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第七十四話

 アメリカの魔戦士チームが秀星を勧誘しようと動きだしていることにも理由はある。


 魔法社会と言うのは基本的に実力主義だが、実力主義にも種類はある。

 単純に、過程を重視することで、大きな成果はなくとも『継続して』それをできるように計画する『堅実主義』と、最終的にどれほどのリターンがあるのかを考えて行動する『成果主義』だ。

 とはいえ、成果主義にしても過程を全く持って無視するというわけではない。

 下手なギャンブルよりたちが悪いというのは間違っていないのだ。


 日本では『堅実主義』で、アメリカでは『成果主義』の雰囲気を持っている。

 この『成果』というものだが、まとめてしまえば『数字』だ。

 どれほど早く、どれほど多くのことが出来るのか。

 それらを考えた上でいろいろとする必要がある。日本のように、椅子にしがみつくのはNGだ。


 基本的に会社と言うのは株主の物である。株主の意見は絶対に無視できない。

 アメリカでは実際にあったことだが、役員がどこか別の国に行って、そして行っている内に『解雇』が決定し、慌てて帰国しても時すでに遅し、と言うものだった。

 世の中は非情である。


 アメリカの真面目な組織としては、秀星のような人間はぜひとも使っていきたい。

 なにせ、日本内での魔戦士としての評価は本当に最高峰で、アストログラフが即座に壊滅するほどの行動力と俊敏性がある。

 アストログラフを壊滅させたことに関しては秀星がやったと推測しているだけで証拠はなかったのだが、状況証拠だけでも察することはできるというものだ。


 秀星を自分たちの組織に引き入れることで、そのリターンを得ようとするものは普通に多いのだ。

 ただ、秀星がアメリカの魔法社会と言うものを認識したのは、犯罪組織であるレガリアと腐敗組織であるアストログラフであり、初対面の印象がゴミレベルである。

 どちらもつぶれてしまったので文句すら言いに行けないという、腹の底がグツグツと煮えていく感覚に耐えながらも、いろいろやっているのだ。


 なお手紙だが、まじめな組織は本当にまじめに書いている。

 ちゃんと日本語で書いているし、手紙にも、専属の通訳者を当てるということも記載されている。

 のだが、抱えていける自信はないが上の組織の勧誘が成功するのが嫌だ。という中小組織に依り、全く秀星のことを考えない手紙を送ってアメリカの印象を悪くしている。国際郵便なので郵便会社が儲かるだけなのだが、それでいいのかと言わざるを得ない。


 ちなみに、剃刀を仕込んでいるのは怨念にあふれた組織。特に、アストログラフとかかわっていた組織たちだが、手紙を出している本人たちも悪すぎる(・・・)ことに手を出しているので秀星に通用することはない。


 秀星はそのあたりの事情をある程度察している。

 異世界でも国家間の事情と言うものはそれなりに多くあったので、その時にいろいろ確認したのだ。傍目から見ていただけだが。

 ただし、『沈黙肯定文』に関しては秀星としても本当にウザい。

 沈黙肯定文のようなパターンは表社会ではまず通らないが、もちろん魔法社会でも通らない。

 国際組織は存在しないが、『暗黙の了解を広めている大規模な組織』は存在する。

 はっきり言って無視すればいいだけの話なのだが、秀星はウザいと思った時、『無視』ではなく『十倍返し』するタイプだ。

 電話では丁重に断るようにセフィアに命令し、その裏ではものすごく嫌がらせしている。

 ハッキングに始まり、組織が抱えている『現在の運営基盤』を掲示板に暴露するという、表でやったら即お縄ちょうだいなことを多数やっているのだ。

 ぶっちゃけ十倍で済んでいないが、秀星としてはあまり気にしていない。


 結論。


 アメリカよりも秀星の方がひどい。


 ★


「ヒデェな」


 要点をまとめて説明したあと、来夏はそうつぶやいた。

 現在はアジトである。

 エイミーも仲間になって、人数は十人になった。

 秀星が入る前の人数の倍くらいになっているが、来夏曰く、『脱退したメンバーもそれなりにいる』とのこと。

 死別した魔戦士はいないが、いろいろと理由はある。

 来夏がウザい、アレシアが怖い、羽計が五月蝿い、優奈がわけわからん、美咲を傍から見守っていたい。など、一部願望が混ざっているが、去るものは最初にネチネチ言ったうえで、最終的に決断したのなら追わない(要するに『獣王の洞穴』スタイル)ので、脱退したメンバーはそれなりにいるようだ。


 さて、エイミーが入って十人になった。

 この人数になると選択肢も増えてくる。

 来夏も来夏でいろいろ考えているのだが、最近、よく娘の沙耶が甘えてくるので活動は控えているのが現状だ。

 秀星としてはもっと構ってやった方がいいと思うのだが、来夏はそうは思っていないようだ。

 ……これはアレシアに聞いたことだが、沙耶は来夏のことが大好きではあるが、毎日来夏が一緒にいるとなるとそれはそれでウザくなって来るらしい。定期的に会う方がお互いのためなのだそうだ。

 人数が増えるとできることは増える。それなりのことが出来るメンバーがそろっているので、考えていかないと収入に影響が出る。貯金は多いが。


 で、そんな話をしている時に、来夏が勧誘の話をして、秀星は答えたということだ。

 因みに来夏のセリフは、秀星とアメリカ、両方に言ったものである。


「ウザいからやった。反省も後悔もしていない」

「それで揚げ足をとられると思わねえのがすげえよな」

「証拠がなければ犯罪になりません」


 有言実行である。

 秀星としても大きな声では言わないが。


「日本では落ち着いてるのに、アメリカは元気だよな」

「日本が落ち着いているのは、アレシアが怖いからだろ」

「俺、そのあたりのことをあまり知らないんだが……」

「ああ見えて……いや、見た目通りか?容赦ねえんだ。色々二つ名があるぞ」

「そうなのか?」

「『人の皮を被った悪魔』『傀儡子を操る傀儡子』『コミュニティーバスター』……みたいな感じだ」

「……」


 明らかに蔑称だが、アレシアは自分で気に入るのではないかと思うセンスである。


「まあそんなもんだ。で、秀星はどうするんだ?」

「別にどうもしないさ。ただ……まじめな組織から勧誘が続きそうだし、何か良い手はないかなって思って……」

「……アレシアに相談してみるか?」

「いや、この話をしたうえでアレシアの名前出すの?」

「当たり前だろ」


 早速アレシアに電話をかける来夏。

 二語三語言った後、電話を切る。

 何をしようとしているのかはわからない。


「……よし、これでもう大丈夫だ」

「……不安。本来とは別の意味で」


 秀星はげんなりした。

 そして……それ以来、勧誘は本当にこなくなった。

 一体、どんな手品を使ったのだろう……。

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