第七百二十三話
基本的に生徒たちの移動手段は徒歩である。
ただ、一人で行動し、緊張感を高めるならまだしも、複数人が集まれば空気は変わる。
そして、その中に椿がいたらなおさらだろう。
「椿。最強のスキルってなんだと思う?」
「おじいちゃんの『最強』の定義は分かりませんけど、世界最強であるお父さんが持っているスキルが『全てのアイテムを使用可能にする』という効果の『アイテムマスター』なので、おそらく候補にはそれが入ると思います」
「なるほど……ん?『候補』なのか?」
「はい。確かにお父さんは強いですし、様々な力を使えますけど、あくまでもお父さんがアイテムマスターを持っているからこそ強いわけですからね」
「なるほど」
「というより、あまり『最強のスキル』とか『最強の能力』について考えてもあまり意味はないって未来のお父さんは言ってました」
「そうなのか?」
「はい。『世界最強のランク10の能力で世界征服を企んでいるやつがいる』のなら、『ランク100のアイテムを作って轢き殺す』と言っていました」
「あ……あー……なるほどね」
「そして、ランク100という概念が新しく登場して『上限が解放されている』ので、『ランク100のアイテムで世界征服を企んでいるやつがいる』のなら、『ランク1000のスキルを作って轢き殺す』だそうです」
「ああ言えばこう言うって感じだね」
「もちろんです。ただ、【世界最強のスキルは、『世界最強』という名前のスキルだ】と言っていました。まあ、これも同じく轢き殺せるそうですが」
「ん?世界最強なら、相手がどんなアイテムを使っても負けないんじゃ……」
「それがスキルという概念に属する以上、『世界』の定義を変えるアイテムを作ればいい。定義があやふやだからこそ融通が利き、そして勝つことができるので、『世界』という言葉の定義を決めてしまえばいいわけです。そうすれば、その『世界最強』というスキルが強い効果を発揮するものだとしても『お山の大将』ですからね」
「うーん……最強って難しいな」
「ただ逆も言えますよ。『世界最強のアイテム』に対しては、『世界の定義を変えるスキル』で対抗できます」
「あ、それもそうか……」
「ただ、それでも未来のお父さんは『現代地球において最強のスキル』の候補を三つ挙げていました」
「え?」
「一つ目は『アイテムマスター』です。二つ目は『生還』、三つ目は『電波掌握』です」
「二つ目の『生還』って?」
「要するに最強というものは常に『いたちごっこ』や『後出しじゃんけん』みたいなものなので、どんな相手だったとしても、まず生きて帰ることができれば、その後でいろいろ考えて手段を開発することができます」
「なるほど、三つ目は『電波掌握』か……確かに、『現代地球において最強のスキル』なら納得だ」
「お父さんはその一つとして『ギガ・バースト』というスキルを開発してめちゃくちゃ干されました」
「その効果は?」
「簡単に言えば『Wi-Fiみたいなシステムの強制遮断』です」
「確かにギガが吹き飛ぶな……動画投稿サイト見てるときに使われたら悲惨なことになる」
「そういうことです。あと、二十年後の未来では電波利権ってすさまじいですよ」
「魔法を使った独自回線とかあるんじゃないの?」
「法律が追い付きました」
「あ、なるほどね。で、利権に組み込まれたと」
「そんな感じです」
「……ていうか、秀星って普段からそんなことばかり考えてるのか?」
「みたいですね」
止まらない会話。
止まらない知識。
まあ、椿と話すということは、要するにそういうことである。




