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第七百四十二話

 リビアは早速通帳を受け取って秀星の家を出ていった。

 日本に潜伏する神兵と連携をとる必要があるからとのこと。

 どうやら思ったよりもたくさんいるようである。


 椿がしっかりと電話番号を教えてもらっていたし、チャット系のアプリを登録していた。

 そういった部分の抜け目がない娘である。


「そういえば、ミーシェさんってどれくらい強いんですか?具体的に言うとお父さんと比べてどうですか?」

「ふーむ……」


 ミーシェがちらっと秀星を見る。

 相変わらず感情のこもらない目をしているが、これがミーシェの普通だ。今更追及したところで意味はない。


「最後にあった時と比べてかなり強くなっているけど、まだまだ私には及ばない」


 そういって、セフィアが用意したオレンジジュースをちびちびと読むミーシェ。


「そんなに強いんですか!?」

「ああ。少なくとも剣を持って戦う場合、師匠に勝てる人は……俺は一人しか知らん」


 頭の中で思い浮かぶのは、天界で話した全知神レルクスだ。

 あの神だけは秀星から見ても理不尽な存在であり、剣を用いた術という点において神祖というランクに位置するミーシェであっても勝てないだろう。


「なるほどです。では、お父さんが剣を使わない場合はどうなりますか?」

「まあ、油断したら一瞬で倒されるだろうな。剣術神祖っていうのは……言い換えれば、『剣を使って何でもできる存在』と言っていい」

「剣を使って何でもできる?」

「師匠の力を大雑把に言うとそんな感じだ。ただまあ……師匠も父さんや来夏と戦おうとは思わないだろうけどな」

「?」


 どうやらミーシェは高志と来夏について知らないらしい。


「むむ?お父さんも『ギャグ補正』のスキルを持ってますよね?」

「俺と父さんたちを比べると質が違いすぎるからな。師匠が相手だとその質の違いがモロに出るんだ。多分無理だろ」

「なるほど。何となく大雑把にわかりました!」


 それを世間ではわかっていないというはずだ。


「ふむ……ギャグ補正?」

「何の変哲もない人間が、ビルを根こそぎ地面から抜き取ってシャカシャカできるスキルです」

「それはギャグというよりバグでは?」

「バグもギャグの一種だと考えてそうなので同じことですね」

「……人間って不思議」


 同意させてもらう秀星だが、さすがにそれを人間の神秘の証だとされてしまうとなんだか人間がすごく残念な生物のように感じてしまうのでスルーさせてもらおう。


「ただ、最近戦ってないのも事実。稽古をつけてあげよう」

「……」

「返事は?」

「はい」


 秀星にも逆らえない存在はいるようである。


 ★


 というわけで、地下に移動した二人。

 ちなみに、秀星は星王剣プレシャスを握り、ミーシェは自分の神力を濃縮させて作った剣を握っている。


「お互いに真剣で勝負ってわけか。稽古って言っても結構派手なのかな」

「いえ、ミーシェ様の剣術のレベルとなれば、木で作られた剣を使っても胴体を真っ二つにできますから、緊張感は変わりません。であれば、お互いに真剣で構えておいた方がいいというだけのことです」

