第七十一話
魔法社会にしか流れない動画だとか、そう言ったものは存在する。
当然といえば当然だが、アストログラフの戦いに関してはばっちり載っていた。
アストログラフは、アメリカでは強力な魔装具を使った訓練をして強くなったチームだ。
魔装具の威力に頼っているため、確かに秀でたものはない。
だが、その長期間の訓練と実戦で培ってきた実力と、優秀な指揮官の配置で栄光を積み重ねてきた。
のだが、わざわざ喧嘩を吹っかけて、一秒で惨敗して、勝った向こう側が何も求めずに撤収していった。
どこをどう見ても敗北に決まっている。
それプラス屈辱である。おそらくこれほどのものはなかなかないだろう。
別に歴史的だとかそう言うレベルまで行っている訳ではないが、それでもいろいろおかしい。
「さて、そろそろ行かせてもらおうじゃないか」
秀星は自宅でそう言った。
「アストログラフの本拠地に乗りこむのですか?」
「そうだ。俺だって、多少の黒い部分なら目をつむるけど、生贄とか、実験だとか、そう言った目的で人が殺されるのは我慢ならん。というわけで、本当の生贄と言うものがどういうことなのかを教えに行こうじゃないか」
そういって黒い笑みを浮かべる秀星。
「生贄を必要とする技術で、一体何がしたいのかさっぱりわからんし、そもそも目的なんてものがあるのかどうかもよく分からんが、それでも叩き潰しに行こう」
「それは言い換えるならただの八つ当たりなのでは?」
「大丈夫だ。世の中の七割は何となくでできているからな」
「何ですかその数字……」
「まあそれはおいておこう」
作戦は単純。
敵陣本部に乗りこみ、爆発魔法を叩きこむ。
実はこれだけなのだ。
いろいろ考えている訳だが、することは超シンプルである。
「あと、アストログラフってマイナス評価も多いみたいだな」
「傲慢なメンバーも多いですが、日本で言う名家出身のものも多いみたいです。さらに言えば、魔法社会で得た大量の資金を表社会でも使用し、成功し続けています。明日も明後日も、それが続くと信じている」
「まあでもぶっちゃけ。生贄とかそう言うことを考えているのって組織の中でも上の連中だからな。組織の下位に位置する人達に罪はないからね」
秀星は『ワールドレコード・スタッフ』で、『アストログラフ本拠地』を検索した。
「アメリカの中では辺境に立ってるんだな。と言うわけで行ってきます!」
「いってらっしゃいませ」
マシニクルを右手に構えて、秀星は転移した。
★
「どうするつもりだ!ルイス家の捕獲どころか、普通の生贄の確保にまで失敗した挙句、こんな瞬殺された動画が出回るなど、アストログラフ結成以来の恥だぞ!」
アメリカにあるアストログラフ本拠地。
社長室のような場所である。
いろいろと資料が並べられているが、中には良い印象を与えない見出しの本もある。
「も、申し訳ございません」
その瞬殺された部隊の隊長。
気絶していたのに、そのまま魔法社会専用の飛行機に乗りこんで空を飛び、この本拠地まで連行されていた。
なかなかダイナミックと言うか、変人の思考と言うか、日本人にはない考え方である。
「君たちの失敗ごときで、我々の権威が揺らぐわけではない。ただ、この失態は大きすぎるぞ。これから先の交渉で足元を見られるということを理解しているんだろうね?」
「は、はい。申し訳ございません」
謝ることしかできない。
もともと、アメリカは成果主義の色がある。
当然、魔戦士社会もそれは根強いのだ。
「君も早く挽回できるほどのなんらかの功績を上げてもらいたいものだ。ルイス家を含め、生贄と言うものを求める外部協力者が多いのだからな」
「その外部協力者って言うのをちょっと聞きたいもんだな」
ドアがいきなり大きくあけ放たれる。
「な……お、お前は朝森秀星!」
「……やっと知れ渡るようになった。ここまで長かったな」
秀星はしみじみとした感じでそう言った。
別に目立ちたいわけではないが、誰にも知られていないと空気が薄いやつみたいでいやなのだ。
異世界ではできる限り自分を隠し続けていたのだ。ちょっと承認欲求が芽生えても仕方がない。と思いたい。
「さて、その外部協力者って言うのは、犯罪組織のことかな?」
「何を言っている。証拠はあるのか!」
怒鳴り散らす男。
それに対して、秀星は淡々と答える。
「状況証拠はしっかりそろってるんだよ」
「だから、物的証拠の話をしている。何を考えているのか知らないが、大した証拠もないのに――」
「俺がお前を裁くのに、物的証拠なんて要らないよ」
「……は?」
秀星が言った『物的証拠はいらない』ということば。
椅子にふんぞり返る男は、一瞬、その意味を理解できなかった。
「君たちみたいな奴に対して何かするとき、物的証拠なんて探してたらいろいろとおくれるからな。だから……そんなものは関係なく、君たちが次の行動に移る前に叩き潰す。簡単に言えば、俺がここに来たのはそう言うことなんだよ」
「な……物的証拠もなく人を裁くだと?ただの賊ではないか!?」
「それが悪いと決めているのは世間であって、俺には関係ない話だ」
秀星はマシニクルを構える。
「わ、私をどうするつもりだ……」
「調べさせてもらったよ。アストログラフがおこなったルイス家の捜索任務。および、確保任務においては、全てお前が担当していたとね。別に俺も、多少の悪いことは目をつむるけど、生贄とか、そう言うのは大嫌いなんだ」
マシニクルの銃口が光りだす。
「ま、待て!」
「無理だな」
秀星は引き金を引いた。
次の瞬間、魔方陣が出現し、一つの樽のようなものが出てきた。
すごく重そうで、全て黒いので何とも言え無い重圧感を感じる。
あと、思いっきりドクロが描かれていた。
「それは一体何だ?」
「さあ、君が想定しているものと同じだよ。じゃあ、俺は帰るから、それじゃあね」
秀星は部屋から出て、そのままその姿を消していく。
「は、速くあれをどうにかしろ!」
「む、無茶ですよ!私はそんな知識はありません!一刻も早く爆発物処理班を――」
次の瞬間、樽に描かれたドクロが光りだす。
……この日、アストログラフはトップと本部を失い、壊滅したそうだ。