第七百二十六話
どうやって海を渡ろうか。
そもそもダンジョンの中にある水場を海と表現していいのか。
国枝はいろいろ思うところはあったが、自分と行動する二人が高志と椿なので、そのあたりのことを真剣に考えても仕方がない。
結果的に、もうその海を渡ってしまえばいいということで、ボートをセフィコットに注文して(なんかボロボロだったが)、そこそこ頑丈な小型ボートとオールを入手。
「漕いでいくの?マジで?」
「当然ですよ!」
「その方が楽しいだろ!」
国枝は『当然であってたまるか。楽しいわけないだろ!』と思ったのだが、まあその手のことは通用しないのが椿と高志である。
「私とおじいちゃんでオールを漕ぎますから、国枝先輩は海の中から出てくるモンスターをどうにかしてくださいね!」
「ああ……わかった……」
日本って民主主義だよな。満場一致だよな。なんで俺の意見が確認されないのだろう。ていうかさっきからガンスルーされてる気がする。ていうか俺とこの二人で常識が違う気がする。
などと頭の中で愚痴がぐるぐると回っているのだが、彼らにそんなものは関係ない。
というわけで、出発!
「……あ、思ったより速いな」
高志と椿は二人ともあほなのだろう。かなり速い!
「「おりゃあああああああああ!」」
(掛け声は同じか。末期症状だな)
正常な状態って何?と言われても困るのだが、なんとなくそう思う国枝。
ただ、モンスターが出現することに変わりはない。
剣に魔力を纏わせて、それを振るってモンスターを両断する。
チケットが海の中に沈んでいくが、ひとまず回収はしない。
完全防水性なので海の底でも問題ないのだが、それら専用のアイテムをまた追加で購入する必要がある。
海のモンスターを倒して得られるポイントチケットが思ったより少なそうだし、水中のチケットを回収するアイテムの使用頻度は少ないので買わなかった。
いずれにせよ、国枝一人でもモンスターを倒せるレベルであるということに変わりはない。
「……なんでまっすぐ進むんだろう」
ボートの速度はかなり速い。
後ろで椿と高志が頑張っているからだ。
それはいい。
だが、椿と高志では筋力も体の大きさも全然違うし、体重だってことなる。
何故その二人が一緒にオールを漕いで、完璧にまっすぐに進めるのだろうか。
不思議といえば不思議なのだが、この程度のことはもう不思議とはあまり感じなくなってきたような気がする。
「まあ、早く到着する分にはいいか」
帰り道でもこうなるので、進むのが速い方がいい。
ただ……ペースが落ちないというのは、なんだか怖い話である。
「ん?」
国枝が何かに気が付いた瞬間だった。
ボートそのものが海底から打ち上げられた。
「うわっ!」
「「うおおおおおお!」」
「……」
声の高さはもちろん全然違うのだが、どういった叫び声を出すのかという反応的な部分において全く同じである二人を見て絶句する国枝。
「考えても仕方がないな」
見たところ、下から派手に打ち上げられたが、ボートは無傷だ。
意味不明だが、助かるのでノープロブレムである。
下から出てきたのは、水中で動くようにフォルムを変えて進化したようなドラゴンだ。
「海龍ってわけね」
魔力を纏わせて、一閃!
そのまま斬撃の形をした魔力が飛翔し、海龍の鼻っ面に直撃する。
手ごたえあり。
「普通に戦って勝てそうだな。とりあえずボートに……二人はどこに消えた?」
国枝よりも落下が速かったようだ。
とりあえずボートに着地した国枝だが、二人がいなくなっているのできょろきょろと見渡す。
すると、海の中からザバッ!と二人が顔を出した。
「おー。国枝先輩。着地が上手いんですね!」
「国枝。ちょっとボートを近づけてくれないか?」
そばに海龍がいるというのに軽いものである。
というわけで、ずぶぬれになった二人を回収し、ボートに引き上げる。
「くっそおおおおおお!よくもやってくれた海龍めええええ」
「積年の恨みを晴らしてやります!」
「まだ出会って数分だぞ」
椿はどうやらフレーズと大体どのあたりで使うものなのかというタイミングは知っているようだが、言葉の意味は理解していないらしい。
「いいんですよ国枝先輩。こういうのは雰囲気です!」
「椿の場合はそれがすべてじゃないか……」
何も考えていない椿の行動はすべて勢いに決まっている。
「おりゃああああああ!」
そして椿と国枝がごちゃごちゃ言っている間に高志が海龍をワンパンで倒した。
「よっしゃああああ!倒したぞおおおおお!」
「うおおおおおおおおお!」
そして椿も絶叫。
一発もぶちかましていないが大喜びである。
「……」
雑だなぁ。
国枝は十割くらい本気でそう思った。




