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第六百九十四話

 夜。


「来夏さんとのダンジョン探索。楽しかったです!」


 寝間着姿で朝森家の自宅ではしゃぎまわる椿。


「おー。本当に元気いっぱいだなぁ」


 来夏はビール缶を開けて飲みながらそんなことを呟く。


「まあ、楽しかったら何より……ん?セフィア。どうしたんだ?」

「いえ、何も」


 秀星は見張ってはいたのだが、いろいろ暴露情報が心臓をえぐってくること以外は大したことはないので(まあその時点でいろいろヤバいといえばまあそうなのだが)、秀星もそのまま見張っていた。

 で、その隣でちょっとセフィアが疲れたような表情をしているので、珍しいと思って聞いてみたが、セフィアは何も言わない。

 とはいえ、秀星が追求するものだとは考えなかったのでスルーした。


 椿は終始笑顔で、モンスターを相手にするときはちょっと真剣な顔になる。

 ただ、その真剣な顔になった時も『小っちゃい子が頑張ってる感じ』がしてすごくかわいいのだ。

 ……ただ、秀星と風香仕込みの実力なのでクソ強いけどね。


「お父さんもお母さんも、授業中は当てられたら全部答えてました!すごいですね!」

「私はあまり難しいと思うところはなかったね」

「そもそも俺は教科書を作る側だからなぁ……」


 秀星も風香も、授業程度でどうにかなるようなレベルの脳みそではない。

 ……のだが、秀星としては『俺ってアルテマセンス抜きだとどうなっちまうんだ?』と思う部分がないわけではない。

 過去に行った時の自分の馬鹿さ加減はよく覚えているからだ。

 とはいえ、その神器を使って自分の体そのものを作り変えているため、神器が使えなくなる部分には何も問題はないけど。


「来夏さんは学生の頃はどんな感じだったんですか?」

「ん?オレの学生の頃か?」


 来夏に質問する椿。

 来夏はうーん……と唸る。

 まだ幼いころは淑女だったと聞いたことがあるような気がしなくもないが。


「そうだなぁ……アレシアみたいな感じだな」


 外見と腹黒さを合わせた話なのだろうか。

 それとも外見だけなのだろうか。

 アレシアは傍目に見る分には淑女である。

 ただ、大量の魔石の確保を有言実行する資源国家として、エインズワース王国はどこよりも成功しており、その国の王族の第一王女というだけあって、アレシアの権謀術数は実は悪くない。


(事実なのが尚更タチが悪いですね)


 セフィアは内心でそう突っ込んだが、いまさら言っても来夏が止まることはないだろうし、高志がいるので再発する可能性がある。

 おそらく戻そうとすれば、非常に惨めな労力が必要になるだろう。

 『すごいおならをしてこうなった』そうなので、体の中に特殊なガスがあったと思われるが、まるでその中身が理解できない。


 ただ、現実として『こう』なってしまっている来夏を淑女にするようなガスだ。

 もしもそれらを開発して、世界中に散布した場合、すべての人間が本能よりも理性が上回った状態になってしまい、結果的に文明の進化に必要な『欲望』が発生しなくなることで世界のすべてが停滞する可能性がある。


 最終的にそれが必要になるときが来るかもしれない。

 というか、余計なことばかり考えている神になら使ってもいいだろう。

 ただ、そんなものはこの世にない方がいいかもしれない。


「アレシアさんみたいな感じですか?」

「ああ。まあ、椿が知ってそうな人の中で言えばそんな感じだと思うぜ?」

「なるほど……要するに……とてもやさしい人なんですね!」

「お前アレシアにどんな印象を持ってるんだ?」


 椿の印象表現によってコケそうになった一同。


「未来ではアレシアさんはとてもやさしいですよ!未来でも剣の精鋭のメンバーではないので、エインズワース王国に行った時しか会えないですけど、お風呂でギューッと抱きしめてくれます!」

「そ、そうか……」


 そもそもみんなに愛されて育った結果『みんな大好きです!』となった椿にとって『優しい』の基準がどこなのかいまいちわからない。

 ただ、予測としてはかなり低いはずだ。


 ……そもそもの話をしてしまえば、『椿にやさしくしない人間』というものが想像できないのだが。


 椿もこの世界の人間であり、オリジナル・エッセンス・スキル……『OES』を持っている。

 スキルの名前は『ハートフル椿パワー!』である。

 頭の悪そうな名前だ。ちなみに『!』までが名前である。


 その効果は、

『自分を軸にして、周囲にいる人間の心理的障壁の緩和と心理的出力の増幅により、周囲にいる人間の『愛している』『愛されている』という感情を満たすこと』

 である。


 愛している。というのは恋愛的な意味ではなく、家族愛や友情といった人と人が接する際の『接近基準』の話である。

 恋愛的愛情ではなく社会的愛情と言い換えた方が単純だろうか。

 そして軸となっている椿自身への影響はすさまじいもので、椿はパーソナルスペースが異様に狭い。

 というか、見ず知らずの人間に顔、頭、胸、尻、ふともも、股間を触れられても不快感を感じない。

 そこまでならまだスキンシップで済ませるのである。

 ただし、実際の性行為となるとそれは『恋愛』の領域なのでさすがに困惑が発生する。


 そういうレベルに達している上に、なおかつ最大の特徴がある。

 それは、『秀星が本気で全力を出しても無力化させることは不可能』であるという点。

 スキルの効果を優先力があまりにも強く、ありとあらゆる無力化手段が通用しない。


 世界最強の『社会的愛情増幅スキル』である。

 ただし、あくまでも『増幅』であって『生成』ではないので、人間との社会的愛情を構築できない生物とはつながりようがない。

 その代わり、どれほど『心を捨てた』とか『愛など無意味』などと言っている人間がいたとしても、椿の前ではその手の『悲しい信念』は無意味になる。


「なんていうか、すごく……ほわほわしてるよね。椿ちゃんって」

「だな」


 ただ、このスキルは先天的なものではなく、椿が後天的に獲得したものだ。

 無意識かもしれないが、自分の選択で手に入れている。


 最も、何も考えていないというのが世の中の真理だ。

 なんとなくでやった。と言う人間は、大体なんとなくでやっているのである。

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