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第七十八話

 空気が変わった。

 合同訓練の話が出てきてから、そんなことを思うようになった。


 アメリカ、しかも最高峰のチームがやってくるとなれば、当然その話題性も十分であり、遠目から見るだけでも価値がある。

 アメリカの『イリーガル・ドラゴン』と言えば、毎年、アメリカにおける魔法社会の活動で最大の利益を叩きだしてきた精鋭。

 とてもじゃないが、学校の敷地を借りてそこで特訓を行うようなチームではない。


 認識阻害の結界があり、八代家は日々研究しているので、それらの技術を盗もうと考えている可能性もある。

 オマケではあるがそれはそれなりに重要なのだ。

 人間と言うのは、目と耳で多くの判断をする。

 魔法社会に生きているものなら第六感などを持っていたりするものだが、普通に生活するうえでは鍛えられない領域だ。

 光学迷彩の様な魔法でそれらをごまかし、一定の領域の空気振動を分断することで音漏れを防ぐ。

 それらの要素が無駄なく展開できる認識阻害結界なので、価値はある。


 とはいえ、認識阻害結界の技術を見ることは、決して優先順位としては低くない。

 秀星に接触し、もっている技術や知識を奪い、その上で勧誘することが出来ればいいが、そちらに失敗した場合における次善策のようなものである。

 秀星に対する評価と言うのは、多くの者にとっては『すさまじい』という言葉に尽きる。

 圧倒的なのだが、まだ見せていない部分がたくさんあるからだ。

 そのような存在を相手にする場合、次善策はいくつあっても無駄というわけではない。


「イリーガル・ドラゴンが三十人か……それなりのメンバーもそろっているな」

「会長、一応、彼らはお客様なので粗相のないようにしてくださいね」

「私にそんな配慮ができるとでも?」

「生徒会長としての自覚はあるのですか?」

「偏差値がド平均の普通科高校だぞ。別にそんな感じでいいだろ」


 屋上で言い合う宗一郎と英里。

 相変わらずアタッシュケースをもって宗一郎の一歩後ろで控える英里と、双眼鏡をもってこちらに来る集団を確認している宗一郎。

 ちなみに、宗一郎の言い分だが、良くはない。

 偏差値が高かろうと低かろうと普通だろうと、礼は礼である。

 そこに差はないのだ。


「それにしても、わざわざ遠路はるばる、こんな何もない街に来たものだ」

「周辺には多くのスポットがありますが、嫌味といえるほど九重市には何もありませんからね」

「だからと言って町おこしをするのは面倒だしな……何か作れるものってあるのか?」

「……大型の本屋ですね」

「ネット社会の影に埋もれて店を畳むものが多い中でそんな採算の取れないものは作れんな」

「会長なら自費で全額賄えるのでは?」

「できなくもない……が、時間の無駄だ」


 鼻で溜息を吐く宗一郎。

 とはいえ、何もないということは、静かだということでもある。

 周りとの影響が少ないとも言えるのだが、それは逆に言えば、周りが何か不景気に陥ってもたいしたことにはならないということでもある。

 リーマンショックの際、日本の本州はダメージが大きかったが、他は大したことがなかったこととほぼ同じだ。


「そう言えば、剣の精鋭はすでに全員そろっているのか?」

「すでに校庭にそろっていますよ」

「ほう」

「相変わらずのハーレムパーティーに見えるのでしょうね。校舎の中にいる見学希望の生徒達からすさまじい視線を受けています」

「普段からあんな感じだからな……というか、一人は人妻だよな」

「そうですね」


 来夏は夫も娘もいる。

 はっきりいって手を出したらいろいろな意味でヤバいことになる。

 『秀星は人妻にすら手を出すのか!?』などと言う話が広がったら秀星だって外を歩けないだろう。


「それにしても、相変わらずのハーレムムードだな」


 校庭では既に全員がそろっていて、話をしているようだ。


「そう言えば、ハーレムパーティーだが、色恋だとかそう言う空気が薄い気がするな」

「茅宮雫が好意を持っているのは何となく推測できますが、他はそういうふうには見えないですね」

「遅くないか?もうかなり長い時間を過ごしていると思うんだが……」

「会長、別に彼はハーレムを作るために剣の精鋭に入ったわけではありませんよ」

「ふむ……狙っている訳ではないのか?」

「会長は勘違いしているようなので言っておきますが……自意識過剰な勘違いしている自称主人公は女を誘いに行きます」

「そうだな。容姿にしろ、能力にしろ、それで女を誘いだす男はいる」

「それに対して、真の主人公にはそんな小細工は不必要です。なぜなら、女の方からよって来ますし、日常生活で片手間にフラグを立てまくるのです。しかも無意識ですよ無意識」

「反則だろ」

「常識です」


 常識であるかどうかは定かではないが、少なくとも知らないわけではないし納得できないわけでもない。


「まあ、話を戻そう」

「会長がつらくなってきただけなのでは?」

「……イリーガル・ドラゴンが今回、何か裏を考えていると思うか?」


 英里は『スルースキルがあったのか。意外』みたいな表情をした後、疑問に答える。


「というより……裏のない接触は逆に危険ですよ。そもそも、『自分たちが気を使うから相手も気を使う』などというのはあり得ません。ガキの使いじゃあるまいし……」

「……何かあったような言い分だが、言われてみればその通りか」


 宗一郎はもう一度、こちらに来るイリーガル・ドラゴンのメンバーを見る。


「虎の尾に触れるのか、逆鱗を踏むのか……しっかり見張る必要があるな」

「逆です。会長」


 締まらないのは、この男もかわらないのであった。

 というか、虎の尾に触れるのはまだいい。

 逆鱗を踏むとか、怖すぎる。

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