第七百六十七話
外交神ユウギリが『これからは俺がルールだ』宣言をしているわけだが、正直、秀星以外の人間に聞こえていないような気がする。
沖野宮高校は日本最高峰の魔法専門学校であり、それゆえに避難に関しても完璧だ。
教えられた通り、マニュアル通りに風香が指揮して、椿が『何言ってんのこの子』と思われているのが目に浮かぶようだが、それ以前の話として、沖野宮高校にはセフィコットがいるので避難誘導はやってくれるのである。
神が束になって押しかけてくるというのは、多くの生徒を守らなければならない責任がある者にとっては最高レベルの警戒が必要であり、セフィコットたちも全力で動いている。
「あ!何も持ってないセフィコットがコケてるです!」
……全力で動いている。多分。
そういうわけで、現在は校舎の中は生徒たちが移動している。
ユウギリは特に『拡声器』なども使ってないし、校舎内を移動している生徒たちには聞こえないだろう。
「……とりあえず、却下だな」
そういって、秀星はプレシャスを構える。
「何?最高神である俺の言葉を否定するだと?」
「当然だ。相手が誰だろうと隷属する気はない。ていうか……そもそもお前らって逃げてきたんだろ?そんな奴が主人とか片腹痛いわ」
見たところ、第一世代型はいないようだ。
別に第一世代型だからと言って全員が全員神器に依存せず行動しているというわけではないのだが、第二世代型以降の神は、命名神に名を貰ったことで神になったため、自分でなったわけではない。
やはり、そこにはどこか違うものを感じられるのだ。
あくまでも秀星の主観でしかないことはみとめるが。
ギラードルが天界でまだ暗躍していた時、部下を秀星のところに送り込んで間引きしていたが、おそらく二十人ほどいる最高神もほぼ変わらない。
「ふざけるな!この下等生物が!」
「その下等生物から名を貰って神になったんだろ。過去の自分は下等生物なのか?」
「うるさい!お前たち。まずはあいつを殺せ!」
「「「はい!」」」
ユウギリの命令でほかの神が動き始めた。
「……いまいち大物感が出てこない奴らだなぁ」
秀星はプレシャスを振るう。
繰り出される飛ぶ斬撃だが、一応は最高神と呼ばれるほどの存在なので、全員が対応できているようだ。
……自動回避、と自動追尾が付いていることに気が付いているものは一人もいなさそうだが。
「フン!こんな雑魚の攻撃。一撃で……!?」
自らも武器を振って飛ぶ斬撃を叩き落そうとしていた男だが、男の斧の攻撃を回避して、そのまま斧にある『コア』を砕く。
そのまま、神器はバラバラになった。
基本的に神器は恐ろしいほど頑丈、かつ自動修復能力も備わっているため、長い間放置されていない限り、基本的に神器が壊れることはない。
だが、神器というのはコアに対して各々が肉付けをしていったようなアイテムなので、コアに依存するのだ。
そのため、それを砕くと壊れてしまう。
「想定より脆いな。いったい誰が作ったんだか……」
最高神の神器を戦利品として奪われているものがほとんどだろう。そうなると、自分たちの派閥に属する上位神と下位神のどちらかに神器を作ってもらった可能性がある。どちらかと言えば上位神だろう。
とはいえ、いずれにしても脆い。
そして、使っている本人も戦いにおいてはあまりにもグダグダである。
強硬派の行動スピードにもよるが、秀星が飛ぶ斬撃を一発はなっているうちに、特に陣形を組んでいるわけでもないし、戦い慣れていない連中のようだ。
「武器破壊一回でそんなに反応するなよ」
「う、うるさい!」
というわけで、全員が各々の武器を構えて真正面から向かってくる。
「……正直、大人数で攻める利点って、ステータスを補い合うことができるってことと、相手の死角をつけることくらいだと思うだけどなぁ……あ、君は合格」
