第七百十五話
「……千秋は黒馬をぺしゃんこにするつもりだったのかな?」
「私にはわかりませんけど……」
バトルロイヤルの様子は体育館や視聴覚室、その他の映像機材を使って沖野宮高校の各所で映し出されている。
秀星が作ったダンジョンと映像機材が使われているので、内部の映像は全て鮮明なものだ。
ちなみに、沖野宮高校の生徒であれば、学内専用のページにパスワードを入力してログインすれば、持っているスマホで確認することもできる。
秀星の『戦略級魔導兵器マシニクル』の付属パーツを使ったサーバーを使っているので、低スペックスマホでも高画質と高音質で視聴可能なものだ。
「神威先輩はどう思いますか?」
沖野宮高校が魔法学校になったことで予算が増え、結果的に増設された『大型ラボ』
数多くの個室や大型の作業部屋などが存在し、『生産職』にカテゴライズされるもの達が日々研究を行っている。
五階建ての最上階の最北の個室で、エイミーは質問していた。
「まあ、千秋はめんどくさがり屋だが、『何度も同じことで一々迷う』のは嫌う方だ。まあ、そうでない時も結構あるが、多分あの場面では黒馬を本気で倒しにかかってたと思う」
上月神威。
普通に切りそろえられた黒髪をはじめとして、特筆すべき点は一見ない。
ただ、まるで死んだような生命が宿っていない雰囲気の目をしている。
高校二年生であるエイミーが先輩と呼んでいるところを見ると三年生。
ラボで個室を持っているところを見ると生産職のようだ。
なお、『上月』という苗字は、一年生の男の娘、『上月奏』と同じ苗字ではあるが、血縁関係ではない。
学校内に同じ苗字の者がいる。というだけのことである。
「二十個のチートアイテムですか……」
エイミーは図鑑を取り出す。
その最初のページには、二十個の名前が刻まれていた。
ランクと共に。
ランクS 一個
『朝森秀星のボス部屋崩壊装置』
ランクA 三個
『課税保証書』『要求保証書』『免税保証書』
ランクB 四個
『VMパスコード』『盤壁のマスターキー』
『無敗拠点の鍵』『Bスポットの錠前』
ランクC 五個
『テンスリング』『グラスプネックレス』『強奪ペンダント』
『一歩百Pの髪飾り』『自在使用の銀細工』
ランクD 七個
『秀星印の剣』『秀星印の盾』『秀星印の弓』『秀星印の鎧』
『秀星印の矛』『秀星印の杖』『秀星印の銃』
「ランクDの手抜き感が果てしないな」
「ネタ切れですかね?」
「だろうな。ただ、ランクDという最下位ランクだ。シンプルなものにしているのは別に悪いことではない。あと、ランクごとに『属性』はあるようだな」
属性というか、特色というか、雑に設定したわけではない様だ。
一応のこだわりがある。ということだろう。
「そうですね。ランクSは特別なものですけど、ランクAは『税金』ですかね?」
「『課税保証書』は文字通り『税金を課すことができる』ものだろう。要求保証書は、その集めた税金の使い道を決めさせる。免税保証書は課税されない権利だろうな」
「三つが同時に存在しないとあまり意味がない関係ですが、揃ったらやばいですね。確かにある意味でランクAを名乗れます」
特に免税保証書は、課税保証書がないとほぼ無意味なアイテムだ。
だが、あらかじめ手に入れておいて損はない。というアイテムでもある。
「次にランクBですが……『鍵』ですか?」
「ああ。VMは『vending machine』……『自動販売機』の略だ。おそらく、自動販売機の中にあるが、本来は購入できない特別なアイテムを買える。マスターキーはダンジョンの外に出ることができて、無敗拠点の鍵は文字通り『拠点』の鍵なのだろう。『Bスポット』は『Blind spot』……『死角』の略で、おそらく認識されない領域を作ることができる」
略されている言葉も全て正確に認識したうえで説明する神威。
彼は一度も図鑑を見ていないのだが、エイミーが図鑑を読んで認識する情報と同じだ。
正直、すさまじいの一言に尽きる。
「どれも強力ですね。ランクCは……『ポイントチケットにかかわるアクセサリー型アイテム』ですか?」
「ああ、テンスリングは獲得量十倍。グラスプネックレスは『ポイントチケットの量と場所の把握』だ。『強奪ペンダント』と『一歩百Pの髪飾り』は文字通りのアイテムで、『自在使用の銀細工』は、『時間を問わないセフィコットへの交渉権限』だろう」
「そしてランクDはシンプルに強力なアイテムと……こうして並べてみると、ちょっと関係性がわかりにくいような……」
「あくまでもこれらは争奪戦だ。奪って、奪い返すという状況が少なからず発生するはず。その結果として一人が複数所持することも考えられる。そうなると状況は一変するだろう」
問題なのは、これらのアイテムが用意されており、そして誰が手に入れるのか。そして手に入れた後でどこまで警戒できるのか。ということだろう。
「……そういえば、黒馬先輩のネックレスは『グラスプネックレス』で、ポイントチケットの量と場所の把握ですよね。黒馬先輩自身のスキルもあるような様子でしたけど……」
「黒馬が持っているOESは『スプレッドシートブレイン』というものだ。そうだな……『頭の中に最新式の表計算ソフトを搭載している』といえる」
「……頭の中に計算機を積んでいる人が、チケットを把握するアイテムを手に入れたんですね」
どんなものでも、使いこなすことができれば大きなものになる。
加えて、今のバトルロイヤルはキルスコアが反映されず、ポイントチケットをどれほど獲得しているかが重要になる。
そんな状態で、高性能の表計算ソフトを使いこなすとなれば、後は正確な情報があれば大きなものになるだろう。
「千秋がすでにアイテム図鑑を手に入れている可能性もある。確実に不機嫌になっているだろう」
「ただ……千秋先輩も、預金通帳を持っていますよね」
「そうだな。だから、千秋が手に入れている『現金』の数は分からないはずだ。しかしその代わりに、預金通帳を持っていない者や、何かしらの手段で預けたりして、現金以外の形でチケットを所有していないものは、全て黒馬に認識されているだろう」
「そして、それらを全て正確に『状況を認識できる』ということですね」
「黒馬から聞いた話だが、表計算ソフトを使う場合の『入力』は、自分が認識した数字であれば一瞬で入力できるそうだ。表計算ソフトである以上、それらをグラフ化して認識できる。所有しているアイテムのランクはCだが、誰にとっても油断できない状態になっているだろう」
神威は特に何でもないことのように淡々と説明する。
要は『グラスプネックレスは黒馬ととても相性がいい』ということなのだ。
というより、ポイントチケットは単なるスコアではなく『金』である。
そんな中で、表計算ソフトのスキルを保有し、チケットの場所と量を把握するアイテムを手に入れた。
厄介にもほどがある。
「他にも、ボスモンスターが倒されている。もともと強くは設定されていない様だな。よほど、『アイテムの争奪戦』を演じてもらいたいらしい」
「秀星君らしいんですかね?」
「君がわからないことが俺にわかるわけないだろう。ただ一つ言えるのは……まだ、キーキャラが定まっていない。ということだな」
元々の実力、アイテムの存在、それらの活用力。
そして運。
まだ、『結果』は見えていない。




