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第七百二十話

 至極当然のことではあるが、『場を引っ掻き回す』という状態を最大限に発生させる方法は、『無計画で誰の迷惑も考えずに盤面をひっくり返すようなことをする』である。


 とある『セフィコット契約書』が様々な自動販売機に張り出された。

 もちろん、通常の契約書は厳重に保管されている上、ポイントチケットをいくら積んでも他人が交わしている契約書を閲覧することはできない。


 ……もしも『セフィコット司法機関』のようなもの、そしてこれから秀星が『セフィコット契約書をもとにした司法機関の権限を保証するアイテム』を作った場合はその限りではない。

 司法機関は『可決されたことに対する強制権』を持っているからだ。

 とはいえ、まだそれらに該当するアイテムは出現していないし、秀星自身が『司法機関』というものをまだ生徒たちに与えるつもりがないので、基本的には関係のない話だ。


 その契約書たちは、当人たちによって交わされ、そしてセフィコットに『掲示依頼』をしたのである。


 雑に言えば、『八代風香と鈴木宗一郎の存在座標を朝森秀星が存在するボス部屋に固定し、朝森秀星に討伐判定が下された場合、その討伐判定を八代風香と鈴木宗一郎にも同様に適用する』という内容だ。


 結論から言えば、二点ほど。

 【八代風香と鈴木宗一郎は常に自分のボス部屋ではなく朝森秀星がいるボス部屋に滞在するようになり、この部屋から出ることはできない】

 【ランクSアイテムである『朝森秀星のボス部屋崩壊装置』を使うことに成功した場合、朝森秀星、八代風香、鈴木宗一郎の三人に討伐判定が下る】

 ということである。


 もともとこの三人に勝つことはできない上に、今はチートアイテムを効率よく使った方がポイントチケットを稼げるという状況になったことで、ボスキャラ扱いの三人が全然狙われないのだ。


 そのため、風香と宗一郎はあまりにも暇だったので、二人で相談して秀星のボス部屋で滞在することにしたのだ。

 ついでに言えば、三人とも脱落すれば、それはそれでダンジョンの外から眺めればいいだけのことである。


「しっかし、よくもまあこんな契約を交わしたもんだな」

「あんなアイテムを設定する秀星君の方がおかしいと思うよ」

「ただ、暇だったことは事実だ。この程度のサプライズはあってしかるべきだろう」

「……」


 秀星と風香と宗一郎はトランプのカードを握って唸る。

 ポーカーができるテーブルに座っており、ディーラーはセフィアだ。


「しかも、俺たちが一つの部屋に集まったことで、他のボス部屋にあったポイントチケットが入っていたケースは回収され、逆に俺の部屋のポイントチケットは手に入れる入手難易度が高くなりすぎて挑んでこない」

「本当の意味で、『ランクSアイテムを手に入れて、ゴールにたどり着いた者に莫大な報酬が支払われる』ってシチュエーションになってるよね。まあ、勝つ気で来ずに、足元の金ばかり見てボス部屋に入ってくる生徒たちを相手にするのって何となく嫌だったし、反省も後悔もしてないよ」

「今頃アトムたちは大慌てだろうな。私たちはそもそも倒される前提で選ばれていない。そのため、運営が用意している報酬は莫大だ。もしもランクSアイテムを誰かが手に入れたらどうするのかとひやひやしているだろう」


 そもそもの話だが、秀星と宗一郎と風香の三人では、報酬額が明確に異なるのだ。

 神器を持っている秀星と宗一郎、持っていない風香の間にはかなり差が存在する。

 確かに成長率の高い風香だが、それでも、神器を持っている宗一郎には遠く及ばない。


 宗一郎と秀星の間にもまた大きな差がある。

 これらに関しては言わずもがな。といったところだ。


 そして実際に比べると、風香と宗一郎の二人の報酬額を足しても秀星の額には遠く及ばない。

 しかし、秀星の部屋が崩壊した場合、その先、風香と宗一郎が暇なのは目に見えている。


「まあ、アトムもここまでは予想してないだろ。俺を舐めてるわけじゃないと思うが、まだ俺がどれほど『自由』なのかわかってないだろうし……あっ……」


 チーンと頭を抱える秀星。

 彼の手札はクラブとダイヤの2のワンペアであった。手札から溢れてくる最弱感がエグイ。


「まあ、ダンジョン部屋にずっと待機しながらも、システムを丸ごと導入できるような人間は秀星くらいしかいないからな……あれ?」


 らしくない声を出す宗一郎。

 その手はハートのロイヤルストレートフラッシュだった。

 ちょっと……『フラグが立った?』と思わなくもない手である。


「でも、なんだかいろいろ動き出しているみたいだし、椿ちゃんも楽しそうだから私は見ていて楽しいよ。むふふ、ディーラーとの勝負じゃなくてプレイヤー同士の勝負だとこういう手は面白いね」


