第六百七十四話
ガサガサ……ゴソゴソ……キョロキョロ……グッ!
「なにグッドサインしてるんだ一級在宅士」
「秀星君。いくら何でもそれは僕も甘く見ていないかい?」
なぜか秀星たちが山頂を目指す山にラターグがいた。
堕落神であるはずの彼がこんなところに来ているとなれば、当然秀星としては気になる。
「一応解説しておこう。秀星君。その一級在宅士という資格は天界に存在するんだよ。ちなみに保障委員会の理事長は僕だ」
「……世も末だなぁ……で、一級在宅士の理事長が家から出ていいのか?」
「たまにはいいのさ。だって『人の言うことを聞かない奴』ばっかり集まってるからね。過去の自分の言うことを聞くわけないじゃん」
「馬鹿が開き直ったときの屁理屈だが、物は言いようだな……」
「ちなみに副理事長は『聖夜神サタニック・クロス』だよ」
「サンタクロースが地獄で改名したような名前だな」
というか。と秀星はあえて内心でツッコむ。
「……サンタってラターグの派閥なのか?」
「ちゃんとサタニックって呼んであげてね。てかそりゃそうだよ。一年の内で一日しか働かないんだよ?しかもちゃんと働いているのかと思って確認してみたら指パッチン一回だった。勤務時間は年間でコンマ一秒だね。そして全次元のクリスマスという概念を知る者たちから崇拝されているんだから、世の中って残酷だと思うよ」
天界にいるラターグ派閥の神々は手を抜ける部分はとことん手を抜くタイプのようだ。
予測……というより確信していたことではあるものの、実際に本人から言われるとどうしようもなく腹が立ってくる。
ただ、これ以上この話をするとクリスマスに対する冒涜になるのでやめておこう。
秀星自身は別にクリスマスに対して何か特別な感情があるわけではなく、『あー。そういや今日はクリスマスだな。いつも通りダンジョン行こ』となるだけなのだが、さすがに指パチンサンタを頭に思い浮かべて苦笑したいわけではない。
「で、なんでこんなところにいるんだ?神の力をできる限り漏らさないようにこそこそ移動してたけど」
「まあ、これには深くない理由があるのさ」
「じゃあ話してみな」
「まあ待ち合わせみたいなものだよ。ただ、君たちにあまりバレたくはなかったんだ。ただ、神の力をばらまいてたら確実にばれるでしょ。だから隠れて移動してたんだ」
「なるほど」
「まあでも、高確率で見つかるとは思ってたけどね」
「?」
「だって、この山で『監視役』を与えられている人の四分の三が『ギャグ補正』を持ってて、そして残る一人も魔王化したらギャグ補正が使えるんだよ?常識が通用するわけないじゃん」
「それもそうだな」
秀星としてもまだどういうものなのか答えを出せずにいるスキル『ギャグ補正』
まあ、答えが出たところでそこから先の結果に変化がないような気がしなくもないが、確かにラターグが言う通り、低くはない確率で見つかるだろう。実際に見つかったわけだし。
「というわけで秀星君。一つ重要なことを言おう」
「ああ、で、誰と待ち合わせしているんだ?」
「腐敗神祖シカラチだよ」
「……え、神祖?」
「そう、神祖だよ。そして僕のマブダチさ!」
「……」
絶句する秀星。
まさか、こんな人が多く集まるイベントが開催されているときに、神祖が出てくるとは思っていなかったのだ。
「ちなみにパライドが所属する神祖の派閥の一員だけど、名前のわりに僕と同じでゴミみたいな性格してるから大丈夫だよ」
「自虐なのか自慢なのかいまいちわからん……安心させようとしているのか呆れさせようとしているのかもわからん……本当になんなんだコイツ」
秀星は実際のところ、安心と呆れを通り越して失望感があふれてきたが、それをラターグに行ったところで無駄である。
「何をするんだ?」
「日向ぼっこだよ」
「……マジで?」
あからさまに『そんなことのために、こんな山に神祖と最高神が集まるのか?』と理解できない秀星。
「もちろんさ。だって寝るとしても気持ちのいい場所で寝たいでしょ」
「セフィアが用意したソファでは我慢できなかったのか?」
「いや、実は隠してるだけで持って来てます」
「人の家のソファを勝手に持ち出すんじゃない!」
「もう、何個もあるんだからいいじゃん」
「うるさいわ!」
秀星は吠える。
というかかなり面倒になってきた。
「フフフ。というわけで、僕はこれから日向ぼっこのスポットに行くから、またあとでね」
「……本当に日向ぼっこなんだよな」
「なんで僕が嘘ついていると思うのさ。僕がダラダラするために嘘つくと思う?」
「思う」
「なんで?」
「さっき『過去の自分の言うことを聞くわけないじゃん』って言ったばかりだろ」
「これは一本取られたね」
ハハハと笑うラターグ。
ただ、この時点では嘘はなさそうだ。
「まあ、最悪……全知神レルクスがどうにかするからいっか。うん。まだちゃんと準備できてるわけじゃないから、何かあっても俺の責任にならないようにだけは気を付けよう」
「僕との付き合い方がわかってきたじゃないか」
「ああ。それじゃあまたな。そのシカラチっていう神祖にもよろしくな」
「あれ、会いに行かないの?」
「ああ、俺はいかない。そして勝手におかえりください」
「辛辣だねぇ……まあいいや。それじゃあまた」
そういってラターグは山頂目指して歩いていった。
「ふう……ん?もしかして、シカラチがいるのって山頂なの?」
絶望的なことに気が付く秀星であった。




