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第六百九十三話

 ポイントチケットシステムによって『椿の画像データ』を買いたいといってきた生徒たち。


 セフィアはそれに対して、『私に任せろ』と言わんばかりに了承した。

 ただし、秀星に対しても隠して撮っておきたい極秘プロジェクトである。


 過去に飛んできた椿の画像データが『裏で流通する』という形で現代に残ってしまうと、実は秀星がすごく嫌な顔をするほど嫌なことになるのだ。

 大々的に発表する分には問題ないし、監視データの一つとして残る分にも問題はない。

 現在、椿の安全な時間移動が可能な秀星が、今も未来でも神器を所有している可能性が十分にあるので、それらによって管理されるということになる。


 主に沖野宮高校とその周辺における『監視データ』は魔法省に管轄権限がある。

 そして、秀星は現代の魔戦士学校の教育現場の指導要領に対する権限を持つほどの存在であり、沖野宮校と周辺であれば、管理にセフィアの力が多く使われていることもあり、必然的に管理にかかわる。


 だが、秀星が管轄しない形で、画像データが流通するとなると管理が面倒なことになる。


「ですが、契約してしまった以上、仕方がないですね」


 生徒たちは確かに一定量のポイントチケットを提出すればセフィアにサービスの依頼が可能だが、あくまでもセフィアの裁量権の範囲内である。

 こと『時間軸』で現代の外にいる椿がかかわると、様々な抜け道をついたギリギリなもの。

 そして、裁量権の範囲内であれば、セフィアは多少無理をしてでも受けるようにと秀星から言われているのだ。

 秀星はそもそも、生徒たちがセフィアが困るほど大きな『提案』ができるとは微塵も思っていなかったのである。


「ポイントチケットの額は莫大ですが、まさか、天窓学園にいる生徒たちとの共同出資とは……天窓学園にいたあの『議長』……金の使い方においては私以上にわかっている可能性がありますね」


 天窓学園にいた時に天窓学園の生徒たちをまとめ上げていた生徒。

 今では『議長』と言われているようなのでセフィアはその二つ名で呼ぶ。


「まあいいでしょう。チケットの量に問題はなく、私自身、裁量権の範囲ではある。受けてやろうではありませんか」


 謎の闘志を燃やすセフィア。


 というわけで……まずはカメラの用意である。

 一応、セフィアは人間ではなくあくまでも『最高端末』なので、その目には録画機能も備わっているが、こちらを使うと秀星にバレる可能性がある。

 そのため、外部装置のカメラが必要だ。


 ので用意して、セフィアは来夏と共にダンジョンに向かった椿を追跡する。


 ★


(やはり、秀星様が見張っているようですね)


 来夏が何を吹き込むのか不明である。

 そのため、モンスターと戦っている椿と来夏にバレないように、秀星が見張っていた。


 ちなみに、来夏には『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』があるので常人ならこの力から逃れることはできないのだが、秀星は当然解析が終わっているので、偽の自分の座標を認識させることは容易である。

 そしてその解析データをセフィアも持っているので、普通なら大丈夫だ。

 ……さすがに『ギャグ補正』の効果をガン積みされるとセフィアも退散するけど。


(さてと、雑談中ですね)


 セフィアは椿と来夏の会話をとりあえず聞いておくことにした。

 会話の内容によっては笑顔になることだってあるだろう。

 その流れで来夏が椿の頭を撫でるかもしれないし、それもできればカメラに収めておきたい。


「椿、バールで空間をぶち破れることは知ってるか」

「はい!知ってますよ!私もできます!」

(嘘だろ!?)

(嘘でしょ!?)


 見張っている秀星とセフィアの心がシンクロした。

 椿がバールでの空間ブレイクを知らないとは思っていない。

 だがそれと同時に、できるとは思っていなかった。


「おー、椿もできるのか」

「はい!それを使って忘れ物を家に取りに帰ってます!」

(どうせなら転移魔法を使ってくれ……ていうか、忘れ物をするのになんでバールは常備してんだよ!)