「む~。ミーシェさんはさっきから無表情のままですけど、お父さんはすごく集中力を研ぎ澄ませた顔つきですね」


 観戦者は風香、椿、セフィアだ。

 その三人を尻目に、ミーシェはだらしなく構えている。


「秀星、どこからでもかかってくるといい」

「なら、遠慮なく!」


 正面から突撃する秀星。

 そのまま上段から剣を振り下ろす。

 その速度は圧倒的で、観戦している風香と椿は全く目で追うことができず、セフィアがかろうじてとらえた程度。

 だが、ミーシェは右手に持った剣で易々と受け止める。

 身長も体重も秀星の方が上のはずだが、突撃してきた秀星に対して一ミリも後ろに下がることなく剣で受け止める。


「相変わらず物理学が仕事しないな。普通はちょっとくらい後ろに下がってくれるもんだぞ」

「そんなものは知らない。ちなみに、天界にも神力学の教科書は存在しないから独学で頑張って」

「現在進行形で体感してます」


 鍔迫り合いになっていたが、お互いに動く気配がないので、剣を一瞬で引くとそのまま剣を連続で叩きこむ秀星。

 だが、ミーシェはそのすべてを剣ではじいていく。

 正面から剣を叩き込む秀星に対して右腕以外がほとんど動いていない。


「お、おお!お父さんがブレて見えます!」

「ミーシェさんの方も右腕はほぼどう動いてるのかわからないね」

「響く音もすさまじいですね。一秒間に十回以上の斬撃が鳴り響いているのは久しぶりに見ます」


 わずかにセフィアが見えている程度。

 いずれにせよ、ランクが高いとか次元が違うとか、そういう範疇を超えている。


「……ふむ」

「!」


 秀星の剣を弾いたその千分の一秒後、ミーシェは剣を横に一閃。

 秀星はプレシャスを振って受け止めるが、圧倒的な質量が剣にかかり、耐えられなくなって壁まで吹っ飛んだ。

 ……それが事実ではあるのだが、あまりにも早すぎて、急に秀星が壁まで吹っ飛んだようにしかみえないだろう。


「え!」


 風香が驚いたように秀星が吹っ飛んだ先を見る。

 壁を粉砕して貫通した秀星が『デコヒーレンスの漆黒外套』を身にまとって、無傷のままで戻ってくる。


「しっかり受け身を取っていたようで何より」

「そりゃどうも。あーくそ。剣を受け止めて手がしびれるのなんて久しぶりだ。エリクサーブラッドでも即座に回復しないなんてな」


 そういう秀星の右手は少し震えている。


「別に剣だけじゃなくてもいいけど、どうする?」

「なら、躊躇はしない!」


 秀星は左手にマシニクルを出現させて、左手の甲の上にオールマジック・タブレットを出現させる。

 黄金の拳銃と七色に輝くキューブが出現したが、ミーシェの表情は変わらない。

 マシニクルをミーシェに向けて銃弾を放ちながら、自分の背中から滝のような勢いで膨大な魔法陣を溢れさせる。

 それをみたミーシェは、銃弾を破壊して、一瞬で魔法陣を大量に出現させて剣に埋め込んだ。

 次の瞬間、ミーシェも突撃する。


 一瞬で二人がいた中央の位置で剣が衝突して火花を散らす。

 だが、秀星はマシニクルからもレーザーブレードを出現させて、二刀流で斬りかかった。

 ミーシェはそれに対して相変わらず表情を変えることなく、隙をつこうとする秀星に対応して剣を振る。


 秀星は背中から魔法陣を今も滝のように溢れさせており、様々な『更新』を行っているとセフィアは推測する。

 だが、それは断片的に読み取れる程度のことで、セフィアからはどのような意図があるのかは推測できない。


 ただし、第一世代型の最高神や神祖というレベルになると、その戦いのほとんどはじゃんけんゲームのようなものになる。

 神祖ともなれば、その概念において『極めている』というのが適切だ。

 その状況では、全く新しい要素を追加するのはほぼ不可能であり、『質の相性』の駆け引きになる。


 秀星とミーシェは、攻撃の質を概ね三通りの質に分けている。

 そしてその三通りの中でじゃんけんのような構造になるような状態にしている。


 セフィアが把握できたルールは、『じゃんけんで二回負けたら敗北』といったもの。

 現在は……秀星が負けた後に必ずあいこをはさませてどうにかこらえているといったところだ。


 ただ……ミーシェの方も不必要な手加減をしているようには見えない。


「……なるほど、強くなっている」


 そういって秀星の剣を弾くと、左手で秀星に胸ぐらをつかんで、そのまま床にたたきつけた。

 もちろん、周りからは急に地面にヒビが入って秀星が叩き込まれているように見えるが。


「ぐっ……」


 うめき声を漏らす秀星だが、デコヒーレンスの漆黒外套を着ているのでほとんどダメージはない。


「ちゃんと強くなっている。関心関心」


 そういって、ミーシェは剣を消滅させた。


「……はぁ。やっぱりまだダメか」


 出していた神器を全てひっこめると、溜息を吐きながら起き上がる秀星。


「な、なんだかよくわからなかったですけど、すごいですね!」

「あれが神祖の実力……秀星君が全く歯が立たないなんて……」

「風香、安心するといい。秀星は小細工をいろいろ考える。もしも私を絶対に倒さなければならないとなれば、それ相応の手段をとるはず。今回はそうではないから見せてないだけ」


 ミーシェはそういうと、他には何も言うことはないというように地下室から上がっていく。


「あ、待ってくださーい!」


 椿が追いかけていった。


「……もうちょっと踏ん張れると思ってたんだけどなぁ」

「秀星君が真面目に戦ってるところってあんまり見たことないけど、あれくらいすごいんだね」

「まあ、まだ師匠には及ばないけどな……あ、セフィア。ぶっ壊した壁と床、直しておいて」

「畏まりました」


 秀星はセフィアに言うと、そのまま地下室から出るために歩き始める。

 その背中を見ながら、風香は再度、秀星という男の強さに考えを改めるのだった。


(つ、強いなぁ……ていうか、そもそも秀星君って誰かに剣を習ってたんだね)


 秀星のような人種に、師はいらない。

 何となくそう考えていた風香だが、すごい師匠がいた。

 隣に立てるかどうかはまだわからない。

 だが、今の風香では、見届けることすらできない。


(私も強くならないと……)


 再度そう思って、次の瞬間には『でも一体どうすれば……』とぐるぐる悩む風香であった。

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