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第七百二十一話

 風香と宗一郎が張り出す契約書の内容に驚く者は多かった。

 筆頭はアトムたち運営である。


 沖野宮高校で行われる催し物ではあるが、生徒会は全く関係がなく、むしろプレイヤー側という珍しい状態なので、別に宗一郎も英里もそのあたりは関係ない。


 では運営部でトップに立っているのが誰なのかというと、それはアトムなのだ。


 なんでもいいので『争奪戦』というものを利用することで、モンスターからアイテムを持って帰って来る魔戦士市場の『派生』を作れると考えているのである。

 要するに『よりエンターテインメント性を重視した要素』を取り入れようと考えているのだ。

 秀星が勝手に導入しているので、これらをもとに実践データを収集し、秀星からダンジョン限定で使えるゲーム用のパッケージを作ってもらえれば、それをもとにアトムたちだけで開催し、作ることができる。


 ……という段階だったのだが、まさか『倒されることを想定していない生徒三人の特効アイテム』を設定してしまうとは想像だにしていなかったのだ。


 アトムは頭を抱えているが、やってしまったものは仕方がない。


 いずれにせよ、ポイントチケットの胴元は秀星だ。

 システムの混乱を望んではいないはずなので、仮にボス部屋が崩壊して一人の生徒が大量のポイントチケットを手に入れることになったとしたら、その時は動くだろうと推測している。


 ただ、この契約書に大きな反応を見せたのは、アトムではない。


「むっふっふー!お父さんとお母さんを倒せるチャンスです!」


 椿がめちゃくちゃ乗り気だった。


「……椿ちゃん。結構乗り気だね」

「国枝先輩。わかっていませんね。こんな状況になるということは、次回からお父さんたちはボスキャラではなく運営側に回ってしまうということなのですよ!そうなれば、たとえルール上であっても倒すことができる手段が失われてしまいます!なので、今回はきっちり倒したいのですよ!」


 ということらしい。

 まあ、椿の実力では秀星や風香に勝つのは不可能だろう。

 たとえルール上の話であったとしても、『かってやるぞおらあああああああ!』となるのは当然なのかもしれない……ような気がする。


「というわけで、『崩壊装置』を一刻も早く手に入れましょう!」


 おー!と手を上げる椿。


「まあ、娘だからこそ思うところもあるのかな?」

「よくわかんねえけど、まあ、椿ちゃんがやりたいっていうんならそれに乗るか。見てて飽きねえし、多分他のことやりださないだろうからな」


 国枝と亮真はとりあえず賛同した。


 現在、椿、国枝、亮真の三人でブラブラしながらモンスターを倒していたところなのである。

 ここから英里のところに戻って討伐隊を組む必要があるだろう。

 ランクSで、唯一秀星を倒すことができるアイテムに通じるモンスターだ。

 その強さは、情報を集めてみる限りかなり高いのである。


「とりあえず英里先輩のところに……!?」


 国枝の把握範囲に、『何か』が入ってきた。


「どうした?国枝」

「あー……なんていうか、ちょっと想定外なものが入ってきちゃったみたいだね」

「?」


 そういいながら、曲がり角を曲がる三人。

 そこには先客がいた。


「んー……ここはどこだ?」


 真っ白のズボン、上半身は裸の上に真っ白の特攻服。

 そして左の頬に十字傷がついている男が唸っている。


「あっ!おじいちゃああああああん!」


 椿が元気よく飛びついていった。

 そのままぎゅううううっと抱き着く。

 パーソナルスペースの狭い椿だが、ここまで自分から飛びついていくのは結構珍しい。


「ん?おおっ!椿じゃねえか!てことは、ここはバトルロイヤルダンジョンの中なのか?」

「はい!あそこにいるのは国枝先輩と亮真先輩です!派閥の皆さんと一緒に行動していました!」

「派閥?……ああ、なんか、副生徒会長がリーダーになって何か作ってるって言ってたな」


 そういって、朝森高志は国枝の方を向いた。


「まあ、俺のことを見かけているとは思うが、話すのは初めてだな!俺は朝森高志!秀星の父親だぜ!」

「「知ってます」」


 半ば呆然とした様子で返事をする二人。

 どうやら想定外にもほどがあったようだ。


「で、今どんな感じなんだ?」

「お父さんとお母さんを倒せる手段ができたのですよ!」

「……ごめん、国枝君。説明プリーズ」


 さすがに高志も椿の説明では不足している。


 というわけで、国枝が説明。

 偏差値八十の確信犯である高志は理解した。


「なるほど、そういうことか。自分を倒せる装置を自分でねぇ」

「というわけで、この機を逃したらもうチャンスはないとばかりに椿ちゃんが頑張ってるわけです」

「なるほどなぁ……ん?装置って言ったよな」

「はい」

「ひょっとしてこれか?」


 高志がポケットから取り出したのは、スマホのような大きさでスイッチが付いた板のような装置。

 ……の残骸だった。


「ぶっ壊れてる!」

「ええ!?秀星先輩が作ったもので壊れんの!?」


 国枝と亮真が驚愕する。


「あー……やっぱり重要なものだったか。すまんな」

「んんんんんんもおおおおおおおおお!おじいちゃんのあほおおおおお!」


 椿も絶叫。

 秀星と風香を倒すという目標が潰えてしまったゆえである。


「これって直せないのかな」

「そもそも壊れる前提で作ってないと思う」

「ハッハッハ!大丈夫だ!最終的にはガン無視すればいいんだよ!」

「それもそうですね!」


 それでいいのか。椿。


「お父さんとお母さんを倒せなくなるのは少々心残りですが、まだポイントチケット争奪戦としてやることはあるので、そっちに取り組みましょう!」


 椿らしいポジティブシンキングと言おうか。切り替えが早い。


「……なあ国枝」

「どうした?」

「さっきから椿ちゃん。生徒会長のことガンスルーしてないか?」

「興味ないんじゃない?」

「なるほど」


 椿の口から宗一郎の名前が出てこない。

 何か理由があるのかと思った亮真だが、国枝の『興味がない』という答えに納得した。


「……そういえば、高志さん。預金通帳は手に入れてますか?」

「ん?預金通帳?」

「はい。ボスモンスターを倒すと手に入るはずですが……」

「ああ、なんか手帳みたいなのを手に入れたな。あれ通帳なのか。中身確認してなかったな」


 特攻服の内ポケットから通帳を取り出す。

 英里が持っているものと同じもので、『朝森高志』と刻印されている。


「生徒でなくても手に入るのか」

「盤壁のマスターキーの特別な使い方を行った結果、生徒以外が入ってくることが可能なのかもしれないし、それを考えれば言うほど疑問ではないね」


 亮真のつぶやきに考察を重ねる国枝。


「おじいちゃんはどうやってダンジョンに入ってきたんですか?」

「ん?ああ……新しいバールを買ったんだよ。で、試したらこっちにつながったんだ」

「わかりました!」


 納得したようで笑顔でうなずく椿。

 ……国枝と亮真は頭痛が痛くなってきた。なお誤用ではない。


「なあ国枝。バールって空間を割るものだっけ?」

「ごく普通の工具です」


 国枝はもうちょっと常識君に仕事してほしかったが、どうやらそれはかなわない様だ。

 ……なぜだろう。そこまで難しいことを主張しているわけではないはずなのに、何故届かないのか。


「というわけで、ここからは俺もこのダンジョンで活動するぜ!」

「おー!」


 秀星すら考えていなかった上に、アトムにとっても一番いやなイベント、


 『高志参戦!』


 が開幕した。

 ……これ、一体どうなるんだろう。

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