そういって、秀星は自分の足元にナイフを刺そうとしていた下位神であろう男の顔面に蹴りを入れてぶっ飛ばした。
「ぐはっ!」
「気配の殺し方はちゃんと練習しような。で、お前らは採点以前の問題だな」
そういってプレシャスを構えなおして、横に一閃。
そのままいくつもの斬撃が飛んでいく。
そしてそれをみて、向かってくる最高神たちが動きを一瞬止める。
(馬鹿だろ)
彼らが止まった瞬間、斬撃は加速する。
そのまま彼らは対応できずに、自らの武器を破壊された。
「な……馬鹿な……」
驚いている様子だが、先ほどお仲間の武器を壊した後なのだから、『自分のものは大丈夫』とは思わないでいただきたい。
「何をしている!そんな挑発に乗る馬鹿がいるか!さっさと下に行って人質をさらってこい!」
ユウギリが叫ぶと、お仲間の最高神はハッとした表情になって、下に向かって突撃していった。
ただ、秀星はあえて、下に向かって移動する最高神たちを見送った。
「……追わないのか?」
「ああ。お前らくらいの相手なら、アイツらにとっていい教材になる。せっかく手ごろな最高神が来たんだ。利用しない手はないだろ」
「て、手ごろな最高神だと……」
最高神であることは分かっているが、別にそれそのものに興味がないような言い方。
ユウギリは歯ぎしりするが、それで結論が変わるわけではない。
「ん~……あ、お前は強いからダメ」
何人かいる『有能だけど評価されてないっぽく見える奴』を狙って、オールマジック・タブレットで捕縛魔法を使った。
頑丈な鉄の檻のようなものが出現し、その最高神を追っていく。
「う、うわあああああああ!」
全速力で空を飛んで逃げているが、明らかにスピードが違う。
「な……なんだあれは」
「だってどうせ殺せないしな。だったら捕まえて出られないようにしておけばいい。というわけで……ユウギリだったっけ?アンタは戦わないのか?」
「様をつけんか!無礼者が!」
「……ちょっと脈絡放棄してて嫌だなぁ。そもそもの話だけどさ。神祖が天界で暴れ始めて、逃げ出すのはお前たちだけってことはあり得ないだろ。昨今の事情を考慮すれば、事前準備なしに他の世界に行く場合はこの地球にしか来ることができない。他の最高神もやってくるだろうけど、アンタ勝てるの?」
「うるさい!貴様のような下等生物が、最高神を語るな!」
「自分でなったわけでもないのによくいう……まあ第一世代型に嫉妬してんだろうな。実力と劣等感のバランスを取り持つ才能がないと世の中苦労するぞ?」
そういって、秀星はプレシャスを構えなおして突撃する。
ユウギリは剣を出現させると、そのままプレシャスを受け止めて鍔迫り合いに持ち込んだ。
「おっ。そのまま砕けると思ってたのに……第二世代型って、名前を貰ってクリアしてるけど、それ以外の条件は大体クリアしてるもんな。伊達ではないってことか」
「当然だ!舐めるなよクソガキ!」
「……そろそろ傲慢な口調に付き合うのも飽きた。しゃべる暇がないくらい切りかかってやるから覚悟しろ」
そういって、ちょっとだけ校舎を見る。
どうやら、既に体育館に集まっているようだ。
ただ、向かってくる最高神に対して、沖野宮高校の中でも優れた才能を持っている生徒たちが体育館から出てきて各々の武器を構えている。
(さてと、教材相手にどれくらい戦えるかな?)
正直、今までは全部自分でやってきた秀星だが、そもそもほかの者が戦った場合にどうなるのかがいまいちわかっていなかった。
さすがにこれからもこれだといろいろまずいので、最高神の中でも名前だけを単にもらったような第四世代も混じっているので、良い相手になるだろう。
(ただ、さすがに第二世代型としても伊達ではないユウギリには勝てる奴はいないか。こいつは俺が抑えておこっと)
正直余裕である。
秀星はとりあえずそんなことを考えながら、ユウギリに攻撃を仕掛けるのだった。
……一秒百発くらいで。




