第八話
明日の朝七時に一本更新。
そこからは毎朝七時の予定です。
放課後。
自宅のリビングでぐったりしていると、セフィアがピクッと動いた。
どうしたのかと秀星は思ったが、セフィアがテーブルに茶菓子をおいて説明してきた。
「秀星様。校舎の屋上に、八代風香と御剣羽計が出てきました」
「あ、早速?」
「はい、早速です」
「偵察機は?」
「既に飛ばしています」
秀星は指を鳴らすと、ウィンドウが出現した。
ウィンドウには、まさにその状況が撮影されている。
(はっきり言って盗撮なんだが、まあ、いいや。うん)
プライバシーなど、神器の前では無力。
「それにしても、あの屋上、良く利用されるな……」
「それについても調べておきました。どうやら、『認識阻害』の結界があるようです」
「認識阻害?」
「無意識にその場所についての認識を避けるのです。屋上は日常生活で何度も思いだす場所ではありません。結果的に、魔法社会に関係のない人間は、意図的に避けるようにできています」
「俺、全然気が付かなかったけど」
「秀星様にそんじょそこらの状態異常は通用しませんから」
「それもそうか」
確認は終了。見ることにした。
『最初に聞こう。魔法社会における私のことは知っているな』
疑問ではなく確認である。
『もちろん、評議会プラチナランクの討伐チーム『剣の精鋭』のエースでしょ?』
そう言った組織があるようだ。
とはいえ、諜報だけで生きている場所ではないだろう。
しかし、近接的な組織名だと秀星は感じた。
『本来、私たちは戦闘組織だが、私は特例として、評議会における諜報部員の権限が一部与えられている。その上で質問するが、貴様の家に来たメイド。そいつについて何か知っていることはないか?』
『私は特になにも。ただ、すごい主人がいるってことが推測できているだけだよ』
それはどうも。と秀星は内心でつぶやく。
秀星と言えど、すごい主人と言われていやなわけがない。
『……まあ、その線は上も気にしていない。ところで、この学校で、最近変わったことはないか?』
『変わったこと?』
『小さなことでもいいぞ』
『……あ、そう言えば、ある日を境に、急に魔力が増えている人がいた』
『誰だ?』
『朝森秀星君だよ』
リビングに沈黙が訪れる。
いや、元々静かだが、気温が下がったような雰囲気だ。
秀星は滝のような汗を流した。
「秀星様……」
「何も言うな」
「はい」
話を聞こう。
判断はそれからだ。
そんな風に逃避思考になった秀星。
『そいつが魔力社会にかかわっている可能性は?』
『八代家でも、ちょっと調べたみたいだけど、両親がいないことを除いて、本当に普通だって言ってたよ』
秀星は溜息を吐く。
(誰が『本当に普通』だ。人をモブ見たいに言いやがって)
人と言うのは本人がいないところでは言いたい放題になるものである。
『朝森秀星か……私も聞いたことはないな。魔力が多くなったというが、どの程度だ?』
『魔力社会に関わっていない人と同じくらいだったけど、多分、私より多いと思う』
『ほう、魔力量の項目でAランクに認定された貴様より多いとはな』
そういう評価が存在するらしい。
ただ、最大がAと言う感じではなさそうだが。
『表社会においておくには惜しい人材だな』
『あの……そんな急激に増えることってあるの?』
『前例がないわけではない。とは言え、魔法社会に直接的にかかわってしまった結果というだけで、何もなしにそこまで上がるというのは珍しいことだがな』
そもそも、と言う話なのだが……。
(魔法社会って言うか……異世界に行ったんだけどな……)
秀星は遠い目をした。
『他にはないのか?』
『私は知らないよ』
『ふむ……この学校のものではない可能性が高いな』
チラッとセフィアを見ると、笑いをこらえていた。
気持ちは分かるがやめなさい。と思った秀星だが、あえて何も言わない。
『ところで、貴様はあの日、何処に向かおうとしていた?』
『え?』
『いや、貴様の実家に送られた資料を確認したところ、隷属魔法にかけられた理由は分かったが、貴様がどこに向かおうとしていたのかが分かっていない』
資料だけを確認していたのであれば、軽いものであろう。
『あの日。私は、『白銀狼マクスウェル』を捕獲しろって、メイガスラボに命令されていたから、そこに向かっていたんだよ』
『ほう……』
『でも、その途中でメイガスラボの本部が壊滅して、隷属魔法が解除されているってわかったから、結局行ってないけど』
『なるほど。そういうことか。ふむ……白銀狼マクスウェルか……』
ただ、風香も羽計も、マクスウェルとなると捕獲するのは困難であることは知っている。
とはいえ、どのみち会ってすらいないのだから、この場で議論することではない。
『まあいい。聞きたいことは聞いた。私は失礼しよう』
羽計は風香に背を向けた。
