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第七百十一話

「むむ?ボスモンスターが出現したみたいですね!」

「ぼ、ボスモンスター?」


 オークを抹殺した椿だが、届いたメールを確認して『新しい展開になりました!』と元気になっている。

 そばにいた国枝は『なんで今更』という表情である。


「ボスモンスターですか……メールの送り主は?」

「む……お父さんです!」


 椿が笑顔でそう宣言した瞬間、派閥全員が『またアイツか』という表情になった。


 天窓学園でバトルロイヤルに励んでいた時も、こうして急に『今からポイントチケット導入な!』といった様子でセフィコットが湧いていたものである。


「秀星先輩がねぇ。何か企んでんのか?」


 亮真が首を傾げた。

 現在、国枝、亮真、椿の三人でダンジョンの中を散策中であった。

 定期的に人数を分けて偵察に行かせる方針なのである。

 そして、結果的にこの三人になったのだ。

 新入生最強である国枝と秀星の娘として確かな実力がある椿を組ませていいのかという疑問に関していえば、そもそもこの二人に誰かを組ませると、そのチームのほか数人はいらない子になってしまうのだ。それほどの実力差がある。

 そして、二人を一緒にしてしまえば、お互いにお互いの得意分野を邪魔することなく行動できるのだ。

 ちなみに国枝と一緒に行動することが多いらしい亮真は普通と言って差し支えない強さである。


「亮真。難しく考える必要はないと思うよ。秀星先輩はこういうイベントでは特に計画性がない人だ。もっと大きなことに対してはいろいろ考えていると思うけど、バトルロイヤル程度のことに一々思考のリソースを割く人じゃない。多分、展開がダラダラしてるから導入しただけだと思うよ」

「好き勝手にシステムを弄るって……携帯ゲームじゃないんだぞ全く」


 亮真は銃の弾倉部分のカードリッジを入れ替えながら溜息を吐く。

 どうやら発動する弾丸魔法の種類を変えたようだ。


「むむ?国枝さんはお父さんのこといろいろ分かってるみたいですね!」

「実用書の行間読んでると、時々恐ろしいくらい技術が進んでるように見えるんだよね。そんな人が、ポイントチケット争奪戦程度のことに本気になるとは思えない」

「そうか?」


 亮真はまだ納得いっていないようだ。


「まず、ポイントチケット争奪戦は俺たちにとって重要なことだろ?」

「そうだな」

「それはなぜ?」

「え?だって……ポイントチケットがあれば『セフィコット・システム』を利用できるだろ。俺たちにとっては重要なサービスだしな」

「そのサービスを運営しているのはセフィアという秀星先輩のメイドさんらしい。ここまで言えば、俺たちが重要視しているセフィコット・システムが、どれほど『末端』に位置するのかがわかるだろ」

「あー……なるほどな」

「あと、秀星先輩の戦闘記録を見る限り、おそらく最も得意なのは直接戦闘だ。しかも、俺たちには想定なんてできないレベル。そんな人間にとっての末端の技術が、俺たちにとっては重要な技術なんだ。正直、溜息を吐きたくもなる」

