第六百八十四話
全員クリアした。
何の問題のなく全員がクリアした。
「たまにふらついてる奴いるけど何があったんだ?」
「マスコット・セフィアに頬をぶんなぐられて脳震盪だろ」
基樹が気になったようなので説明する秀星。
全員がクリアしたということは全員が山頂にいるということである。
もう山の中を見はる必要はないので、見張りと言い渡されていた四人も山頂に来ていた。
「しかし、スキルで見た時も思ったけど、デカい山だよなぁ」
来夏が見下ろしている。
確かに、その先に広がる山はかなり広く、そして高い。
生徒たちがよく登ってきたものだと思うほどだ。
鍛えていることは間違いないのだが、それにしてもすごい領域だと思う。
「そういえば、山頂にもモンスターって出てくるんだよな。あれってどうなってるんだ?」
「下にいる奴が時々上がってくるだけだからな。とりあえず全員追っ払って結界使っておいた。これで、この山頂は人間にしか出入りできない」
「それ、最初に使っておけばよかったんじゃないか?」
「聡子に『それはするな』って言われてたんだよ。多分、山頂についた生徒たちに自衛させるつもりだったんだろうな」
「秀星がいるといろいろ無茶ができるからなぁ……」
膨大な量のセフィアの端末を所有する秀星は、文字通り、すべての人間を『守る』ことが可能である。
来夏が言う『無茶』というものは、『本来ならゴール地点である山頂すらも安全地帯ではないこと』に対するものだろう。
ダンジョンですら存在する安全地帯だが、山という自然あふれる場所ではそんなものは存在しない。
……じゃあ建物はなんで無事だったの?と言われると、『そりゃ当然結界を張ってたからに決まってるだろ』としか言えないので、あまり『安全地帯がない理由』に説得力がない気がしなくもない。
なければつくればいい。そして、実際に結界を使えばモンスターは入ってこられないのだ。
では、ラターグとシカラチはどうなのか。
そもそも最高神と神祖に対して近づこうとするほど猿たちは馬鹿ではない。
「とりあえずクリアだな。何事もなくてよかったよ。最高神と神祖が寝てるけど」
「無害だからいいんじゃね?」
「そういうことにしておこうか。理解できても納得できてない自分がいるけど」
秀星は溜息を吐いた。
思ったより、内容の薄い山登りになったようだ。
元々そうなると思ってたけど。
だってこの山。言うほど難易度そのものは高くないし。
山は確かに高いものの、普段の訓練で鍛えている生徒たちにとっては十分なものだ。
参加している中で最年少・初等部六年生の美咲に関しては、ポチが大型虎に戻って山の中を駆け巡ればいい。そこはルール違反ではない。ダンジョンに挑むときも時々そうしているからだ。
「クックック。オレはシカラチと話せて満足だぜ。神祖にもああいう奴がいるんだなって思ったよ。ライズは結構、芯があるやつだったからな。他の神祖もそうなのかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。ちょっと意外ではあったが、良いことを知ったぜ」
「人間だって色々いるんだし、神にだって色々いるんだろうな」
「だろうな。ただ思うのは……神の体って、すべてが魔力でできてるんだよな」
「『神力』は魔力の上位互換みたいなものだが、そうだろうな」
「じゃあDNAっていう情報がないってことにならねえか?なんで姿が違うのかわからねえんだけど」
「あ、神力そのものの質が違ってるんだ。まあ質っていうよりは『種類』ともいえるけど」
「そっちか……」
なぜそのようなことが気になったのだろうか。
「なんで気になったんだ?」
「バールで空間跳躍してあいつらの傍に出現してやろうと思って、スキルで探したんだが、その時、普通の人間よりも、圧倒的に発見しやすかったからな。魔力を持っていれば持っているほどオレのスキルは認識しやすいから、ちょっと気になっただけだ」
「あ、そう……」
DNAという言葉がないのであまり説明になっていない気がしなくもないが、来夏に『論理的説明』を求めてもいい答えは返ってこないので良いと思うことにする。
「もうそろそろ夜になるな。アイツらも移動するのかね?」
「地球の裏側に転移一回で行けるからな。移動するとなれば決断は早いぞ」
「決断っていうかほぼ条件反射みたいなものじゃね?」
「まあそうだな。転移そのものはあいつらが使う意思がなくても、夜になれば発動するように設定してるみたいだし」
「動機が日向ぼっこっていうのがなぁ……ちょっと常識から外れてるよな」
「来夏に常識云々を言われたくはないと思う」
「オレだって常識って言葉の意味は理解してるぜ」
「そうか……」
そういやこいつは『確信犯』だったな。と溜息を吐く秀星。
「さて、次はどうなるんだろうなぁ」
「次って、この山登りの次か?」
「ああ。本当に何が起こるのかわからないんだよな。神祖の動きは見えないし」
秀星はどうしたものかとおもう。
セフィアの監視能力に全然引っかからないのだ。
今は地球とグリモアの二つを見はらせているのだが、本当に見つからない。
「まあ、なんとかなるって。どんなシリアスになってもぶち壊せばいいんだからな!」
「……末期だなこの世界」
腐敗神祖と同じことを呟く秀星であった。