『評議会は、あなたをこの学校に送りこんで、何をしようとしているの?』
『決まっているだろう。貴様を助け出した者を確保し、戦力に加える予定だ』
秀星をうまいこと手に入れたいわけだ。
秀星としてもそれはいいのだが、人材不足であることを露見しているようなものだろう。
魔力量がAランクとか言っていた。
それほど人材が少ないのだろう。
『私のことは二の次なんだ……』
『当然だ。名家とはいえ、評議会の討伐チームと比べれば、大したものではない。貴様はメイガスラボの運営母体であるカルマギアスから狙われているから、私が送りこまれただけだ。でなければ、私がこのような地方に送りこまれるはずがないだろう』
『そっか』
『不満か?だが、私と貴様の差は明白。話すまでもない。私の邪魔をするなよ』
羽計は歩いていった。
「……偵察機。命令だ。御剣羽計のスマホをハッキングしろ」
『Carry out the order』
偵察機から透明なレーダーが放出され、羽計のスマホに直撃。
様々な情報が0と1で流れているが、そのすべてを、秀星はハッキングしているのだということを理解していた。
そして、テロップが流れる。
『Hacking completed』
秀星はそれを見た後、ウィンドウの右上の『×』を押して、ウィンドウを消した。
「秀星様。どうしますか?」
「まあ、明日にでも接触してきそうだよな……あの様子だと勧誘なのか?いずれにせよ、評議会の言う通りにするつもりはないよ。邪魔をするつもりもないけどさ」
仏の顔も三度というので、さすがに最初から迎撃したりはしないが、何度も来るというのなら容赦はしない。
とはいえ、そういっても異世界ではかかわってきたのだがな。
断らなかったわけではない。
ただ、かかわらざるを得なくなっていたのだ。
世界が、秀星を主人公だと決めつけたかのように。
秀星としては、相互不干渉がいいのだ。
平穏に生きたいのだ。
風香が隷属状態であると知った時は、さすがの秀星も助けることにしたが、そういう事情がなければ秀星とて動こうとは考えなかった。
ただ、セフィアがいる以上、贅沢なものだろう。
主人印を持っているので、セフィアは秀星に奉仕することに対して妥協はしない。
ただ、それ以上のことは必要と言うわけではないし、求めてはいないのだ。
まあ、セフィアのことだ。多少の刺激になることはわざと割り込ませることはあるだろう。
その程度でいいのだが、世の中と言うのは、一人の人間のためにはうまくいかないようにできているのだ。
「そういえば、プラチナランクだとか、『剣の精鋭』だとかいろいろ言っていたが、あれって何だ?」
「評議会は諜報部隊や戦闘部隊など、様々な部隊に分かれています。上から順に、『マスター』『プラチナ』『ゴールド』『シルバー』『ブロンズ』の五つに分かれています」
タブレットをとりだして見せてくる。
【個人】
『マスター』国に三人くらい
『プラチナ』非常に優秀
『ゴールド』優秀
『シルバー』一応正式隊員のようなもの・中堅
『ブロンズ』新米か雑用
【チーム】
『マスター』世界の命運とかそんな感じ
『プラチナ』重要な拠点・任務において指揮をとれる。
『ゴールド』優秀なチーム
『シルバー』そんじょそこらのアレ
「……かなり大雑把な感じだな。ブロンズランクのチームはないのか」
「ありません。厳密には、チームリーダーのランクがかなり反映されます。ブロンズランクのものがチームに入ることはできますが、基本的に、ブロンズランクのものがチームリーダーになることはありません」
「基本なのか?」
「はい」
要するに例外もあるということだろう。
そんじょそこらのアレ未満のチームということになるのだが。
「プラチナランクと言っていたな。ということは、重要な任務を与えられる人材ってことか」
「はい。とは言え、御剣羽計はマスターランクに匹敵すると言われることもあります。カルマギアス。という犯罪組織の影響が大きいのでしょう」
「ふーん……全体の人数は知らないけど、人材不足なのは確かだろうな」
情報操作は得意らしいが、セフィアには通用しない。
セフィアは基本的に、一度に多くは説明しないタイプだ。
(評議会か。いろいろな意味で、大丈夫な組織には見えないけどなぁ)
組織、と言うものを異世界でいろいろ見てきた秀星としては、不安しかない。
「ま、どう出て来るか見てみようじゃないか。たまには後手に回るのも面白いからな」
「いつも後手ではありませんか……」
「いいんだよ。どうせたいしたことないんだし」
余裕の秀星。
とはいえ、どうなってこようと、お灸をすえる実力を持っているのだ。
余裕になるのも当然。
油断するのも当然。
本気になったら世界が危ない。
とはいえ。
すこし、楽しみにしているのも、また事実だった。
人間の思考が矛盾していないことなど、ありはしない。