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第七十五話

 八代家がダンジョンを保有している。と言うことは説明した。

 モンスターのレベルとしてはそう高いものでもなく、むしろ低い分類になる。

 高いランクの素材を集めるのではなく、低ランクで需要のあるものを集める。と言うことで管理しており、地元の高校生でも、魔戦士であれば十分に挑める難易度と言うこともあり、古くから八代家の魔法社会における財政基盤として活躍してきた。

 物量作戦のようなものだが、それらを円滑に解決させるための施設も設けられている。


「……雑魚ばっかだな」


 秀星はそうつぶやいた。


「仕方ないと思うよ。剣の精鋭はいつもここよりすごいところに行きまくってるもん」


 風香が刀を振るいながらそういった。


「でも、この難易度はなんていうか……RPGで最初のフィールドに行く前のチュートリアルみたいだね」

「それは敵がほとんど動かないのではないか?」


 雫が短剣を二本構えてモンスターを瞬殺する傍で、羽計が両手剣を振るう。


「私も驚きました。ダンジョンの変化速度が遅すぎて、同じ補助装置を何年もの間メンテナンスをするだけで使い続けているほどですからね」


 エイミーは銃の引き金を引きながらそう言った。

 エイミーが言う通り、物量作戦を進めるために様々な施設をおいているが、施設その物に自衛システムが存在するので、モンスターが出てきても問題はなく、さらに、ダンジョンの難易度が低すぎて、内部の構造変化が遅すぎるゆえに、それを何年も使えるのだ。

 さすがに十年放置するとヤバいことになる可能性もあるが、数年程度なら問題ないと言われている。


「これはそれなりの数の魔戦士が挑まないと収入は微々たるものだな。これは」


 羽計がモンスターを倒して手に入れた素材である『ホーンラビットの角』をつまんで持ちあげる。

 買い取り額は一個二百円である。


「でも、地元の学生が結構いるし、固定客は確保出来てるみたいなものだってお父さんが言ってたよ」

「会社の上司にネチネチ絡まれた後で憂さ晴らしに入る人もいるみたいだね。喫茶店に来たお客さんでそう言う人がいたよ」


 思った以上にゆるゆるな上にガバガバだが、ダンジョンの難易度が低すぎるとこうなる。と言うことなのだろう。


「ただ、私としては、みんなが怪我なく小遣いをためることが出来るんだから、悪いことではないと思うけどなぁ……」


 八代家がこのダンジョンを使って資金をやり取りしている。

 使い方が分かっているのだ。

 逆に言うと、これ以上に深いところにも行けない。


「……そう言えば聞いていなかったな。このダンジョン、地下何階まであるんだ?」

「一階で終了だよ」

「え、じゃあこのフロアの奥にボスがいるのか?」

「もしかしたら寝ているかもしれないけど、確かに奥にいるよ」


 ダンジョンの利用の都合上、ボスに用はない。

 討伐のためではなく収入のために利用しているのだ。

 言ってしまえば、定期的に作物を実らせる畑のようなもの。


「ダンジョンボスって、中ボスなら倒してもまた蘇るけど、ラスボスを倒したらダンジョンそのものが機能しなくなるもんね」

「モンスターにも知性はありますが、このクラスのダンジョンだとその知性も低そうですね」


 モンスターにも知性はある。

 山に住んでいるガイゼルやナターリアもそうだし、美咲がテイムしているポチもそうだが、明らかに人間とコミュニケーションが取れる。

 もし知性が高いというのなら、放置していたらなんかすごく申し訳ない気分になるだろう。

 ダンジョンのボスと言うのは自然に要るダンジョンよりも『システマチックな雰囲気』が強く、実際にそうなのであまり良心に影響はない。


「……でも、いくら知性が低いといっても、何十人と毎日来るのに誰も来ないとなれば怪しいと思うものだと思ってたけどね。何十年くらい使ってるの?」

「二百年くらいかな」

「「「「ダンジョンボスだって萎えるよ」」」」


 二百年の放置。

 確かに、ダンジョンのボスでなければ耐えられないだろう。

 いや、バカなだけであり、耐えているというと少々違う可能性もあるが。


「それにしても、不思議に思うものじゃないの?」

「出力が足りないんだろ」

「「「「?」」」」


 秀星の答えに首をかしげる四人。

 ダンジョンの中とは思えない自然さだ。


「ダンジョンも、地上の生物と同じで魔力を生成できる。そういった魔力を生み出せる存在って言うのは、魔力の『生成力』と『貯蔵力』と『消費力』って言う数値を持ってるんだ」


 一応補足するが、『貯蔵力』というのは『貯蔵しようとする力』であって、『貯蔵できる量』を示している訳ではない。勘違いしないように。


「へぇ……」

「基本的には生成力が貯蔵力を上回っていて、消費量は低いっていうキャパシティなんだが、ダンジョンはランクでそのキャパシティの合計値が決まる」


 要するに、と前置きして続ける。


「ダンジョンって言うのは生物と違って、システムとしての頭脳を働かせるためにも魔力を必要とする。だが、消費力が小さく、そこまで多くのことを考えるだけのエネルギーを捻出できない」

「計算速度が遅すぎて、答えを出すまでの時間が長くなって、システムそのものがその演算を放棄するってこと?」

「例えとしてはそれで間違っていない」


 雫が言った例えに頷く秀星。

 他にもいろいろ言い方はあるが概ねそんな感じだ。

 雫は基本的に頭が悪いが、言いかえるならオタクの皆さんがサブカルチャーに対する知識量や理解力、共感力が大きいように、雫の場合は勉強に対して全く役に立たない脳味噌であると言うだけの話だ。

 勉強はできないが仕事はできるタイプ……なのかもしれない。

 まあ、そんな人は世の中にたくさんいる。

 元素番号など覚えてどうするって言うんだ……。


「あれ、生成力が貯蔵力を上回ってるってことは、体の中にため込め切れてないってことだよね」

「普通に漏れてるぞ。三つの力はそれぞれ別の器官で行われているからな」

「へぇ……」


 風香が秀星を見る。

 魔力そのものを見れる風香だが、いつも見ている『魔力の量』が何の量なのかが今一つ分かっていなかったのだ。

 これで解決した形である。


「しかし……お試しで来てみたは良いものの……飽きたな」

「「「「同感」」」」

「え、風香も言っちゃうの?」

「だって、最近ってここより強いところに行きすぎてるからね……」


 秀星としては、このダンジョンにばかりいて今の強さを身に付けた理由が分からないのだが、別に追及するほどでもないので置いておくことにした。


「まあ、キリがよくなったら帰るか」


 四人もうなずいた。

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