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第六十八話

「なんていうか……思っていたよりっていうか、想定通りって言うか、クソな感じだよな」

「それはいつも通りなのでは?」


 家で秀星はセフィアと話していた。

 秀星の表情は呆れと言うか、失望と言うか、そう言ったものにあふれている。


「評議会が雫にカースド・アイテムを集中させていたみたいに、アストログラフも、生贄っていうものをルイス家に強要している。上層部の人間の『自分でなければいい』っていうのが目に見えてるよな」

「魔法社会と言うものには、明確なほど名家や貴族と言う称号が存在します。当然のごとく世襲制。異世界グリモアもそうでしたが、権力を持った者が考えることは理解できません」


 秀星はグリモアにいた貴族たちを思いだす。

 本当に腐っている人間も多かった。

 何もせず、何も生み出さず、明日も明後日も、自分の権力が続くものだと確信して贅沢三昧を続ける。

 自分が言うことが全て正しいと教えられてきたのだ。

 環境と言うものは人を決める。人間の九割は親で決まっているのだ。


「まあいいや。アストログラフ。アメリカの魔法組織だが……それなりに大きいんだよな」

「秀星様を敵にまわすほどの間抜けが司令官にいるようですが、それなりに大きい組織だと私は判断します」

「辛辣……」

「ですが、その通りでしょう」

「まあそうなんだけどさ」


 秀星のことを調べている様子はない。

 いや、調べているが、得られた結果を眉唾物だと思っている可能性がある。

 ほとんどのことに物証がないのでそう考えるのも仕方がないのだが、アメリカと言うことでもう少し期待していた。

 はっきり言って評価は下がりまくっている。


「どこの国にも巨大な組織って言うのはあるものだが……そういう、人権を無視したようなことってよくあるのか?」

「低賃金に重労働はありますが、生贄ということを考えているのはアストログラフくらいでしょう。というより、メイガスラボの完全消失は今も疑問視されている部分が多いのです。そのため、手を出さない方がいいと考えている人間が多いのですよ」

「あ。なるほど」


 人がいた痕跡が残らないほどいろいろやった。

 そこからどう判断すればいいのかわからないのは当然である。


「それにしても、風香にメイガスラボの名前を聞かせたのはまずかったかもしれない」

「一年間の隷属状態にした相手ですからね。普段は何も言わなくとも、内に秘めたものが大きいはずです」

「……なんで俺の周りってそう言う感じのめんどくさい女が多いんだ?」

「私に言われても困ります。第一、めんどくさくない女がこの世にいるとでも?」

「……それを言われてしまうと俺としてはどうしようもないな」


 セフィアにそこまで言われてしまうと秀星としてはどうすればいいのかさっぱりである。


「……風香のあの目。雫の目に似てたな」

「確実に復讐し始める……と、本来なら言うべきなのでしょうね」

「ああ。雫の目に似ていたが……『自責』が含まれていた。それが転じてあんな目になってる」


 風香の目は、確かに恨みなどもあったが、ほとんどは『自責』だった。

 あんな目を秀星もしたことがある。

 雫と同じと言うわけではないが、だが、似ていなくもない。


「ああなると、何をし始めるのかわからないから困るんだよな」

「人に言えませんよ」

「……セフィア。ちょっと辛辣じゃない?」

「いつも通りです」


 そう言われるとそんな気もする秀星だった。


「しかし、自責か……自分を責めても別に何も解決しない気がするけどな。ただ、隷属状態って本当に無力感がすごいんだよな。なんていうか、支配されているっていうのを身をもって知る感じがする」

「無力感……今の秀星様にはないものですね」

「……」


 秀星は溜息を吐いた。


「無力感から来る自責の念か……新しい何かを手に入れるまでは何も成長しないのがこういった状態の特徴みたいなもんだ。来夏にでも相談するか?」

「無茶苦茶なことになると思いますが……」

「こう言うのはやけくそになるくらいがちょうどいいんだよ。あんな感じだが、いろいろと視えているみたいだしな」


 秀星はいろいろな意味で、来夏を過小評価しない。

 実際、『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』は強力なスキルだし、様々なことを把握できる。

 アレシアに手綱を握られている感じはするが、剣の精鋭のメンバーの中にはそれなりの事情を抱えていたメンバーも多い。

 それらをまとめ上げて、それでいて『日常』を生み出せるというのはすごいことだろう。

 空気の薄い人間を大量生産しかねないのだが……。


「……キャラが濃い人間が近くにいるっていいな。まあもとより……俺もシリアスは苦手だ。そう言う面倒なことは得意な連中に任せよう」

「来夏様と雫様でしょうか」

「だな。後で絶対に怒られるんだろうなぁ……」


 楽しそうに秀星は微笑む。


「……楽しそうですね」

「ま、そうだな。否定はしないよ」


 秀星はシリアスは苦手だ。

 どろどろのバッドエンドよりも、ふざけたハッピーエンドの方がいい。

 そっちの方が好きだ。

 そのためならば、多少はやけくそでもめちゃくちゃでも構わない。


「というわけで……アストログラフには本当の『生贄』と言うものをわかってもらおうか」

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