第七百二話
「みんな圏外ですうううううう!」
ダンジョンの中を椿の頭の悪そうな叫び声が響いた。
一応、このダンジョンにおけるスマホの制限の話をしておく。
今回のバトルロイヤルでは、『生徒同士で連絡を取り合うためには、セフィコットに依頼して権利を獲得しなければならない』ということになっている。
連絡を自由に取り合うのは、強力なモンスターが徘徊する『協力サバイバル』ならともかく、今回は人間同士の戦闘も考慮しているので、『自由に連絡を取り合える状況』というものがふさわしくないという考え方になっている。
言い換えれば、禁止されているのは連絡であって、スマホを使うことそのものは何も禁止されていない。
オフラインで使える機能であれば何も問題はないということだ。
魔戦士という職業が出現したことで、『ダンジョンの中で使える効果的なアプリ』というものも開発されているので、それらをインストールしているものもいるだろう。
もちろん、それらで『連絡』が絡んでしまうと使用不可である。
なお、『通信』そのものは禁止されていないので、スマホゲームで遊ぶことは実は可能なのである。
そんな猛者はこの場には数人しかいないけど。
そのため、セフィコットを発見して『連絡権利』を購入することで、スマホはいつも通りの機能を発揮する。
……のだが、椿が使えるようにしたからと言って、誰かにかけても返事は返ってこない。
『おかけになった電話番号は現在使用されておりません』という無機質で残酷な音声が聞こえてくるだけである。
「む……むうううううう……完全に忘れていました。てっきり、皆さんも連絡を取り合えるようにすると思っていました……」
沈む椿。
どうやら未来では、『一応人間を狙うよりモンスターを狙う』という風潮があるようだ。
そうなれば、一応連絡を取り合えることは悪いことではないので、数人は確実にセフィコットを発見したら連絡権利を貰うために動くだろう。
「未来とは風潮が違いますね……はっ!」
再びピコン!と何かをひらめいたようだ。
「セフィコットさん。残りの二百五十ポイントで、私以外の誰かの連絡権利を買うことはできますか?」
その言葉を聞いたセフィコットは、少し考えたようなそぶりをした後、紙にペンでさらさらと書いていく。
そして椿に見せた紙には、『2500ポイント』と書かれていた。
「にゃんですとおおおおお!?」
思っていたより高い。
まあそもそも、他人の連絡権利というものが高くないわけがない。
「ぐぬぬ……今から集めるとなると、2500ポイントを集めた時にセフィコットさんに会えない可能性がありますね……」
このダンジョンの中にいる状態で物を買うとなった場合、『自動販売機』と『セフィコット』しかいない。
自動販売機の方は『内容はそれぞれ違うが、それ以外の物は買えない』『設置場所が決まっている』
セフィコットは『売られている内容のバリエーションはかなり豊富』『何処にいるのかはわからない』
というものになっている。
そしてルール上、生徒たちは交渉以外でセフィコットに触れることは禁止されている。
そのため、鞄などに突っ込んで持ち歩くことはできないのだ。
権利を買うとなれば、セフィコットに頼むしかないわけだが、そうなると、今椿と話しているセフィコットがどこにいるのかわからなくなってしまう。
それは不味い。
「むうう……あ!セフィコットさん。利子を一時間5%で、2500ポイント貸してください!」
「!?」
発声器官のないセフィコットだが、盛大に驚いたような顔になった。
まさか、一気に手元の金を増やす手段である『借金』というものを、しっかりと椿が認識しているとは思わなかった。
ちなみに、2500の5%は125なので、椿なら十分返せるだろう。
「……」
セフィコットは迷ったが、承諾。
契約書を書いて、椿にサインしてもらい、そして2500ポイントを渡した。
「よし!」
そして椿はその2500ポイントを使って、『他者の連絡権利』を購入。
「これで電話することができます!」
喜んでいる様子の椿。
……そこまで執着するとは思わなかった。
とはいえ、セフィコットとしては、椿の口から『借金』というものが出てきた時点で頭の中は驚愕でいっぱいである。
未来でセフィアが何を吹き込んでいるのやら。と悩むのだった。
……まあ一個のマスコットでしかない彼女がそれを考えても仕方ないけど。




