第六百九十話
皆、愕然としたものである。
椿の戦闘力のことである。
母親と同じく刀を振るう椿をみて、初見で弱いとは思っていなかった。
実力が読めるほど目が優れているからではなく、あくまでも『まあ秀星の娘なら普通じゃねえだろ』という感想である。
はじめは『いや、いくらなんでも椿ちゃんまで……』みたいな雰囲気だったが、『秀星の娘なら……』という言葉で彼らの心は一つになった。
そのため、『弱い』とは微塵も感じていなかった。
感じていなかったのだが……。
「神風刃・轟一閃!」
椿が風を纏った刀を振り下ろすと、風は刃となって、人工モンスターを真っ二つにした。
それをみて、『あーデスヨネー』となったのである。
「こうして学生という視点で椿を見ると、未来の秀星は加減する気がないんだなっていうのがよくわかるな」
羽計がそんなことを呟いた。
剣の精鋭から脱退して新しく道場の方に所属することになったため、授業が終わるとそのまま帰っていくのだが、剣の精鋭の元のつながりは『ほぼそのまま』なので、基本的に話すことはある。
「そうだねぇ。沖野宮高校の生徒たちと比べるとめちゃくちゃ強いよ。まあ秀星君もいるし、セフィアさんに育てられたことを考えれば、やっぱりあれだけ強くなれるのかな」
「辛い修行をしている印象がありませんからね。こう……『魔戦士の育成に関わる科学』の最先端を走るような、そんな感じに見えます」
雫とエイミーも羽計と同様、剣の精鋭メンバーではなくなったものの、まだ普通に話す。
「しっかし、やることなすこと、全部規模が凄まじいな。よくガス欠しないものだ」
椿の戦いを見て思うのはそこだ。
派手なことを何度もする椿だが、魔力の使用量はかなり抑えられているのか、圧倒的に持続力が高い。
「一応、使用量をかなり抑える技術はあるみたいだよ」
「そうなのか?」
「うん。秀星君が言ってたことなんだけど、私達が魔力って呼んでるものは、更に体積が小さい『魔素』っていうものをギチギチに濃縮した状態なんだって」
「ふむ」
「魔法って基本的に、『魔法陣』っていう魔法の設計図の通りに魔素を配置することで発動されるものだけど、人間の脳が無意識に操作補助できるのは『魔力』だけで、『魔素』はできないみたいなんだ」
「初耳です」
「で、魔法陣を『魔力』で作った場合、一度魔法陣として組み込まれた魔力を分解して『魔素』に変換、当然魔素は余るから、それらの処分を行って発動されるって言ってた」
「私達は普段から無駄遣いをしているということか」
「簡単に言えばね」
ちいさな魔素でいいのに、わざわざそれを濃縮した魔力を使って魔法陣を作っているのだ。
そりゃ無駄遣いである。
「秀星君は、未来ではこの『魔素』の意識的な操作技術が確立されているんじゃないかっていってた。椿ちゃんは多分、それが特別優れてると思うよ」
「魔素の操作技術か……」
「秀星君がやった計算上だけど、大規模な魔法を使う場合、もちろん『魔素』よりも『魔力』を使うべきだけど、一対一の戦術規模で使われるものは、基本的に魔素だけで十分だって言ってた」
「大規模な魔法はそれだけ魔素の消費も大きいから、魔力のほうがいいだろうな」
「ただ、魔法陣に魔素を配置するときに、一番人間は魔力を使ってて、これ、魔素でも十分できるみたいなんだよね。秀星君はそこが一番無駄って言ってた」
「魔法陣の作成段階で最も魔力を使ってるのか」
「なるほど、確かにもっと小さな魔素でも制御できるなら、そっちのほうがいいよね」
総合的に、椿は『魔素で良い部分』をすべて魔素を使って戦っているから持続力があるのだ。
「あと、『魔力消費量減少』みたいなスキルには魔素の操作性能が備わってる可能性があるって言ってたね」
「……ん?調べているわけではないのか?」
「みたいだね。だって、秀星君ってそもそも常人の一億倍を超える魔力を持ってるから」
「反則ですね……」
結論。
秀星いい加減にしろ。




