第七百八話
「椿は英里たちと行動か……まあ、あの感覚が珍しいっていうのはあるんだろうな」
「秀星様は賛成も反対もしないように見えますが……」
「その通りだな。セフィアから見ても、あの集団が悪いようには見えないだろ」
「そうですね」
秀星が自分が使っているボス部屋で、なぜかトランプを大量に取り出してタワーを作っていた。
……まあ要するに暇なのだが。
「椿は未来では友人と組んでるって話だし、多分ああいう感覚は珍しいだろうな」
「ふむ……秀星様は、あの派閥というものをどう思いますか?」
「それは『バトルロイヤルに置いてどう有意義なのか』ってことだよな」
「はい」
「……そうだなぁ。まあこればかりは上に立つ人間の指導力でしか決まらない部分が多いけど、『バトルロイヤル』って状況になると本当にいいのかどうかはかなり謎だな」
「謎?」
「メンバーを細かく見ていけばわかるんだが、俺たちの学校で行われるバトルロイヤルは別に、全く同じ生徒を繰り返し採用してるわけじゃない。その都度、若干の変更が加えられている。だから、『派閥の全ての人間がバトルロイヤルに参加できるわけではない』からな」
「それはそうですね。そもそも今回、英里様が率いる派閥は十人程度しか参加していません。それを考えると、『派閥としての最高戦力』を引き出すことは不可能。バトルロイヤルへの参加は志願制ではありませんからね」
「まあ最悪、『今まで呼ばれた生徒』の評を細かく見ていって、次にバトルロイヤルに呼ばれるであろう生徒を派閥に入れておくっていう方法もあるにはあるが、別にバトルロイヤルに参加する生徒の数が多いからといってどうにかなるわけじゃないしな」
秀星はそう考える。
悲しい話……というよりはほぼ『当然』の領域だが、人間というものは人数が増えると手を抜くものである。
生真面目で周りの評価がとても気になりまくる人間というものは、集団に属する人間の中でも多くはないはずだ。
もちろん、実力と真面目さが両立している人間も英里に派閥には少なからず在籍していると思われるが、その一人の人間による影響がどれほど大きなものなのかは秀星にもわからない。
結果を見て『まあそんなもんだろ』と思うことはできるのだが、秀星は心理学は苦手だ。
「ただ、英里様の派閥はうまく回っているように見えますね」
「そうだなぁ……ただ、マニュアルがしっかりしてるようにはみえないんだよなぁ、いつでも結構全員で行動してるし……ああなると、最も移動能力が低い生徒に合わせなくちゃいけなくなるからな」
英里の派閥は現在、ほぼ全員で一緒に行動している。
そして、その集団戦闘力を活かして、大型モンスターを倒すことを目的としているようだ。
もちろん、このバトルロイヤルは実質『ポイントチケット争奪戦』なので、その戦略を選ぶことはルール違反ではない。
ズルいというのは論外である。自分も同じようにチームを作ればいいのだ。誰にでも認められている。
……ちなみに、秀星が言った『最も移動能力が低い生徒に合わせなくちゃいけなくなる』という点に関しては、その生徒に付与魔法をかけてスピードを上げればいいだけの話だ。というよりこれは派閥に属している全員が考えていなければならないことである。
派閥の人間が、全員がそのポテンシャルを発揮したうえで大量のポイントチケットを稼ごうとするならば、すごく強いモンスターか、ポイントチケットを大量に集めた生徒を狙うしかない。
ちんたらしていて先を越されると、収支を計算するとひどいことになるのだ。
人を率いるのはタダではない。宗教は別。
「まあ、なるようになるだろ。別にならなくてもいいけどな。椿が雰囲気を掴むことができればそれでいいさ。いまのところ」
「そうですね」
まだ、成長を実感して自信をつける時期だろう。
年齢から言えば中学三年生である椿。
精神年齢は幼いが、一応、心に『芯』のようなものはある。
それをもっと鍛えることができるような、そんな状況に身を置けるのなら、それ以上をむやみに望んでも何も手に入らなくなるだろう。
秀星はまだ、それを卒業できていない。




