銭とクーポンだ。
だが現実をぶっちゃけてしまうと、参加者の中でも上位は総じてお金は自分で稼げるし、そしてお金が稼げるということは様々なサービスを利用できるので、ぶっちゃけそこまでいらないのである。
それならば、イベントの間でしか楽しめないサービスに突っ込んだ方が、得や損というより『有意義』なのだ。
とはいえ、それでもイベントスタジアムの中で『激戦区』のようなものは必然的に出来上がっており、それぞれが戦っているわけだが、椿には遠い話だ。あとで行こうとは思ってるけど。
「というわけで、いただきます!」
……なお、居酒屋というものは基本的に『定番メニュー』というものがある。
原価率が高いメニューもいくつかあるが、これらを使って客が安心して食べられるメニューを用意することで客単価を上げて、原価率が低いメニューで稼ぐ。
そして店独自のメニューに関しては、原価率が低い場合は稼ぐメニューだが、原価率が高いものに関しては『店に呼び込むメニュー』となる。
この居酒屋はイベント専用に組まれたもので、基本的に採算度外視で何も問題がない。
セフィコットが運営しているということは、言い換えれば秀星がかかわっているのと同じであり、かなり主催側としても低コストで作られている。
そして採算度外視ということは、店独自のメニューが大量の置かれていても何の問題もないということだ。
有料メニューの中にはその『店独自のメニュー』が多数存在する。
「むふふ~♪どれもおいしそうですね!」
そしてセフィコットが運営する居酒屋の特徴。
注文してから料理が出てくるのがめっちゃ早い。
次々と並べられて、椿の顔が幸せでいっぱいになる。
「いただきまーす!」
ガツガツモリモリと食べ始める椿。
「……すごいのう」
でかいジョッキにビールをなみなみ注いでがぶ飲みする標は、ただそれだけを呟いた。
……人のこと言えますかね?




