第六百九十二話
一日で沖野宮高校の癒やし系最強の座を勝ち取った椿。
表も裏もないキレイな目をした椿がやってくると、いろいろな人が集まる。
「椿!久しぶりだな!」
「お久しぶりです!来夏さん!」
その筆頭は諸星来夏。
ギャグ補正をガン積みしたゴリラである。スタイルいいけど。
「まさか椿が高校生を体験しているとは思わなかったなぁ」
「未来のお父さんに言われてきちゃいました!」
「楽しいか?」
「はい!皆さんとても優しくて、とても楽しいです!」
「おー。よかったな」
「えへへ♪」
頭を撫でられて喜んでいる椿。
「で、椿はいつまでいるんだ?」
「今年度はずっといますよ!」
「ほー……長くね?」
「未来ではみんな忙しいみたいですね!」
お前は暇なんかい……。
と思うものがほとんどだったが、正直、椿は重要なことを任せられるような性格ではない。
仮に『なにか手伝えることはありますか?』とものすごくキラキラした目で聞いてきたとしても、聞かれたほうが困るだろう。
椿に責任感がないというわけではない。
ただ、中学三年生という段階で本来なら持ち合わせているであろう『社会的な能力』がやや低く思えるのだ。
ちなみに、秀星が椿をいろいろ鑑定した結果では、別に低いことはない。
椿を育てた中心的な存在がセフィアであり、秀星と風香に抱きしめられて育った椿の『性能』は凄まじいレベルだ。
言われた通りにすることは可能で、わからなければ誰かに聞けばいいとわかっている。
のだが、椿の雰囲気的に仕方のないことである。
「まあ、そんなもんか。今日はもう授業は終わってるな。椿はこれからどうするんだ?」
「むうう……珍しくノープランですね!」
珍しいことはない。
椿はおそらく何も考えていないことがほとんどだろう。
「なら、オレと一緒にダンジョンに行こうぜ!」
「はい!」
即座にうなずく椿。
秀星と風香が少し驚いたが、まあ椿だもんね。となった。不思議な子である。
「じゃあ行くぞ!」
「はい!」
★
天窓学園のダンジョンで秀星が導入した『ポイントチケットシステム』を覚えているだろうか。
地球に住む一般的な魔戦士から見れば『万能』といって差し支えないセフィアにサービスを依頼することができるシステムであり、チケットを集めて適切な窓口で提出すれば、大体のものが手に入る。
このシステムの一部が沖野宮高校にも導入されることになった。
手に入れる方法はもちろんそばにあるダンジョンである。
ただし、天窓学園ほど本格的なものではない。
しかし、『セフィアにサービスを依頼できる』という点だけで見ても相当なレベルだ。
そして重要なのは、彼らが一体何を手に入れるためにサービスを使おうとするのか。という点である。
とあるシステムのようなものが確立された。
それは『朝森椿の画像データ』である。
あまり椿のエロイところは求められない。
ただ、笑っていたり頑張っていたりするような、そんな『癒し』を求めているのだ。
「……なるほど」
セフィアは提出された紙を見る。
そこには朝森椿のベストショットの画像データを高額でもいいから購入したい。とのことだった。
いろいろ細かい設定になっている。
ただ、『エロイこと』を求める記述はほぼない。全くないわけではないが需要は少ない。一部のロリコンが騒いでいるだけだ。別にセフィアはロリコンに対して偏見はないけど。
やはり、小動物に求めているのは笑っていたり頑張っていたりするところなのだ。
「これは……本気を出さざるを得ませんね」
正気か?セフィア。
とはいうものの、秀星に常に保護される椿から盗撮でシャッターチャンスをつかむのは難易度が強烈である。
秀星に話してオーケーサインが出るかどうか微妙な部分だからだ。
「フフフ。長い間様々なものを監視してきた私の本気を出しましょう。一時的に『ワールドレコード・スタッフ』……世界地図の一部使わせてもらう権限をフル活用し、ベストポイントを検索、そして高性能のカメラを手に入れなければ」
謎の闘志を燃やすセフィア。
いろいろ追及しても答えてくれるかどうかは謎なので、一つだけ突っ込ませてもらおう。
……肖像権って知ってる?




