第七百三十五話
「さて、この会議で、朝森秀星、八代風香、鈴木宗一郎の三名だが、次回から『ボスキャラクター』としてではなく、『運営』としての席に座ってもらうこと。そして、バトルロイヤルではなく、『ポイントチケット争奪戦』に名を改めることが決定した」
天窓学園のとある会議室。
そこでは、アトムを議長として、会議が行われていた。
『バトルロイヤル運営部』という組織だ。
現在は秀星が所属している沖野宮高校で出来る限り実験データを集めて、将来的にモンスターから素材を手に入れて換金する以外の目的としてエンターテインメントになると考えているのだ。
それによって魔戦士というものが夢のある職業だと思ってもらえばいいと考えている。
そしてこの会議で、『ボスキャラ』というシステムがなくなったといっていい。
まあ、純粋に強すぎたということもあるのだが、ボスモンスターというなんだかそれっぽいのが出てきてしまったので、いてもあまり意味がない。
……というのは建前で、『秀星を運営部に組み込むことで、何かを導入する際に運営部長であるアトムに許可を取る必要があるようにする』というシステムにしたいだけである。
前回のポイントチケットシステム。今回のボスモンスターに加えて、なんだか最後の方にちょっと出てきていた『セフィコットクエスト』と言えそうなシステムの存在によって、もはやバトルロイヤルとは言えなくなった。
結果的に、もう『バトルロイヤル』とは呼べないものに変わってしまったので、『ポイントチケット争奪戦』と名を改めて運営することになった。
そのため、『ポイントチケット争奪戦運営部』となる。
語呂が壊滅的ではなくてよかったと思ったものが多数いたが、それと同時に、意外と運営部という単語はごろの悪さを解消する響きがあるような気がしてくる。
どうでもいいことだ。
「それから、『ハイパーアイテム』に関してだが、どう思う?」
ハイパーアイテム。
ポイントチケット争奪戦終了後に、秀星がセフィコットを通じて用意した『超高額アイテム』のことだ。
一億と三億の二つのグレードに分かれており、一億ポイントのアイテムもバカ強いが、三億のアイテムは一億のアイテムと単純に比較して五倍以上といっていい性能がある。という設定になっている。
もちろん、ハイパーだとかいろいろ言っても神器には及ばないので、アトム個人と比べれば大したことはない。
アトムは神器を三つ所有し、そしてそのすべてが最高神が作ったものだ。
当然その性能が圧倒的であり、アトム本人の才能もあって大体の敵は倒せるし、調節も可能なのでオーバーキルにもならない。
だが、それはアトム個人に関する話だ。
魔法省に所属する官僚として、全体のことを考えなければならない。
そのため、どのようにして『制限』や『調節』を行うのか。ということになる。
「現在わかっているのは、チートアイテムはいずれも、沖野宮高校の敷地内でしか使用不可能であり、沖野宮高校で使用し、その結果として敷地外に影響を与える場合は敷地に存在する障壁に阻まれて影響が出ないシステムになっています。学校内部、および次回からのポイントチケット争奪戦で使うためのアイテムともいえますが……正直、これらのアイテムをどれほど持っているのかで、沖野宮高校でのパワーバランスに直結するでしょう。ソロで使うもの、チームで使うもの、もっと大きな組織で使うもの。いろいろあります」
「ただ、朝森秀星本人が、この沖野宮高校を実験場としているようにも見えます。これらのハイパーアイテムですが、使用するにあたり、さらに安くはないポイントチケットを消費しなければならないようになっています。さらに、三億アイテムに関しては、あまりにも強力すぎるためか、使用コストほど高くはありませんが、『所持料金』を定期的に払う必要があります。これを払えなければ没収とも……運用を考えれば、多くのチケットを持っていても限度があるでしょう」
普通ならここまでの『確認』だと行わない。
アトムがある程度の枠を作って、それをみんなで埋めるような作業になる。
それで何とかなってきたのだが、秀星がかかわるとどうなるかわからない。
現在のポイントチケット争奪戦も、ハイパーアイテムも、セフィコットシステムも、全て胴元が秀星なのだ。
アトムがどれほど制限を設けたとしても、あの手この手で自分のやりたいように導入する可能性は十分にある。
秀星が卒業した後もしっかり運営できるように固めておく必要があるのだ。
要するに、現在出ている情報から、『秀星の趣向』を読み取らなければならない。
言い換えれば『逆鱗に振れないようにするにはどう見ていけばいいか』を考えるということだ。
秀星の実力は世界一位。
実力で言えば日本の魔戦士社会で二番手はアトムなのだが、秀星とは圧倒的に『全力になった時の実力』が違いすぎるのだ。
考えなければならない。
もちろん、秀星自身もグチグチ責められたからと言って癇癪を起こせるほど羞恥心が低いわけではない。
ある程度は耐えるだろう。
だが、逆鱗に触れて爆発したら手が付けられないだろう。
様々な議論が交わされるが、この日は結局『確認』だけだ。
というか、『とりあえず沖野宮高校の生徒に好きにやらせてみて、その結果次第だ』という判断を持つものが多い。
もともと沖野宮高校は、秀星がいるゆえに無茶ができる。
秀星がある程度躾けた結果、特に上級生はみんなおとなしい。
理想的と言えば理想的なのだ。
完全に放置するというわけではないし、観察は強化するが、それでも、どうなるのかやはりわからないというのが職員の本音である。




