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第七百三十六話

 馬鹿と煙は高い所へ。

 というわけで、椿は高い所が大好きである(失礼)。


「おー!屋上からはいろいろなものが見えますね!」


 土曜日の昼間から校舎の屋上ではしゃぐ椿。

 ちなみに制服の上から黒いコートを羽織ったスタイルである。

 胸の下でベルトを締めたしっかり巨乳を強調するようなファッションだが、それでいいのだろうか。

 ……いいんだろうな。


「この校舎よりも高い位置はあるけど、まあ基本的に四階建ての校舎の屋上はほとんどの建物の高さを超えるからな。九重市は現在開発が結構進んでるし、そのうち周りが見えなくなるかもしれないぞ」

「未来ではそうでもないですね」

「そうでもないの!?」

「はい!景観が損なわれるということと、地下の開発が進んだので、『地下空間利権』で争ってますよ!」

「……なるほど」


 高い建物を建てるというのはかなりの技術を要する。

 確かに魔法を使って工程を簡略化させることは可能なのだが、数多くの建築関係の法律に魔法要素が組み込まれていないのが現状だ。

 二十年後なら確かに様々な法律に魔法が追い付くことで密接にかかわることができる可能性は高いのだが、まだ魔法は表に出たばかりというレベル。


 ちなみに『景観』の話だが、八代家が管理する山があったり、小さいながら港があったりするのだ。

 近代化を進めていけばこれらの自然は常に伐採されて行くものだが、最近は風香が恐ろしく強くなっているので、そのあたりの影響力もいろいろあるはずだ。

 椿の年齢を考えれば少なくとも五年後は秀星と風香は夫婦なので、秀星の後光を恐れて風香に手出しできない可能性も十分にある。

 となれば、地下に目が行くのは当然といえる。


 まあそもそもの話をすれば、現在の秀星がインフラ整備に投資をぶち込みまくっているので、高速道路や新幹線が九重市を通る可能性もあるが、それでも位置的には『主要な都市』とは言えないのが現実である。


「そういえば、お母さんはどこにいるんですか?朝から見かけませんけど」

「別件で忙しいだけだから問題ない」


 即答する秀星だが、事情は分かっている。

 昨日の夜の椿と風香のディープキスだが、実はセフィアがばっちり撮影していたのだ。

 そして、その画像データが高額で取引されているのである。

 もちろん娘とのキスシーンなのでまあ別に隠す必要もないのだが、風香は『なんとなく負けてる感じがするから嫌』とのことで、血眼になって探しているのだ。

 鬼気迫るといっていいほどの勢いで探して交渉して生徒たちから買い取っているそうなので、おそらくしばらく姿を見ないはず。


「むう?わかりました!」


 画像の都合上、椿も無関係ではないのだが気にしないと思われる。

 みんな大好きなので、風香とのキスシーンが裏で流通していたとしても別に気にならないのだ。

 それもそれでどうかと思わなくもないが、椿なので問題はない。

 ……問題はない!


「椿。高校生活を始めてまだ日が浅いけど、楽しいか?」

「はい!皆さんとてもやさしいですし、バトルロイヤルで強い生徒がたくさんいることもわかりました!競うにしても戦うにしても、この学校はとても楽しいですよ!」


 少し何か考えるようなそぶりがあってもいいと思うのだが、そのようなことはなく即答する椿。

 本当に楽しいのだろう。

 秀星からすればぶっちゃけ『あんまり……行く必要ないよなぁ。だって学歴がいい程度で手に入るものは全部手に入ってるし……』となるわけだが、椿は学校生活というだけで楽しくなるのだろう。

 椿本人の性格もある。


「なるほどなぁ……」

「お父さんは楽しくないんですか?」

「まあ楽しいとか楽しくないっていうより……学歴で手に入る物はいろいろ手に入れちゃってるからなぁ」

「あ、それもそうですね」


 金、地位、権力、情報、実力。

 真剣に取り組んだとして手に入るのは大体そのくらいのものだ。

 だが、学歴がなくてもすでに手に入れてしまっている。

 そもそもの話、秀星のようなレベルになると、師はいらないのだ。

 なんで学校に通っているの?という話になるが、基本的に何となくとしか言えない。

 それだけのことなのである。


「む~。まあ、私のクラスメイトの中にも、既に卒業生よりも強い人とかいますね」

「椿もそうだろ」

「まあそうですね!」


 未来でどこまで魔戦士……未来では冒険者というのだったか。冒険者たちの育成レベルがどうなっているのかはわからないが、その時は秀星自身も数多くの手段を開発しているはず。

 それに触れている椿が弱くなるとは思えない。

 身内贔屓というわけではない……と思いたいが、おおむね間違っていないと思う。


「まあでも……大体何とかなりますよ!」

「……」


 というより、何も考えていない椿にとって、『良い結果』『悪い結果』という分け方がそもそも存在しないのではないだろうか。

 どのような結果になったとしても受け入れる……とまではいわないが、大体のことは『まあそんなもんですね!』と前向きにとらえている可能性がある。

 秀星と風香の娘で、高志や来夏の影響を産まれた時から受けているのだ。

 これで普通の価値観で育ったらそれはそれですごい。


「私は高校生活はとても楽しいですよ!お父さんもきっと楽しめる部分がたくさんあるはずです!」

「……娘に言われてしまうとどうしようもないなぁ……」


 秀星だっていろいろ考えてはいる。

 だが、『別に何も考えてなくたって楽しめている』椿からそれを言われてしまうとつらいのであった。

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