(というか、私が次の日の準備をするはず。何をどうすれば忘れ物ができるのやら……)


 秀星とセフィアは頭痛がしてきた。

 バールでの空間跳躍という、まだ完全な解析ができないスキルを使って忘れ物を取りに行く。

 いや、そもそもの話、セフィアの奉仕能力を超えて忘れ物をするというのは不可能なレベルだ。意図的にするのも困難なのに、なぜそれが無意識にできるのやら。


「いろいろ失敗も多いスキルですね」

「そうなのか?」

「はい!自宅の私の部屋で、ランダム設定で上に向かって振り上げたことがあります」

「ほうほう」

「そしたら、ちょうどお母さんがお風呂に入っているときに、底をぶち抜きました!」

「アッハッハッハッハッハ!」


 セフィアは盛大に笑いをこらえながら、爆笑を同じくこらえる秀星の隙をついてパシャリ。

 データを確認すると、そこには頼れる姉御肌の美人と、満面の笑みを浮かべる椿の姿が!

 ……話題がアレだが、画像なので問題はない。多分。


「風香に怒られただろ」

「そうですね!とはいっても、その日は私が特別入るのが早かっただけで、普段はお父さんとお母さんと一緒に入っているので、『驚かすな!』とだけ言われました!」

(……)

(未来の風香様。めっちゃ大人……)


 セフィアは秀星を見て『まあまだこの秀星様なクソガキですしね』と内心罵倒した。

 『器』の抜けた秀星など男として限界がすぐに来るのである。

 とはいえ、器があったとしても、秀星が二子の母に勝てるとは思えないのだが。


「そういや、未来の秀星ってどんな感じなんだ?」

「未来のお父さんですか?」

「ああ。どうなんだ?いろいろ面白いことがあるんじゃないか?」


 とてもあくどい笑みを浮かべる来夏。


「そうですねぇ……あっ!そういえばお父さん。来夏さんに抱きしめられながら号泣したことがあるみたいですよ!その後に膝枕してもらったことがあるみたいですけど、絶対に言っちゃだめだぞ!っていってました!」

「え、マジで?」

(言っちゃダメだろおおおおおおおおお!)

(ブフッ!椿様の秘密の鍵はぶっ壊れてますねぇ)

「あと、お父さんとお母さんがあんなことやこんなことをしているとき、それをみながらセフィアさんはオナッていたって聞いたことがあるんですけど。どういうことなんですかね?」

「うーん。そういうのはまだ早いと思うぜ?」


 性教育を行うのが十五歳で遅いかどうかはともかく、秀星は頭を抱える。


(セフィア……何やってんだ全く)


 メイドだし仕方ないね。多分。


(ていうかなんで言うんですか!?)


 それは秘密の鍵がぶっ壊れているからだ。自分で言っただろう。


「うーん。まああいつらって世界一位とそのメイドだけど、ぶっちゃけ変人だからな」

((お前にだけは言われたくないわ!))


 来夏のあんまりな評価に内心でツッコむ秀星と来夏。


「でもな。アイツらだって所詮は人と、人が作ったものにすぎねえしな。椿は秀星とセフィアのことは好きか?」

「はい!大好きです!」

「まあ椿はそうだろうな。で、周りの大人と比べてちょっと変だなって思ったことはあるか?」

「はい!」

((……………………………))


 苦虫を嚙み潰したような顔になる秀星とセフィア。

 なんだろう。ただ見張っているだけなのにここまで心をえぐってくる会話ってできるものなのだろうか。

 ギャグ補正がちょっとだけ機能しているのかもしれない。


「ハッハッハ!まあいいや。ダンジョンの次に進もうぜ」

「はい!」


 元気よく来夏についていく椿。

 それを見ながら、いろいろ思うことはあるが画像データのために追いかけることにした。


 ★


(ふう、何とかいろいろな写真を撮ることができました。感情が豊かな来夏様と話しているといろいろな絵が取れますね)


 ポイントチケットの裏窓口。

 沖野宮高校の地下の一角に、緑色のハチマキを頭に巻いたマスコット・セフィアがいる。

 このマスコット・セフィアは箱のようなものを背負っており、この中に校内で極秘取引されているものが存在するのだ。


 ちなみにこのようなマスコット・セフィアは珍しくはない。

 椿の画像データとは別で、『裏で手に入れたい』という依頼はそこそこ生徒からあるのだ。

 中には生徒たちの中で組んでいるチームが、自分たちのサポートサービスを運用していることもあるので、あくまでもセフィアの裁量権の範囲で独自に動くマスコット・セフィアも存在するのだ。

