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第七十二話

「アストログラフが……壊滅したのですか?」


 エイミーは、父親のメイソンからの話を聞いて驚いた。

 自分たちを追い続けてきた組織の壊滅。

 喜ばしいことではある。

 安心できることではある。

 だが、必要な過程を丸ごと無視して消えてしまったような気がして、かなり不気味だった。


「ありとあらゆる情報を集めたが、どうやらそう言うことらしい。アストログラフは、トップになればなるほど重要な書類をため込むようなチームだった。まあ、それそのものに不思議はないが、アストログラフは度が過ぎている。そして先日、爆破事件が発生したようだ」


 トップがいなくなった場合、普通ならばサブリーダーがリーダーに格上げされたり、代理としてトップを作るものだ。

 だが、アストログラフはそう言ったことができない組織なのだ。

 戦場でもないのに、トップがいなくなると全ての機能が停止する。

 中央集権的な考え方を持つものが多かったということもあるが、それはいいとしよう。


「やはり、秀星さんがやったのでしょうか……」

「おそらくそうだろう。本部には恐ろしいほどの手練れがたくさんいる。本来ならば、トップがいる部屋にたどり着くことすら不可能だ。そんな組織を片手間で挑むような気分で潰すようなものを、私は見たことが無い」


 自分たちにとっての脅威は去った。

 いや、アストログラフがいなくなっただけで、生贄としての価値を考えている人間は多いかもしれないので油断はもちろんしないが、アストログラフがいなくなったことを考えると、おいそれと手を出すもの達は少なくなるだろう。

 当然のことだが、自分が所属する組織を潰してほしいと思っている人間はほとんどいない。


「それにしても、妙な気分だな。あれほど私たちは恐れていたのに、昨日今日で、恐れていたものがいなくなる」


 なぜ、それほどまでに恐怖していたのか。

 答えは単純で、自分たちにそれを防ぐ手段も手札もなかったからだ。

 秀星の庇護下に入る。

 それだけで、ここまで話が進んでしまった。


「エイミー。もうそろそろ、普通の生活というものを考えてみようか」

「……そうですね」


 これからも何かが起こるかもしれない。

 だが、きっと大丈夫なのだろう。

 そう思わせてくれる人がいるというのは、良いことだ。


 ★


「どうしたの?風香ちゃん」


 放課後。

 帰宅する際に誰と一緒に帰るのかと言うのは、登校してから一週間以内にほぼ固定する。

 徒歩なのか自転車なのか、家に速く帰りたいと思うタイプなのか、それとものんびりするタイプなのか。

 いろいろあるが、剣の精鋭のメンバーの場合は気分で決まる。

 特別な用事はそう多くはないのだ。


 風香は雫からの質問に対して、自分が何とも言え無い表情をしているのだということに気が付いた。


「……なんていうんだろうね。何かを捨てる覚悟をしてでもやりたかったことがあったのに、いつの間にか、それはもう終わっていた見たいな……そんな感じがするんだよ」

「あー……なるほどね」


 雫はその風香の言い分で察した。

 風香は、アストログラフと一戦交える気でいたのだ。

 地下のあの闘技場で、下位メンバーがかかわっているのかを判断して、かかわっていればそれはそれなりに相手をするが、かかわっていなければ上を叩く。

 当然、相手は銃やらなんやらいろいろ持っている相手だ。

 そもそも本部がアメリカにあるので、短くはない時間を確保する必要もあるし、クリアしなければならない問題がいくつかあった。


 だが、考えている間に、全て終わってしまった。

 本来なら難易度が高かったとしても、まるで息をするかのような自然さで、それらを片付ける。

 仲間でいてよかったと思う反面、覚悟することのむなしさを知るには十分だ。


「秀星君は強すぎるもんね」


 最終的にどういうことなのかをまとめるとそう言う感じになる。

 なるのだが、それだと自分たちが何のために戦っているのか。何のために今まで努力してきたのかが分からない。

 任せるに値する実力はある。それは確かだ。

 だが、分からない。


「風香ちゃんの過去に何があったのかを私は知らないけど、まだありがたみが分からないだけだよ。私たちにはそれなりに敵がいるかもしれないけど、今は秀星君が相手をしてる。本当に勝てないような敵に一対一で戦わなければならなくなった時、自分に努力してきた自信がないと意味がないからね」

「本当に勝てない敵って……」

「私も、それが誰なのかはわからないよ。でも、きっといる。ただ、一つ何かをひらめくことが出来れば、それだけで、今までの努力が報われる。一騎当千の仲間って言うのは、期待できるけど、でも、依存するべき相手なのかって言われると、私たちは首を横に振るでしょ?」

「依存してるって言われたくないけど……」

「秀星君は強すぎて、問題が大きくなる前にすべてを終わらせちゃうけど、こういうのはもぐらたたきだからねぇ……」


 二周目として、そしてアトムのそばで生きてきた雫にはなんとなく分かるのだ。

 大きな力を持つと味方が増えるが、大きな力を使うと敵が増える。

 その結果として今のようなことになっているのだから笑えない。


「覚悟してでも達成したかったことがある。それはいいけど、もうちょっと、秀星君に関係ないところで覚悟しないとね。そうじゃないと、良いところを全部持って行かれるよ?」

「……それは嫌だね」


 風香は苦笑した。

 覚悟すべき場所。

 本当の意味で『最強』のそばにいるということは、それを考える必要が出てくると言うことだ。

 それがどこなのか、それはさすがに、今の雫と風香にはわからなかった。

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