第七百十六話
「えっほえっほえっほえっほ♪」
椿がダンジョンの中を走り回っていた。
もちろん、何の意味もないわけではない。
いくら椿とはいえ、何も考えずにダンジョンの中を走り回るような子では……ないよな。ちょっと自信がないが、この場においてはしっかりと理由があって走り回っている。
「おおっ!私の財布の中にしっかりと溜まってます!」
時々財布の中を見て、その中身が増えていることに喜ぶ椿。
満面の笑みを浮かべて走り回る姿を見ているとほっこりするわけだが……いま椿の傍にいるのは、カメラを構えて追走するセフィコットしかいないのだ!
ちなみに、今の椿の格好にも原因がある。
アイテム名は『効果二倍のスポーツウェア』という『女性専用アイテム』で、チートアイテムであろうと関係なく、所有しているアイテムの『明確な数値が定まっている効果』を倍にできるというものだ。
抽象的な表現が使われず、数字が含まれる効果を発揮するアイテムを使うときに使うものである。
ちなみにこのスポーツウェアだが、『スポーツブラ』と『ホットパンツ』と『スポーツシューズ』の三点セットであり、これ以外の物を身に着けると効果が機能しないようになっている。例外として髪につけるものは可。
ちなみにこれ、セフィアの最高端末……要するに普段秀星の傍にいるセフィアが鼻血を出しながら作ったものであり、セフィコットを通じて『献上』された。
そして椿は『おおっ!すごいアイテムです!』と何の疑いも持たず、セフィコットが作った簡易更衣室で着替えてダンジョンで走り回っているのだ。
だが、このスポーツウェアは効果を倍にするだけであり、別にこれを着て走り回っているからと言ってお金が手に入るわけではない。超人為的な意味で別に手に入ってもいいけど。
椿が現在行動している『派閥』だが、『盤壁のマスターキー』の後に、『一歩百Pの髪飾り』を手に入れたのだ。数は力といったものである。
文字通り、歩くたびに百ポイントを貰えるという破格のアイテムだ。当然だがその場走りではカウントされない。
モンスターの討伐により手に入るポイントは、大体300~500程度。
もちろん湧き数はかなり多めに設定されているのだが、それでも、このアイテムの力には遠く及ばない。
正直、『テンスリング』の性能と比べてしまうとすさまじいレベルだ。
人の行動には歩く、走るというものが付きまとうものである。
……とはいえ、それは作った秀星にもわかっている。
図鑑にすらも書かれておらず、千秋が羽計にも教えていない『追加効果』があるのだが、そこは今は追及する必要はないとする。
「一歩で二百ポイント。そう考えるとすごいですね!」
確かにすごい。
単純に考えてみると『時給千円』を『一時間に五歩進むだけ』で達成しているのと同じである。
「このアイテムは取られないように注意する必要がありますね。他のアイテムよりも特に!」
椿は『えっほえっほ』とかなりテキトーに走りながらもそんなことを呟く。
もちろんそれもまた間違いではない。
派閥とともに行動して第二のボスモンスターを倒して手に入れたわけだが、その場ではだれも預金通帳を手に入れることはなかった。
英里がすでに持っているから、ということもあると思われるが、そこで悲観しても仕方がない。
手に入れたアイテムをどうするのかということで考えているときに、セフィコットが椿にスポーツセットを献上したので椿に髪飾りが渡されている。という状況だ。
そして椿も、『倒されると所有チケットの半分を落とす』『所有者判定が存在しないチートアイテムは倒されるとその場に残る』というルールは適用されているので、暗殺特化などの生徒に遭遇すると椿でも危ないだろう。
「むむ……セフィコットさん。ちょっと両替してもらえますか?」
「!」
ビデオカメラを持って追走するセフィコット。
本来なら『いつどこにいるのかわからない』という状態だが、モロ撮影しているので追走するしかない。
もちろんセフィコットそのものが高性能なのでカメラブレはないものの、隠蔽機能が存在しないので椿でもわかる状態だ。
ポイントチケットの両替や整理は、セフィコットに頼めばタダでやってくれるのがルールである。あずかってはくれないが。
「むー……むっ!」
「?」
セフィコットはカメラをすぐそばに置いて、ポイントチケットを数えてシュパパパッ!と両替していく。
そんな様子を、椿はしゃがみ込んで笑顔で見ているわけだ。なお笑顔の理由は不明。
ついでに言うと、さきほどからの『む』はよくわからない。
セフィコットは言われるたびに首をかしげている。
おそらく『椿語』である。ただ日本語訳を可能とする翻訳機能がこの世に備わっていないのでガンスルーしよう。
「よしっ!整理が終わりました!再出発です!」
また『えっほ♪えっほ♪』と椿が走り始めた。
それをみて、シパパパパパパパパッ!と足を高速で動かして追走するセフィコットである。
正直、椿は中学三年生ながらエロい体をしている。
年齢不相応な大きな胸に加えて、どうしたらそうなるのかよくわからぬくびれた腰に、小さいながらも引き締まったお尻など、ロリ巨乳という言葉を体現するかのような姿である。
そんな椿に、健康美やエロスを強調するスポーツブラとホットパンツという最強コンビを装備させるとどうなってしまうのか。
……当然、『あのセフィコットが持っているカメラをよこせ!』などと言い出す馬鹿がいるのである。
もちろん、学生は『あの椿の後ろにいるのが二人のボスキャラだし、椿ちゃんがはしゃいでいるのを見て満足しておこう』となっている。どうやら調教されているようだ。
だが、そんなことは大人たちには関係がないとばかりに、特に大物と言われるような人がそういうことを言っている。
男の脳みそは下半身にあるとはよく言ったものである。
もちろん、馬鹿なことを言っている大人はセフィコットが制裁しておきました。セフィコットの上にいるのは秀星だ。政治家程度怖くない。
「えっほえっほ♪あっ!こんにちわ!」
……といった様子で、時々誰かを発見してあいさつして回る椿。
彼らの目の保養になってくれると助かる。
そして、その頭についている髪飾りに注意を向けることをお勧めしたい。




