第七百三十四話
急遽泊まることになった学生寮で寝る場合、何を着て寝るのか。
修学旅行のホテルなどの場合、基本的には体操服などで寝ることになると思われる。
まあ、自分が家で使っている寝間着をみんなに見せられるかどうかということを考えれば『そりゃ無理だ』と考える者が多いことは明白だろう。
というか、中には家でも寝るときは上下黒ジャージで寝る奴とかいるからな。
その程度なら学生寮でも問題はないだろう。
ちなみに天竜院千秋はその上下黒ジャージ就寝に該当する。何も悪いことはないのだが。
上下黒ジャージというと今はどこにいるのかよくわからん堕落神ラターグが該当するが、アイツは黒ジャージ意外に何も持っていないのでスルー。
そんなの関係ないと考えている子もいる。
もちろん椿である!
「zzz……」
女子生徒は自分の部屋ではなく、全員が一斉に寝られる大部屋に集まっていた。
もちろんここに参加していない女子生徒もいるわけだが、それはそれとしよう。
ただし、セフィコットに頼めばすさまじい速度で布団を敷いてくれるので、大勢で布団を用意することなど考えずとも話し込むことができるのだ。
遮音カーテンなどもあるので、大部屋にいたいがものすごく眠くなった時はそっちに行っても大丈夫である。
(か、かわいい~)
椿の寝間着は自前のピンク色のものだった。
年齢と身長に不相応の大きな胸が寝間着の胸部を押し上げているし、普段の天真爛漫な表情がとても幸せそうな寝顔に変わっているので、とても癒されるのである。
ちなみに頬を突っつくととてもかわいい声を漏らすので遊んでいる。
というより、実年齢が十五歳で、全員よりも年下なのだ。
妹を見るような感じでとてもかわいいのだ。
「ねえ。写真ってとっていいのかな」
「!?」
誰かが言った『激写!』という言葉にものすごくソワソワしてくる生徒たち。
「撮るに決まってるよ」
すでにカメラをスタンバイしている風香であった。
この様子には『嫌アンタいつでもとれるやろ!』という視線が発生しているが、風香はどこ吹く風。
風香はそーっとそーっと近づいていく。
そして、カメラと椿の位置が三十センチくらいにまで接近する。
((近っ!))
どこまで近距離で撮るつもりだ!?とドン引きしている生徒たちを尻目に、風香はボタンに指をかけて……。
「んにゃああああああああ!」
椿が奇声を発した(寝ているままで)。
風香も『!?』となるが、そんなことは椿にはわからない。
椿はどんな夢を見ているのか全く分からないが、目を閉じたままで風香に抱き着いた。
しかもその時に手が激しく動いてカメラが弾かれている。
そして風香に抱き着くように布団に抱え込んで、ぶちゅうううううう!という音が聞こえそうなほど口と口でキスをした。
「!!??」
母と娘という関係なので別に犯罪性はないのだが、これには周りの生徒もびっくり仰天。
「んーーー!」
本当にどんな夢を見ているのだろうか。風香の口のなかに舌まで入れて風香の口の中を蹂躙している。
これには風香もたまったものではない。
「ひょ、ふはひはん!(訳:ちょ、椿ちゃん!)」
抵抗する風香だが、椿の腕の力がとんでもない上に、おそらくこれは椿としても意識外だと思われるが、風香が上手く体を使えないように手で関節を封じるように抱き着いている。
「むふふ~!おとうさああああん」
夢の中にいるの秀星!?
「……?」
口の中を蹂躙していた椿だが、何か疑問に思ったようだ。
……未来でどんなキスをしているのかどうかはともかく、骨格が違うのだから秀星と風香の口の中が同じなわけないので、疑問に思うのは当然だろう。
「んにゅううう……」
夢の中で何かの整合性が取れなくなったのか、風香を開放してそのまま眠りにつく椿。
「はふう~……」
風香もその場にへたり込んだ。
腰まで砕けているような気がするのは気のせいだろうか。
……気のせいだとしておこう。
「つ、椿ちゃんって、未来で秀星君とあんなキスしてるの?」
「いや、夢の中だし、願望はあると思うけど」
「でも願望ならなおさら、ああいうキスがしたいってことになるよね」
椿の接吻観念に疑問と興味を禁じ得ない女子生徒たち。
ただ、一応、確定していることがあるとすれば……高校生でしかない彼女たちには刺激が強すぎる。ということだろう。
それ以上は表現しようがない。
椿……恐ろしい子である。




