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第八百十四話

「はぁ……」

「どうしたんだ?アトム。溜息なんて珍しいな」


 安全管理委員会本部。

 秀星の仕事部屋で、秀星がメールを自動返信するシステムを作って暇になったのだが、その暇になった秀星と喋るためだろうか。アトムがやってきた。

 ただ、アトムの第一声は言葉ではなく溜息である。


「いや、なんというか……なぜ私はあの二人を呼んでしまったのかと疑問を感じてね」

「父さんと来夏だよな。まあ確かになんで呼んじゃったのって思うところはあるけど、でもあの二人がいないとできない面白さっていうのもあるだろ」

「それはそうなんだが……私の方に『なんなんだあれは』というメールが殺到していてね」

「その対応数がえぐくて困ってるわけか。本当になんで呼んだんだよ」

「……生放送ならある程度自重するだろうと思っていた時期が私にもあった」


 見事に裏切られたが、どうやらアトムもギャグ補正というものはいまいちわからない部分が多いようだ。

 当然である。

 ただ実際のところ、本当にその手のメールが殺到しているのだ。

 確かにイベントとはいえ、そこらにあるビルをまとめて倒壊させている姿を『実際に』見て、何も思わない人間などいない。

 確かに強いのは分かるのだが、それと同時に理解ができないのである。

 その秘密に迫ろうとしたり、『あんな奴が野放しにされていていいのか?』という疑問を持つものが出てきても不思議なことは何もないのだ。


 ……まあ秘密といっても『ギャグ補正』としか言えないし、野放し云々は一応倫理観はあるからとしか言いようがない。

 悪いことをやっていないのか、それとも悪いことがばれていないのかは不明だが、現状、あの二人を拘束しておくことなどどの組織にもほぼ不可能だ。

 ありとあらゆる拘束具は通用せず、どれほど頑丈に建物を作ったとしても、最終的には砕いて出ていくだろう。その際には『この壁、砕けたら出て行ってもいい?』と最初に言った後で散々煽りまくって、そして悠然と出ていくに決まっている。たちが悪い。


「問題があるとすれば、あの二人が今回よばれた魔戦士の中で『トップレベル』に位置するということだな。別に、ビルを破壊することくらいなら、他の参加者にもできるだろう。実際にできそうな神器を持っているものはいる。ただ……あの二人は簡単にビルを素手で壊すからね。最強の魔戦士という風潮であの二人が認定されると、ちょっとこちらとしてはかなりアレな感じだよ……」

「……まあ、父さんと来夏がいくら暴れても、魔法省の公式サイトにおける最強枠が俺であることに変更はないんだし、そこは問題ないと思うが……まあでも、今回俺呼ばれてないからな。生で俺の強さを見る奴がいない以上、強さに対して懐疑的になるやつは多いか」

「ああ。それに君。他の参加者を簡単に倒せるだろう。その……表現としては『圧倒的』というよりは『鮮やか』といったところかな」


 実際、秀星の動きには基本的に無駄はない。

 アルテマセンスに加えて、多種多様な要素を自分にのせているため、本当の意味で無駄はないのだ。


「ああ……ただそういうのって、強いのは分かってもインパクトに欠けるからな」

「その通りだ。もちろん君もその気になれば『圧倒的』といえる戦術を取れるだろうけど、それはそれで……スタジアムでは面積が足りないだろう」

「どこまで派手なことをさせる気なんだ……」


 秀星だって手段を選ばないわけではない。

 当然スタジアムの面積に合わせた攻撃だってできる。


「だが、それを最初からする気にはならないのが君だ」

「そうだな」


 基本的にスロースタートである。

 しかも、神々との戦いを想定した戦術を頭の中でぐるぐる考えているせいか、無駄に出力が高い攻撃というものを嫌うのだ。

 その無駄な出力にリソースを割いてできた隙をつかれるなど、神々の戦いでは初心者のやり方である。


「それもあって君を安全管理委員会の方に呼んだのさ。ただ……本当になんであの二人は呼んだんだろうなぁ……」


 溜息をもう一度吐くアトム。


「まあ、愚痴なら聞くから頑張れ」

「頑張らせてもらおう……」


 アトムは椅子から立ち上がって部屋を出ていった。

 その背中を見た後、秀星は思う。


(……まあ、父さんと来夏が生放送如きで自重するわけないわな……ドンマイ。アトム)

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