第七百七十三話
正直戦っている最中だというのに話し込んでいる椿だが、戦力として期待されていないわけではないにしても前線で戦うようなものはない。
そして、ついに立ち上がって戦っているのがユウギリだけになってしまった。
見てわかるほど『うそやろ』と言いたそうな顔だったが、現実は非情である。
「……ハッ!確か、爆弾を仕掛けさせていたはず!」
「私が回収しているぞ」
宗一郎が出てきて、水槽に入れられた爆弾たちを見せられる。
ユウギリの顔はさらに『えー……』となったが、秀星たちは攻められている側なので(被害ゼロで撃退中ではあるが)容赦はない。そんなことをするほど優しい人はいない。
……いるか?……いや、いないな(確認)。
「ま、まさか、天界で懸念されていた朝森秀星本人ではなく、その周辺にいる者たちだけでもこれほど強いとは……」
「いや、安心しろ。俺以外のここにいる全員が束になってもお前に勝てないからな。お前は強いから安心していいぞ」
秀星がフォローする。
全員が『本当か?』という表情になったが、秀星は『本当だ』といった様子で全員の方を見てうなずいた。
「……む?懸念されてるってどういうことですか?」
椿の素朴な疑問である。
「朝森秀星。貴様には懸賞金がかけられているのだ!」
「えっ!お父さんはお尋ね者なんですか!?」
「ちょっと待て、まだ悪いことバレてないぞ!」
「秀星君。それ自白……」
家族総出でネタに走っているのでユウギリのほうが面倒になってきた。
「……いや、別にお尋ね者というわけではない」
そういって一枚の紙を見せてくる。
そこには、高校に入学するときに撮影したクソ下手な自撮り写真の秀星が写っていた。
「なんでわざわざそれ使うんだよ!他にあんだろ!」
「写真部が言うには隙がなかったそうだ」
「サーセン。あとで写真を送るからそれに変更しておいてくれない」
で、肝心の額だが……。
紙の下側には『Unlimited Reward』と書かれている。
「お父さん。あれってどういう意味ですか?」
「え、椿ちゃんあれ見えるの?」
視力が高くないと、離れた位置で相手が持っている紙の内容などわからない。
『なぜ自己紹介一回で相手の名前を覚えられるのか』と並んで議論されるにふさわしいフィクションの謎である。ここでは追求しないが。
「まあ……『コイツに勝ったらいくらでもあげますよ』といったところだろうな」
宗一郎が説明する。
「え、いくらでもですか!?」
椿が驚愕。
まあもちろん、誰が出しているかにもよるのだが、それはそれとしよう。
「貴様を討伐すれば、莫大な資金が手に入るが……甘くはなかったか」
当たり前だ。簡単に倒せるわけがないだろう。
「で、どうするんだ?ダラダラ戦いたいっていうのなら付き合ってやるぞ。お前を今から封印とか面倒だしな」
「……天界に帰るとしよう」
結果的にお家に帰ることになった。
「天界に帰ってやっていけるとは思えないけどなぁ……あ、倒したやつ全員拾って帰ってね。神々に対する法律とか全然できてないからさ。抱えておくのも面倒なんだよ」
「……良いだろう」
外交神と言っていたが簡単に丸め込まれているユウギリ。
ユウギリや秀星はともかく、他の生徒たちはそれでいいのか。と思わなくもないが、神々が相手のときは最も対応できるのが秀星である。
この場の対応として秀星がお家に帰ってもらう結果を出したのなら、それに従うというのが生徒たちのやり方である。
これはこの場で決めたことではなく、アトムが直々に決めたことだ。
「全員を拾って帰ろう。ごっつ面倒だが」
でしょうね。
まあ帰るときではなく帰ったあとは面倒だろう。
だが、そこを気にする必要は毛頭ないので、秀星はお帰り願うことにした。
加減はあっても慈悲はない。




