第七百六十五話
来るのは多分最高神あたりだろうな。とか何とか思いながらも、秀星はもちろん学校に通っている。
そして椿は毎回の授業でしっかりとハキハキ答えている。
休み時間になれば校舎の中を早歩きで爆走していることが多い。走らなければいいというわけではないのだが、椿にそれは通じないのかもしれない。
まあ注意したとしても『走るなとは言われていますが早歩きがダメとは言われていませんよ!』と胸を『むっふーん!』と張りながら主張するだけである。
周りの人間はそれを見て、何となく諦め始めるのだ。末期症状である。
さて、小難しいことは置いておくとして……。
「zzz……」
時々、椿が休み時間に教室で寝ているときがある。
普段元気でかわいい子が寝ていると、周りの人間は何となく見に来ようと思うものだ。
少なくとも不快感はほぼない。赤ん坊が寝ているのを見て不快感を感じる人間はあまりいないと思われるがそれと似たようなものだ。決して椿の精神年齢を過小評価しているわけではない。
あと、自然と周りが静かになる。
椿は寝言が多く、思わず吹き出してしまうような内容が口から洩れるときがあるからだ。
……その寝言で人物名が出てきたときは要注意である。
「じゅる……む~……セフィアさ~ん……」
どうやら夢の中でセフィアと話しているようだ。
よだれが出ているのでもしかしたら食事中なのかもしれない。
……とまあこんな感じで、結構寝ていても表に出てくるのだ。頭が寝ていても体が寝ていないような気がしなくもないが、問題がないと思いたい。
というか、寝ているはずなのに活舌が完璧なのである。マジで体の方は起きているのかもしれない。
「生たこエビフライっておいしいですね~」
それが何なのかさっぱりわからないが、とてもおいしそうな表情なので実際においしいのかもしれない。まあ椿の夢の中では、という条件付きなので試さない方がいいかもしれない。
まだ食べ合わせという点で言えば、みかんに海苔をまいて醤油をつけてたべてイクラを感じるほうがまだ有意義だろう。人によってはそうならないようだが。
「む~……お母さ~ん……そんなにお酒を飲んだらダメですよ~」
もしかして時間軸が未来なのだろうか。
「来夏さんに……お酒飲んだらガチレズのキス魔になるから勘弁してくれって言われてるじゃないですか~……」
全員が口に手を当てて爆笑をこらえている。
風香がお酒を飲んだ場合の惨劇に関して椿が暴露してしまったので(寝言なので本当なのかどうかは定かではないが)、それに耐えるのに苦労しているのである。
「むうう~……リオせんせ~……」
おや、今度はリオ先生が登場したようだ。
時間軸は未来だと思われるが、そちらでも会っているのだろうか。
というか、生たこエビフライを食べながら風香のお酒を注意してしかもリオが出てくるってどういう状況なのだろう。ちょっと意味が分からない。
「……冷蔵庫おおおおおおおおおおおお!」
ガバッ!と上半身を机から跳ね上げて絶叫する椿。
「……む?」
椿は首をかしげる。
その周囲では、突如出た大声にいろんな意味でひっくり返っている生徒たちがいた。
まあそうはいっても驚いているだけなのだが、それはそれ。
椿はきょろきょろと周囲を見るが、状況はあまりわかってないらしい。
すると、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。
「あっ!次の授業が始まりますね!」
そういって椅子に座りなおす椿。
机の中からセフィコットが数体出てきて、教科書や筆箱などを用意している。
……どこかに頭をぶつけたような痕が見えるので、準備中にひっくり返って頭をぶつけた可能性が高そうだ。ただでさえ、何もしていない奴がよく転ぶ体質なので。
すると、
「ふああ……最近眠いなぁ……」
本当に眠そうな表情でリオ先生が入ってきた。
そして教室の様子を見て、全員の妙な目線がリオ先生に突き刺さっているのがわかった。
「……え、何この空気」
気持ちはわかるが知りません。
とまぁ、ちょっとアレな空気になったが、一応授業は開始した。
もちろん、生徒たちだってずっとその空気でいるわけではないので、次第にその空気は解けてくるのだが、思うのだ。
(冷蔵庫で一体何が起こったのか)
気になるが、逆にどうしても知らなければならないこと。というほどのものでもない。
そもそも椿だってもう覚えていないだろう。見た夢の内容などそんなものだ。
未来でも、椿の学校生活はこんなものなのだろうか。
どうやら、起きていても寝ていても、周りに退屈はさせないらしい。




