第七百二十四話
「おー!結構面白いメンバーじゃねえか!」
秀星が用意したチートアイテム『無敗拠点の鍵』などの『拠点アイテム』が一応存在するものの、持っていないからと言って拠点が作れないわけではない。
文字通り、ポイントチケットを手にセフィコットに注文すれば何でも買えるといっていい。
バリケードになりそうなものや、そして拠点というものに必要な施設を揃えていくことで、それは拠点になる。
とはいえ、ダンジョンの中に作れる拠点というものはいろいろ規模が限られているのだが、彼らはバトルロイヤル初心者ではない。
そのため、そこそこ頑丈な拠点を作ることには成功している。
最も、拠点と言っても常駐するメンバーが少ないのだが。
今も英里と、生徒会書記を務める派閥のサブリーダーの牧人しかいないし。
「……」
英里と牧人は高志を見て、『いったいどこから入ってきた?』という視線を向けた。
高志(と来夏)はかなり有名なのだ。
来夏は剣の精鋭リーダーとしてもともと名をはせているが、高志はそんな来夏と空間を割りながら鬼ごっこという奇行にはしっているのでとても印象に残っているのだ。しかも秀星の父親となれば尚更である。
「あの……どうやって入ってきたんですか?」
「ん?バールで」
「「~~っ!?」」
英里と牧人は『高志耐性』が低いようだ。痛む頭痛をこらえるように頭を押さえている。
「……まあとにかく、いろいろあきらめることにしましょう。ところで、ボスモンスターは何か倒しましたか?」
「ああ!なんかでかいのがいたけどワンパンだったぜ!」
そういって、残骸になった『朝森秀星のボス部屋崩壊装置』を取り出す高志。
「え、それって壊れるんですか?」
「ああ!壊れた!」
英里が座るテーブルに置いた高志。
英里はそれを手に取って、壊れて内部構造が丸見えになっているので確認。
そして、ふと何を思ったのか。それをテーブルに置いて、パシャリとスマホで写真を撮った後、その上から鉄ブロック入りのアタッシュケース(英里のメインウェポン)を振り下ろす。
ズガアアアアアアアアアアアアン!という派手な音が鳴った。
ただ、鋼鉄のテーブルなのでテーブルは問題ない。
そして、慎重にアタッシュケースをのけてみた。
「……これ以上壊れる様子がないですね」
「いや、残骸になった後でも頑丈って何で出来てんだよ!」
牧人が叫ぶが、結果は変わらない。
テーブルの上で鎮座する装置だが、どうやらまだ英里たちが持っているものよりも格上らしい。
ゴミの分際でかなり偉そうな話だ。
「ちなみにこれ、使えるんですか?」
「さすがに無理だった。秀星のところに持って行って使ってみたけど効果はなかったぞ。で、俺に驚いた秀星がジェンガで負けてた」
ドンマイ。
「なるほど。さすがに使えないわけですね……では、ポイントチケットはどれくらい持っていますか?」
かなり気になる情報だ。
ランクSアイテムをドロップするボスモンスターであり、もしかしたら図鑑で手に入れる以上のポイントチケットが発生している可能性も十分にあり得る。
あと、ソロクリアボーナスなどが存在する場合、それに応じてチケットが増える可能性もある。
「フフフ……俺が持っているチケットの量はな……ゼロだ!」
預金通帳を見せる高志。
そこには、『入金 1000000000ポイント』というエグイ数字が存在するが、その下に『引き出し 1000000000ポイント』となっており、残金が『0』になっていた。
「「!?」」
これには椿たちも驚いた。
「い、いったいどうして……まさか、預金通帳の中身まで奪えるアイテムが?」
「いや、そういうわけじゃねえよ。俺が引き出して使ったのさ」
「一体何に?」
「フフフ……実は椿たちに会う前に、『スロットカジノ』っていう看板の建物があってな」
「……」
「スリーセブンで三百倍って書かれてたからな。一コイン二百ポイントで、千枚スロットに全額放り込んだのさ!」
「で、大負けしたと」
「おう!すげえだろ!」
確かにその大負けを胸を張って言える神経はすごい。
「てか、マジでこんな大負けってあり得るのか?」
「おじいちゃんは『ギャグ補正』というスキルを持っているので可能性はありますよ」
なるほど、と納得する一同。
どうやらこのスキル。本人にとって良い結果だけを生むわけではないらしい。
まあ基本的にスキルというものは付き合い方でいろいろ変わるものなので仕方がないだろう。
「しかし、カジノなんてあるのか?」
「一応、セフィコットがダンジョンの中にも建設できるレイアウトを持っているはずだよ。そう考えれば、ポイントチケットを積みまくれば、カジノを作って運営することは可能だ。もちろん施設だからバトルロイヤルが終わった後では持ち出せないけどね」
「……それって要するに、カジノ建設だけで十億ポイントを稼いだ生徒がいるってことだよな」
「そうなるね」
さて、その生徒の心境は今どうなっていることやら。
「というわけで、俺は今、預金通帳を持っているだけでほぼ素寒貧というわけだ!」
「……」
おそらくこんな状態になっているのは高志くらいのものだろう。
珍獣を見るかのような視線を向けられる高志だが、気にする様子は全くない。
一応、偏差値八十の天才なので全てわかっているはずなのだが、まあここで図々しくなれなかったら高志ではない。
「ま、まあとにかく、高志さんも合流したことだし、いろいろできることはあるよね。空間跳躍ができるってことは、奇襲だってできるだろうし……」
「いや、いつものバールは持ってきてないからそれはできねえぞ」
「いつものバールってなんだよ……」
だんだん真面目に考えるのが馬鹿らしくなっていく。
……だんだんというよりは『最初から』かもしれないが。
「あ、いつものバールの位置は分かってますよね」
「ああ、バール置き場が靴箱の隣にあるからな」
「……まあいいか。で、それってこのダンジョンを出て、すぐに取ることはできますか」
「無理だな。靴箱は俺が普段活動してる島の拠点にあるから、そもそも陸続きじゃねえしな。まあ俺は海の上を走れるけど、さすがにバトルロイヤルが終わるまでに帰ってくるのは無理だぞ」
「ホームセンターで買えばいいと思います!」
「いや、正確な時間跳躍のためには頑丈でレアリティの高い素材が必要だ。俺が普段使ってるバールは『常勝不敗竜ヴィクトリードラゴン』を倒して手に入れた特殊素材だからな」
「何そのドラゴン」
「勝つことが運命で決まってるドラゴンだ」
「どうやって勝ったんですか?」
「『そんなもんしらん!』って感じでワンパンだ」
「……」
常識というか、概念全てが通用していない気がする。
「もしもすぐにとりに行けるなら、英里先輩のマスターキーで取りに行ってもらおうと思ってたけど、そううまくはいかないか」
「ん?外に出た後でセフィコットにチケットを積んで持ってきてもらえばいいんじゃね?」
「それも不可能です。マスターキー使用時のデメリットで、その状態で『運送目的』のチケット利用は不可と設定されています」
「まあ、それこそ何でもありになるから仕方ないね」
「むう……」
アドバイスは的確だが先回りされているようだ。
「仕方がない。このまま作戦を立てようか」
盛大にため息を吐く国枝。
……どうやら彼は、どちらかというとユニハーズメンバー向きの苦労人体質のようである。




