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第七百八十一話

「とりゃああああああ!」


 ホバーボードに乗ってダンジョンの中を爆走する椿。


 ……神々が何かを暗躍しているとなればダンジョンの中だということは分かっているはずなのだが、余裕である。何故だろうか。

 まあ、そんなことを追求したとしても椿はその手の話は聞くけどすぐに忘れるので置いておくことにするとしよう。


「モンスターを倒すのは楽しいですね!」


 それは構わないが、『神々を名乗る者は主にダンジョンを拠点として活動しているので注意してください』ってニュースでやってないか?多分盛大にやっていると思うよ。


「むふふ♪……あ!」


 ダンジョンの中には採取ポイントが存在する。

 基本的にレンガで構成されているダンジョンだが、たまに岩の壁や槌の床がむき出しになっていることがある。

 そして、むき出しになっているうえで、そこが採取ポイントになっていることがある。

 元々モンスターがいた自然環境がかなり整備されており、一定の組織がそれらのエリアを法的に購入している状況が多くなっているため、ダンジョンの中に存在する採取ポイントを狙って活動する魔戦士も多くなった。

 もちろん、採取ポイント専門ではないからと言って使ってはいけない理由はない。

 椿は薬草を笑顔で採取している。


「……人生、何がそこまで楽しいのかしら」

「む?」


 話しかけられたので後ろを見ると、ひとりの女性が立っていた。

 真っ黒なドレスを身にまとった綺麗な紫色の髪を伸ばした人である。

 はち切れんばかりの胸だが、とても胸元を開いており、しかも下半身は大きくスリットが入ったドレスなのでとても扇情的である。

 正直、ダンジョンに潜るような人間の格好ではない。武器を持っているようにも見えない。


 が、椿が疑うことはない。むしろそっちの方が謎である。


「どちら様ですか?」

「私はリリス。よろしくね。椿ちゃん」

「私のことを知っているんですか?」

「フフフ。結構有名よ?まだ十七歳の朝森秀星の娘ってことでね」

「あ。なるほどです」


 未来から人間がやってくる。ということに対して肯定的な意見を持つかどうかというのはかなり意見が分かれてくるだろう。

 ちなみに、椿はそのあたりの重要性を理解していないようで、誰が周りにいたとしても、秀星をお父さんと呼び、風香をお母さんと呼ぶことに遠慮はない。

 養子という可能性は法的にはない。そもそも養親は成人していなければならないからだ。

 そんな中で魔法関係の話をしていれば、掲示板では『未来から来た?』という話が持ち上がるのは至極当然の流れだろう。

 そして秀星自身もそれを無理に隠そうとはしないし、そもそも椿が隠し通せるような性格ではない。


 秀星は『世界最強の男』ということで話題性抜群の男だ。

 そんな秀星の娘となれば、話題が広がるのは当然だろう。

 『人生楽しいです!』といいたそうなほど満面の笑みではしゃぎまわるロリ巨乳だ。見ていて飽きない。


「むうう、結構このダンジョンには潜っていると思うんですが、リリスさんとは初対面ですね」

「フフフ。最近潜り始めたから当然よ。ちょっと椿ちゃんに頼みがあるんだけど、いいかしら」

「頼み事?」

「これなんだけどね」


 そういって、リリスは黒い渦のようなものを出現させてそこに手を突っ込むと、TCGに使えそうなカードケースを取り出す。

 中身は全く見えない黒い塗装だ。


「知り合いに元魔王の子がいるでしょ?あなたから渡してほしいのよ」

「元魔王?……あ、モトキングさんですね!」


 わざわざそっちで呼ぶ意味はないのだが、これが椿のデフォである。

 リリスは苦笑して、カードケースを椿に渡した。


「むー……これ、中身が全然わからないですね。そもそもつなぎ目がないので開かないと思いますが……」

「大丈夫。モトキングさんに渡したら思い出すと思うわ」

「思い出す?……まあよくわかりませんが、渡しておきますね!」


 そういって笑顔になる椿。

 ……正直、将来詐欺に引っかからないか心配だ。

 まあ、多少の詐欺ならどうということもないだろう。いざとなれば理性などごみ箱に捨てて契約書をビリビリに破けばいい。悪いことはばれなければいい。ばれても逃げれば問題ない。これが朝森高志が朝森家の中で力を伸ばしてきたあたりから出てきた朝森家の家訓である。

 ……ロクなもんじゃない。

 ロクなもんじゃないが、そうであるからこそ何とかなっていけるのは世の中が悪いということにしておこう。その方が心は平穏だ。


「フフッ……!」


 リリスが何かを感じ取ったようで、後ろを振り向く。

 遠くの方から一体のモンスターが迫ってきていた。

 全長十メートルのイノシシのようなモンスターだ。


「にょっ!?この通路が狭いダンジョンであんなモンスターがいるんですか!?」

「初見殺しねぇ。まあ、あまり関係はないけれど」


 リリスは再び黒い渦の中に手を入れて、一個のキューブを取り出す。

 そして、自分の魔力を流し込むと、キューブのスイッチを押した。

 リリスの傍にバリアのようなものが出現。


「む?……神器?」


 リリスが使ったキューブを見て首をかしげる椿。

 イノシシがバリアに突っ込んできて、完全にイノシシを止めた。

 ……イノシシの顔面がめっちゃ潰れてるけど。


「その程度で私には勝てないわよ」


 バリアを解除して拳を振りかぶるリリス。

 日焼けを全くしていない細く白い腕。

 だが、イノシシの鼻っ面に叩き込まれると、イノシシの突撃よりも速いスピードで吹っ飛んでいく。


「うわわわっ!す、すごいですね!」

「あなたにも似たようなことができると思うけど……まあいいわ。こう見えてもお姉さんは鍛えてるからね」


 そういってほほ笑みながら腕を構えるリリス。

 ……細い腕を見る限り鍛えているようには見えない。


「むむ。スレンダーハイパワーですね!」


 初めて聞いたそんな言葉。


「椿ちゃんも頑張ったらなれるわよ」

「はい!頑張ります!」


 あまり変なことを吹き込まないでもらいたい。


「それじゃあ、私はまだダンジョンの奥に用があるから、またね」

「はい!」


 奥に向かって歩いていくリリスが見えなくなるまで手を振って、見えなくなると薬草採取を再開する椿。

 ……もちろん笑顔のままである。

 人生の何がそんなに楽しいのだろう。謎である。

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