第七百七十二話
神々との戦いが始まって、まだ十数分といったところだが、神々のほうが『いやちょっと待って。人間強くない?』となるような戦いになっている。
もちろん、神々と実際に戦える生徒はそう多いわけではない。当然だ。そこまで地球は地獄絵図ではない。
ただし、避難しているわけではないが、何をしているのかわからない生徒もいる。
「……!……!……!」
バッバッバッ!と首を左右にふって何に注目すべきなのかほぼわかっていない椿である。
「……皆さんすごいですね!」
そして結果的にそういうことを言うまではデフォルトである。
風香に付いてきたはずの椿だが、その風香は今は空中で風をまといながら神々を相手にチャンバラ中である。
時々チラチラと風香の制服のミニスカの奥のパンツが見えそうになるが、風香が風で制御しているかのようにミニスカの位置が調節されて中が見えない。
「……む?」
セフィコットが椿の下で手を振っている。
「どうしたんですか?」
椿はしゃがみこんだ。
そして、セフィコットはタブレットを見せる。
発声器官を持たないセフィコットにコミュニケーション方法は基本的にタブレットを使った筆談のようなものである。
「え、未来のお母さんのパンツですか?」
何を聞こうとしているのだろうか。このメイド。
仮にそれが重要であるとして、なぜ今なのだろうか。
……まあ、本音を言えば椿が暇そうだったから。といったところだろう。
どこに行けばいいのかわからずキョロキョロしているだけのお子さんがどれほど忙しいのかなど語るまでもない。
「うーん。たまに私のパンツをはいてますね」
ブフっと吹き出すセフィコット。
二児の母親が長女の下着を使用する。
まあ、それが悪いというわけではないが、まさか暴露されているとは夢にも思うまい。
「でも基本的にパンツはおかあさんといっしょに買いに行きますよ。セフィアさんからもらうこともありますけどね」
なるほど。
朝森家のパンツ事情に少なからず関わっているようだ。メイドゆえ当然のことである。
星乃は知らんが。
「でも私の胸が大きくなってきてブラを買いに行くときは星乃と行きましたよ」
姉と弟で買いに行くようなものではないような気がするのは偏見なのだろうか。
その時の店員と星乃の気持ちが知りたいが、まあいずれにしても秀星と行くよりはなんぼかマシである。
ただ、話を聞く限り、あまりセフィアに直接何かを頼んでいるような様子は少ないようだ。教育されてそうなったのか、もともとそんな感じなのかは不明だが。
「え、未来のお母さんのパンチラ?ないですね。ズボンをはいて蹴りを入れてますよ。おじいちゃんに」
なるほど、余計なことを吹き込むたびに風香の蹴りが炸裂しているといったところだろう。実際にいろいろアレなことを吹き込まれているので必要性は感じられる。
「でも時々長いスカートをはいているときはありますよ。ほぼ確実にセフィコットさんが中で隠れていますが」
なるほど、納得。
「!?」
セフィコットの脳天に風のゲンコツが振り下ろされた。
別に今のセフィコットが悪いわけではないのに……。
「未来でも基本的に二刀流ですけど、ロングスカートを揺らして戦ってますよ。なのでパンチラはないですね」
流石にロングスカートでパンチラは構造上の無理がある。
セフィコットのようにスカートの中に入ってしまえば変わらないが。
「む?お父さんのパンツですか?」
何聞いてんねん。
「あんまり買い替えていないように見えますね。というより、お父さんは指パッチン一回でパンツを作れますから」
市場という概念に喧嘩を売っているとしか思えないが、置いておこう。今に始まったことではない。
「星乃はおかあさんと一緒に買いに行くので、お父さんが買いに行ったところは見たことないですね」
長男はお母さんとパンツを買いに行くのか。
一応モンスターを倒せる精神と実力を持っている星乃は、自分で金を稼ぐこともできるはず。下着を買う程度の金は持っているはずだが、風香と買いに行くとは……まあ、別にいいんだけどね。
というかそもそもパンツの購入事情を長女が把握しているものなのだろうか。
「あ、お母さんがものすごく倒したみたいですね!」
風香を見ると、神々が地面に墜落して気絶していた。
不老不死故に殺すことは不可能だが、そんな神にも気絶はある。
地面に叩き落とされた愚かな末路である。
「とりあえず私は縄で縛っていけばいいんですかね?」
自分にできることを見つけてやろうとすることは認めよう。
というわけで、セフィコットは大量の縄を用意することにした。
……で、まあ、実際に縛っていくのはいいのだが、椿ちゃん。その亀甲縛りはどこで習った?