 風香は微笑む。

 その手には――


「では、掛け金はどうしますか?青天井設定ですが」


 セフィアは淡々と進める。


 ……ちなみに、賭けているのはポイントチケットなのだが、このテーブルに限っては秀星は無条件に最強というわけではない。

 もちろん、『絶対に勝たなければならない勝負』であれば秀星も大人げないことをするのだが、宗一郎も風香も成人していないので子供の喧嘩であり、本気を出すような場面ではない。


「私は持ってるチケット全部かな」

「「……」」


 秀星と宗一郎はルールテキストをちらっと見る。

 『誰かが全額ベットを提示した場合、他の二人も全額ベットしなければならない』

 という項目がある。

 まあ要するに、『飽きてきたときの最終手段』である。


 もちろん、三人とも、持っているチケット全てを『予算』としているわけではない。

 そのため、負けても別に懐はそこまでいたくない。


「はあ、負けたわ」

「私もだ」


 秀星と宗一郎は溜息を吐いた。

 風香は持っているスペードのロイヤルストレートフラッシュを場において、二人から多額のポイントチケットを貰った。


「ぐおおおおお……なんか風香がものすごく勝ってないか?このゲーム」

「私もそう思う。ただ、セフィアを相手に不正はできないからな」

「フフフ。私に運の風が回ってきたのかもしれないよ?」

((風使いのアンタがそれ言います?))


 だんだん思考がグダッている秀星と宗一郎だが、ルール上ポーカーは終わりだ。


「まあ、久しぶりに運ゲーができたと思って喜んでおくか」

「え、秀星君って運ゲーもできないの?」

「ありとあらゆる心理学と物理学を頭に入れておけば、ポーカー程度なら全部わかるのと同じだ。だけど、セフィアがカードを切る以上は運ゲー要素も絡んでくる。トランプそのものも特別製だし」


 テーブルでぐったりする秀星。


「その言い分だと、一応やったことはあるみたいだな」

「あるよ。ただ、ちょっとそういう勝負になると、ディーラーが俺が発する『圧』に耐えきれなくなって潰れるんだよなぁ。だから、基本的にできたことがないんだよ」

「殺気の類か……まあ、勝負師ならそうなることもあるのか?いずれにしてもディーラーがつぶれるとは……」


 本気の秀星と戦う場合、それが戦闘だろうと運ゲーだろうと、秀星が発する『殺意』や『殺気』に耐えなければならない。

 これがまた強烈な死の外套を身にまとっているかのような状態になるので、大体の相手は心臓が止まるのだ。

 さすがにそれでは全く面白くない。


「まあもちろん、このテーブルでも結構抑えてるけど、そういう必要がない場合はお相手さんに殺意を当てまくって気絶させるからね」

「「容赦がない……」」


 相手をテーブルに座らせておく気がないのだ。ルール上反則ではなくとも倫理的に問題がありそうである。


「……で、秀星君。なんでボスモンスターの制度を導入したの?」

「ん?ああ……ボスキャラがあまりにも強すぎて、なんだか俺たちがいる意味が薄くなってきてるからな。ボスモンスターを作って、それをもとに争奪戦をやってもらった方が盛り上がるかなって思ったんだよ。運営が作ったルールだと、大量のポイントチケットを手に入れようとしたら、必ずボス部屋に入ってうまく拾って持って帰るしかないが、そもそもそれは俺たちの方が詰まらないからな。だったら、ポイントチケットを大量に手に入れることが可能なアイテムを配布する方がいいだろ」

「まあ、ボスモンスターの導入は別に珍しい発想というわけでもないだろうし、私もそこは気にしないが……」

「そもそも秀星君自身がボスキャラとして待機する意欲がなくなってきてるよね。早々に退場したいっていう感情が見えてるし、どうせなら運営側に立ちたいって考えてるのが見え見えだよ?」

「……まあ、おおむねそんな感じなのかもな」


 正直、ボスキャラというのは何も面白くないのだ。

 だが、神々がどかどかと踏み込んできて行う地獄のようなバトルロイヤルでなければ、秀星としても全く面白い要素がない。


 そのため、自分の存在を利用しつつ、さっさと退場できそうなシステムを導入したのだ。

 それがランクSアイテムを作った意図である。


「ま、多分何とかなるだろ」

「雑だね」

「雑だなぁ……」


 不評ではない様だが、好評と称するようなものでもない。

 どうやら風香と宗一郎としてはそんなレベルのようだ。

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