「だよなぁ……椿ちゃんはどう思――あれ、椿ちゃんは?」


 亮真が聞こうとして見ると、椿が忽然と姿を消していた。

 きょろきょろと見渡していると、椿が遠くから走ってくる。


「国枝さーん!亮真さーん!セフィコットさんがいましたよ~!」


 その手でセフィコットの胴体をわしづかみにしているけど。


「あれって大丈夫なのかな」

「大丈夫だろ。ぬいぐるみだし、しかも中に機械が組み込まれてなくて完全に綿だから、どれだけ折りたたんでも引っ張っても問題ないみたいだし」

「どうやって動いてるんだろ」

「魔法だろ」

「そーだね」


 亮真のもっともな意見に苦笑する国枝。

 そして、椿はセフィコットを置いた。


「さて、どうしますか?」

「とりあえずボスモンスターの情報だな。『どこにいるのかがわかるアプリ』を手に入れることは可能かな?」


 国枝がセフィコットに聞いた。

 すると、セフィコットはメモ用紙に『1000ポイント』と書いて見せてきた。


「たったの千ポイントか……」

「普通に購入可能だね。これに関してはすぐに買ってしまおうか」


 というわけで、三人とも1000ポイントずつ出して、アプリを購入。

 スマホにボスモンスターの居場所が表示された。


「ええと……大体二十体くらいかな?」

「みたいだな。ボスの強さがどれくらいなのかっていう情報はあるか?」


 セフィコットは

 『ボスモンスターの姿と名前』一体2000ポイント

 『ボスモンスターの詳細情報』一体5000ポイント

 『ボスモンスターの討伐景品』一体10000ポイント

 と記載した。


「景品情報が一番高い?」

「てことは、ボスモンスターを倒すと『特別なもの』が手に入るってことなのか?」

「ほー……」


 椿が何か納得している。


「椿ちゃん。未来ではボスモンスターは出現するのかい?」

「はい!ボスモンスターを倒すと、そのバトルロイヤルの間だけ使える特別なアイテムを手に入れることができますよ!」

「強力なもの何かあるかな?」

「そうですねぇ……『セフィコットさんがどこにいるのかがわかる』ものや、もっとすごいものだと『一か所に誘導すること』も可能なアイテムもありますね。あと、相手が持っているポイントチケットを奪うことができるアイテムなどもありますよ!」

「「!?」」


 椿の説明に驚愕する国枝と亮真。


「そ、それって……盗むのと同じじゃねえか?」

「いや、バトルロイヤルを行う会場内に、所有していたポイントチケットを持って入ることはできないから、バトルロイヤル中に所有するポイントチケットは必ず、その会場内で手に入れたものになる。『奪う』ということも、かなり強引だが『ゲーム倫理的』に絶対反対できるようなことではない」

「あ、そっか。しかも、そのバトルロイヤル中しか強奪アイテムが使えないってことは、バトルロイヤルが終わればガラクタだもんな」

「少々重い話だな……椿ちゃん。ボスモンスターを倒した人だけが手に入れる『特権』みたいなものって何かある?」

「そうですねぇ……あっ!未来ではボスモンスターを倒すと、そのバトルロイヤルの間だけ『通帳』を発行できるという特権がありましたよ!未来のお父さんが、『最初にボスモンスターシステムを導入した時から取り入れてたなぁ』って呟いてました!」

「それがボスを討伐する最大の理由か……」


 椿はバトルロイヤルが始まってすぐに、『2500ポイントの借金をします!』とセフィコットと契約していたが、未来では契約書ではなく、借金として通帳に記入するだけで可能な可能性もある。

 椿にはもともと、バトルロイヤル中に『セフィコットには銀行が備わっている』のが普通だと考える思考があるのだ。


「……セフィコット。今の俺たちって、『ポイントチケット』を預け、そして引き出せる『通帳』を作ることはできるのか?」


 亮真がそういうと、セフィコットは少し迷ったうえで、紙に『一応発行できない』と書いた。


「……一応ってどういうことなのでしょうか?」

「『セフィコット銀行の通帳は発行できない』という意味だろうね。一応、『強奪アイテムに引っかからない金庫』と『自動記載可能な手帳』と『銀行という金融機関の存在を成文化する契約書』をポイントチケットで買えば、今の俺達でも銀行を作ることは可能だ。雑に言えば『国枝銀行の通帳は発行可能』だからね」

「あ、今のは俺にもわかった。ていうか、ボスモンスターを倒さなくても、俺たちで銀行を作っちまうことは可能なんだな」


 納得している様子の亮真。

 ただ、国枝としてはそれだけでは足りないらしい。


「銀行に限らず『会社』を作ることもできる。英里先輩が契約書を作って、俺たちが『とあるルールに基づいて動く派閥』に属する生徒であることを成文化してるけど、チームも強引に言い換えれば会社みたいなものだ……しかし、秀星先輩はやたらと『金』というシステムを組み込みたがる人だね」

「その方が多様性があるということですかね?」

「あると思うよ。ただ、高校生には難しい話だ。日本は特に金に対する教育が外国と比べて遅れてるからね」


 国枝は頷く。


「まあとにかく、今はボスモンスターの情報だ。多分英里先輩が頭を抱えてるだろうから、セフィコットをこのまま捕まえて行ってみよう。いつの間にかいなくなるからね。おっと、逃げちゃだめだよ」


 国枝が逃げようとするセフィコットの襟をつかんで摘み上げる。

 セフィコットが『こらああああ!おろせえええええ!横暴だああああああ!』と言いたそうにジタバタしているが、国枝はどこ吹く風。


「国枝さんって容赦ないですね!」

「褒めてるのかそれ……まあいいや。国枝。お前『会社』を作れるって言ったよな。お前が思う『ポイントチケット争奪戦でできたらヤバい会社』ってなんだ?」

「ヤバいかどうかはともかく、俺は『保険会社』ができたらちょっと考えざるを得ないかな。まあまだその段階じゃないけどね」


 そういって、国枝は二人を先導するように歩いていく。

 椿と亮真は「保険会社?」と首をかしげながらも、国枝についていった。

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