第八十一話
ルーカスの不幸体質にはかなり驚いたが、だからといって訓練を中止するわけにはいかないので、元マスであるローガンは隅の方においておくことにして訓練は開始された。
とてもじゃない校庭でするような規模には見えないことだっていろいろやっている。
ただ、できる限りのローリスク、ハイリターンを求める内容だった。
特訓用にいろいろと機材も用意しているし、揃えて、整えて、そして研究されている。
ルーカスがチームを見回って確認し、たまに体力回復剤と精神安定剤を服用しながら来夏の話を聞いて、活かしていく。
いや、活かしていくことができればいいのだが、来夏は視えているが基本的に感覚派であり、参考になるかと言われると無謀だ。
アレシアが補足しているのでなんとかなっていると思うし、たまに秀星も呼ばれる。
ちなみに、秀星は特訓するのではなく、特訓したメンバーの相手をしていた。
秀星が強くなる場合、必要なのは特訓というより発見である。
銃の魔装具、などというものは異世界にもなかったものなので、アメリカのチームと対戦することでなにかあると思ったからだ。
まあ、結局何もなかったわけだが。
ちなみに、なぜイリーガル・ドラゴンがコストを抑えて特訓しているのかをルーカスに聞いてみたところ、ローガンの浪費癖に加えて、彼の親族の借金の名義がイリーガル・ドラゴンで登録されていること、装備が高価であり、消耗品に関しても高額なので、戦うだけでも金がかかること、などなど、『マスターランクだし、維持費もかかるんだろうな』と思うと同時に、『ローガン、一体何を考えているんだ?』と思い直した秀星である。
ローガンは交遊費に金を使うタイプだ。
別にそれそのものは悪いわけではない。
剣の精鋭のように、必要なものが少ないうえに自分たちで調達できる。というのは、本来なら理想形を超えた形なのだ。
『大きく使って大きく稼ぐ』というのはそういうものなのである。
ただ、ローガンはこの額が大きすぎるのだ。
しかも、チームの金と自分の金の区別がつかないので、使うことに躊躇がない。
周辺の人に対して使う金が多いので、限られた人間関係の維持に関しては出来ているのだが、先のことが読めないのは痛い。
何故そこまでしているのに追放できないのか。と聞いてみると、『その周辺組織の重鎮が彼の両親、親族が関わっていますし、僕もイリーガル・ドラゴンのマスターの候補になれましたけど、抱えているものが大きいので説得力がないんですよね』とのこと。
あと、交遊費に金を使いまくっているので、当然ながら、その周辺組織は一定以上の金額を求めてくるようになる。
一ヶ月前と比べて倍以上になっているそうだ。
不憫なものである。
なお、一ヶ月前まではまだ良いリーダーがいたそうだが、ローガンが入ってきてから狂い始めて来たようだ。
あと、今回連れてきたメンバー以外にも当然ながらメンバーはいる。
今回は比較的、ルーカスを心配してくれるメンバーを連れてきたそうだ。
そういったメンバーでまとまって行動することも増えてきているらしい。
『もういっそのこと、そのメンバーでまとめて抜けたらいいんじゃないか?』と言ってみたところ、『僕の周辺のメンバーでもそういう人は多いですけど、維持費や今まで使っていたコネを考えると無理ですね』だそうだ。
不憫なものである。
あと、ルーカスは来夏の浪費癖が高い割にそれなりに金額を抑えていることに対して感激していた。
……来夏の場合はアレシアが怖いだけだと秀星は思ったのだが、それは言わないことにした。