第七百三十二話
椿が一方的にチアキのことをボコボコにして数分後、バトルロイヤル終了のアナウンスが流れて、全生徒がダンジョンの外に転送された。
「む~……一位が派閥になってますね!ランキング一位ボーナスも含めて大金持ちになってますよ!」
やったー!とはしゃいでいる椿。
その様子を見て、『あー可愛いー』となっている生徒が多かった。
思ったこと全てが顔に限らず全身に出る椿の喜びは、その雰囲気も相まって周りに不快感を与えない。
「英里先輩!何かおいしいモノ食べるんですか!?」
「まずそっちに行くんだ……」
まず満たしたいと考えるのが食欲とは椿らしいのかもしれない。
確かに大切ではあるのだが、今までできなかったことがいろいろできるのでは?という考えもあるのだ。
(とはいえ、あまりにも手に入ったポイントチケットが多いので、私に使いきれるかどうかというものでもあるのですが……)
ボスモンスターの出現と、それによってもたらされる膨大なポイントチケットの放出。
これらの要素は確かに生徒たちにとっていいものだが、宝くじで大金を手に入れても使いきれないのと同じだ。
(まあ、まずは大量に手に入れたポイントチケットを管理するシステムの構築ですね。預金通帳はダンジョンの中でしか使えないので、終わると同時に同額のポイントチケットが私の手に渡っていますが、それを管理するシステムがないと奪われてジエンドは笑うこともできません)
まあ、金に関してはそうしたシステムを使ってどうにか管理するしかない。
一応ポイントチケットを積んで金庫を買ったり、セフィコットそのものに金庫のシステムを運営してもらったりといろいろあるので、早く行動しておけばそこは問題がない。
いずれにせよ、使い切れないというのはまた面倒なことだ。
あまりにも金が余っている場合、なんだか自分にその程度の野望しかないと証明しているようで器が小さく見える。
「牧人君。あなたはどう思いますか?」
「……英里先輩が終了時に持っていたポイントは大体七億くらいでしたよね」
「そうですね」
七億ポイント。
正直ここにきてインフレしすぎていて何も言えない。
このままではダンジョンの中ではなくリアルの方でポイントチケット強奪戦が勃発するレベルだ。
「なら、高志さんが爆死して溶けた十億ポイントはどこに消えたのかってことになります」
「!?」
そうだった。と英里は思い出す。
派閥が一位なのは別に構わない。
大きくしようとしてチームを組んでポイントチケットをかき集めていたので、多くなるのは当然だ。
だが、それよりも多くなる現象が存在していたはずである。
「一応、同価値の宝石などにして、そしてバトルロイヤルが終わっても外に持ち出せるようにしておけば、ポイントチケットの獲得量としてはカウントされない。ただし、派閥を超える資産家がいるってことも確かだから、そこは考慮しておいて損はないと思います」
「ふむ……国枝君は何かありますか?」
「俺ですか?そうですね……英里先輩はこれから金庫などのシステムを用意して、ガチガチに防御を固めようと考えていると思いますけど、おそらくそれはしない方がいいと思います」
「何故?」
「これは秀星先輩の性格の話ですけど、これだけ大量のポイントチケットを放出させるってことは、それだけ『大量の消費しやすくするシステム』も同時に導入すると思います」
「例えば?」
「一億ポイントで買えるチートアイテム」
「それはあり得ますね」
それ相応にダンジョンの中でもポイントを使っていたものは多かったが、途中であまりにもポイントチケットが大量に、しかも少数の生徒の間で回るようになってしまったため、あまりにも使い方がわからない。
まさか学校を超えていきなり大人と交渉しろ。などと言いたいわけでもないだろう。
であれば、行きつく先はチートアイテムだ。
「考えることは多くなりましたね」
「まあ今更ですけどね。金がある人がさらに金を手に入れて、金がない人は一生金がないっていうのは資本主義の大原則ですし」
「国枝先輩って結構そういうこと言いますよね」
「君のお父さんの実用書を読んでるとめちゃくちゃエグイ本音が書かれてたりするからね」
結構言いたいことを言うタイプである。
とはいえ、それに反対する者はいないだろうが。
「ただ、そのようなアイテムを用意しているのならありがたいですが……」
「手に入るポイントチケットが多くなっても、使い道がないとなれば消費されませんからね。消費されないとなると金が回らないし、おそらくそれは望んでないでしょう。だからこそ一気に放出するし、一気に消費させるつもりでいる。ここまで大量に流したってことは、言い換えれば『まだまだ秀星先輩が想定している量のチケットが出回っていない』ということでもある」
「胴元であるお父さんが何を考えているのかはさっぱりわかりませんけどね!」
「そのうち日本円よりも価値が出てくるんじゃないかと心配になるけどね」
さて、とりあえずバトルロイヤルは終わったが、もたらされた大量のチケットの存在によって意味不明なことになっている。
「国枝君。これからどうなると思いますか?」
「それは神様と秀星君が知ってると思いますよ。ただ、俺は心配するようなことではないと思ってます」
「そうですか」
結論はまだ出せない。出るわけがない。
ならば、容赦なく後回しにする。棚に上げる。
どうせ、秀星が指パチンを一回やればすべて消える話だ。
秀星が何を考えているのかで、すべてが決まる。




