第七十七話
「外国の魔戦士との合同訓練?」
「ああ。九重市にアメリカのチームが来て、いろいろ特訓するみたいだぜ」
剣の精鋭における『頭脳』というと、一番に上げられるのはアレシアだ。
単純に腹黒のような気がするのだが、それを他人に認められるほどのものにするためには、かなりの知識と知恵が必要なので、それに対して異論はない。
それに加えて、経験してきたゆえに知っている秀星と、視えるゆえに分かっている来夏を合わせて考えるのが、最近の剣の精鋭のやり方だ。
それそのものは悪くない。
メンバー全員が集まったとしても、理解が追いつかないものがいるので、ほぼ空気になるメンバーが必ずいる。
人事を除けば、外部からの依頼を受けるかどうかは全員一致で決まる。
そのシステムが続いている今は特に問題はない。
それはともかく、来夏、アレシア、秀星の三人がまずそもそも依頼を受けるかどうかを判断して、良いと分かれば全員に確認する。という感じになる。
「外国って……アメリカだよな」
「ああ。アメリカの……そうだな。日本で言うマスターランクチームだな。チーム名は『イリーガル・ドラゴン』だぜ」
「……『違法竜』?」
「直訳するとそうなると思うが、まあ、悪くはないチームとアメリカでも評判だぞ。オレに提案してきた奴も、オレが視た限りでは何か裏があるようには見えなかった」
「あえてそういう人材を選んだ可能性しかありませんが、単純に会うだけでなく、魔戦士同士の特訓となればそれらのコストは大きいですよ。話が出てきている時点で、ある程度はまじめに考えていると判断していいと思います」
とはいえ、秀星の中では『マスターランクチーム』というのがあまり好印象と言うわけではない。
日本ではそれらのチームが総出で裏切ったので、そう言った判断基準がわずかに存在するのだ。
無論、全てがそうだと決めつけるほど子供ではないが、可能性を否定しないほど、秀星も人間としてできていない。
「合同訓練か……」
ちなみに、アレシアが言った『コストがかかる』というのは、実際の訓練に必要な維持費だけではなく、周辺に対する情報工作も含める。
魔法社会は、まだ表に出せるものではない。
一部を除いて、魔法社会と言うのは弱いのだ。
確かに、戦術レベルならば多くの者が動かせるだけの力がある。
だが戦略レベルになると、魔法社会は太刀打ちできない。
完全に真っ向勝負する気満々の言い分だが、魔戦士ではないものに取って、魔戦士は異常な存在なのだ。
迫害されてもおかしくはない。
周りに知られるわけにはいかないので、情報操作で苦労するのだ。
マスターランクチームとなると規模も大きいだろう。
リスクはそれなりに大きいのである。
「秀星としてはどう考える?」
「……『剣の精鋭単体』で考えるなら、完全に暇つぶしの領域だろうな。九重市に来て特訓する以上、モンスターを相手にした実戦がない。そう考えると、その間のモンスター討伐による収入はほぼないに等しい。特訓のメニューは分からないが、たぶん俺が指揮する方が効率がいいだろうからな」
とはいえ、特訓のメニューに関してはセフィアに丸投げするつもりでいる秀星。
自分が鍛えてきたが、誰かを鍛えたことなどない。
そう言った本の知識しかないので当然である。
「だが……九重市に来る。ということは、その場所は……」
「沖野宮高校だな」
そう、学校に来るといっているのだ。
「アメリカのマスターランクチームの訓練だ。見ることが出来るだけでも、生徒からすれば十分だろ。ほぼ確実に賛成票は多く集まる。それに乗れば、例え俺達が反対したとしても、今度は沖野宮高校に対して交渉を持ちかければいい。反対はやりにくいだろうな。反対したという情報を流せば、生徒会長である宗一郎の株が落ちるだろうし」
沖野宮高校の生徒達の中で、魔戦士は多い。
さらに言えば、宗一郎が生徒会長になっているのも、教師陣が決めた事務的なものが大きいのだ。
生徒会長に立候補するものが何人かいたわけではなく、『宗一郎が生徒会長になることに賛成するかどうか』というアンケートだった。
とはいえ、ほとんどの生徒からすればどうでもいいことなので賛成票に丸を入れただろう。
だが、そもそも賛成票そのものがどうでもいい状況において、反対票の材料になることは避けたいはずだ。
……無論、そもそも宗一郎が生徒会長の立場に固執しているかどうかは秀星もわからないのだが。
「まあ、何か企んでいるのは事実だろうな。だが、それでもいいと思うぞ。どうせたいした真似なんてできないだろうし」
秀星は、最終的にそう結論した。