 数だけは大量にあるので、秀星からもそういう利用目的でも引き受けていいと言われているのでノープロブレムである。


(ただ、こんかい椿様の画像データを管理しているのは、私が直々に作ったマスコット・セフィアです。さすがに管理が大変ですからね)


 訪れる生徒からポイントチケットを受け取り、写真が入った封筒を渡すマスコット・セフィア。

 かなりの勢いで消費されているようだ。

 とはいえ、椿の写真はあくまでも癒し目的であり、エロいものではないので持っていても『お前ロリコンだな』といわれるだけだ。

 秀星に見つからないために特殊な魔法付与を行っているので、問題はないように作っている。


(さて、そろそろ販売時間が終了ですね)


 さすがにいつまでもいると、生徒たちの生活にも影響が出る。

 それは避けなければならない。

 学生寮もあってそこで販売しているマスコットもいるが、在庫は校舎地下の方が多いのだ。


(おや?まだ買いに来た生徒がいるようですね)


 かなり暗い。

 しかも、極秘で来ている自覚がある生徒が多く、セフィアが作った隠蔽外套を羽織っているものも多く、それ相応に自前で技術があると、セフィアもしっかりと認識しなければ大雑把にしか姿がわからないパターンもある。


「ねえ、椿ちゃんの写真、何枚持ってるの?」


 その生徒は……八代風香だった。


 真っ暗な部屋でフードマントを被ったままだ。

 しかも自分の顔を下から懐中電灯で照らすハイパーホラーである。

 顔立ちが整っている分、尚更怖い。


(ヒイイイイイイイイイイイイイイイ!)


 と、マスコット・セフィアが悲鳴を上げたような気がした。

 ……セフィア本体の方の内心も似たようなものだが。


「その箱の中に入ってるのかな?」


 マスコット・セフィアはコクコク!と頷く。


 正直……今のセフィアは、風香が何を考えているのかわからないのだ。

 怒りに来たのか、それとも風香も単なる利用者なのか、それとも全く別の理由なのか。

 内心の読めない表情をしており、全く持って判別不可能なのである。


「ふーん……これだけあれば足りる?」


 風香は持ってきたアタッシュケースを取り出す。

 そこには、セフィアが想定していなかった量のポイントチケットがぎっしりと詰め込まれていた。

 マスコット・セフィアが内容を確認する。

 すべて本物だ。一億ポイント!


「全部くれない?」

「……」


 マスコット・セフィアには、もともと発声機能はない。

 だが、発汗演出機能が備わっている。

 マスコット・セフィアは汗を流しながら、王様に献上するかのような仕草で箱を持って行った。

 風香はそれを掴むとマントの中に入れる。


「あ、そういえばこれって、秀星君が知ったらどうなるの?」

「!?」


 セフィアは内心で絶叫。

 マスコット・セフィアはブンブンブンブンッ!と首を横に振った。


「そっかぁ。それなら、ちょっと私のいうこと、聞いてくれない?」


 マスコット・セフィアが顔面蒼白である。

 そして、一度、コクリと頷いた。


「フフフ、ありがと、それじゃあ、お願いはまた別の機会に連絡するから、またね」


 そういって、風香は去っていった。


「……」


 セフィアは自分が作られてから初めて、滝のような汗を流した。


(お……恐ろしい子……)


 未来の秀星の子供を産む風香は、秀星にとってとても大切な存在だ。

 風香の実力を考えれば、セフィアがどうにかすることそのものはたやすい。

 だが、その結果として風香が面倒なことを考えると、セフィアとしては想定外なことになりかねない。


(というより、沙羅様の手法が一部混ざっていますね。嫁と姑が手を組むとロクなことになりません)


 セフィアはそういって、売るものがなくなったマスコット・セフィアを退散させる。

 そして、自分自身も朝森家の秀星の世話を再開するのだった。

 正直……心臓に悪い。

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