第六百七十一話
「あ。的矢君。すごくおいしそうな果物があるよ!」
「あれはモンスターだ……このやり取り、なんか十回以上している気が……」
的矢と奏は、やはりペアになって行動している。
歯車を使ったギミックが搭載された弓を使う的矢と、炎の剣をやめて普通の鉄製の剣を魔法で出して戦っている奏。
山というのは標高が低い部分は大体森なので、炎の剣を出すのはヤバいため鉄製の剣を使っている。
そして、奏は沖野宮高校の近くにあるダンジョンに的矢と一緒に入っているが、『モンスターが出る山』という場所に来るのは初めてだ。
そのため、『野生の果物』という部分に『モンスター』が合わさっていること頭の中で薄い。
……いや基本的に何も考えてない可能性もあるけど。
とまぁ、それに関連することなので説明するが、『モンスターが独自の生態系を作り出す』という部分がある。
植物に対して影響を与えないはずがなく、モンスターが特殊な糞を出したり、あるいは何か体内で変な種が出来上がったりといろいろあるので、新種の果物だって実るのだ。
ただ、この森の果実はモンスターであることが多いようだ。
大体果実から半径五メートルくらいのところまで近づくと、『ヒッ、ヒヒヒッ、ヒャアアアッハアアアアアアア!』という脳みそを疑う声を出してくる奴がいる。果物だから脳みそないけど。
殺傷能力はないのだが心臓に悪い。
「いっぱいあっても、食べられないものが多いね」
「ああ、まあ、見る前にわかれば問題はないさ」
的矢のオリジナル・エッセンス・スキルである『歯車相関図』は、人脈がわかるというものだ。
ただし、見方を変えれば『独立している』ことを認識することが可能。
無機物には当然反応しないが『モンスター』にも反応するので、ゴブリンの集団などを見たときは誰が重要な役目を果たしているのかがわかったりする。
そして、一見単なる植物にしか見えないものでも、『モンスターとして誰にも依存しない独立した存在』であることを認識することが可能なのだ。
ただ無機物には反応しないので、弓矢やトラバサミが仕掛けられていても気が付かないため、過信は禁物である。
「でも、思ったより早く合流できてよかったね!僕一人だったら絶対に進めないもん」
そう言ってとても笑顔になる奏。
「……そうだな」
そんな奏を見て内心で微笑む的矢。
実際、子柄で肩幅も狭く、女顔で髪まで伸ばしている奏はとても可愛らしい。
しかも、『抱いている感情を直接送信する』というOESによって、『感謝』や『歓喜』がダイレクトに伝わるため、見ていて可愛いのだ。
基本的に素直だし。
……ただ、こういう人間が兄弟や姉妹だった場合、星乃は『まあこういうのが姉にいると弟は苦労するけど』と突っ込んでくるだろうから、必要以上に羨ましがるのはこれくらいにしよう。
「さてと、ちょっとずつ山頂を目指すとして……途中で何があるんだろうなぁ」
「え、何か気になることがあるの?」
首を傾げる奏だが、そもそも何も疑問に思わない方が珍しいだろう。
聡子は母性の塊だが、それ故にちょっと性格悪いので、天窓学園の生徒は『こういう催し物』で聡子が張り切ることを知っている。
沖野宮高校の生徒たちは無論だ。
というか、イベントがあることを知った段階である程度察して、バスの中に剣の精鋭メンバーが勢揃いしていた時点で完全に理解した。
『自分たちはこれからめちゃくちゃなものに巻き込まれるのだ』と。
というわけで的矢は『警戒』している。
幸い人脈がわかるので、『運営側が用意した仕込みの生徒』も判別可能なのだ。
全員集合しているときに見たがやはりいたので、注意するべきだろう。
「お、モンスターか」
猿のようなモンスターが出てきたので、弓を構える的矢。
そして、鉄の剣をいくつか作って空中に浮遊させる奏。
「奏、基本的な攻めは任せていいか?」
「もちろん!」
奏は杖を振って、猿に向かって剣を放つ。
だが、猿は木を使ってヒョイヒョイっと回避する。
「な、なかなか当たらない……」
短剣を大量に出して飛ばしまくる奏。
だが、まだ猿には当たらない。
「……む、むう」
悔しがる奏。
一応補足するが、奏に『動いている的を狙う才能がない』というわけではない。
そもそも遠距離攻撃が主体なので、しっかり練習している。
だが、それを上回る勢いで、猿の反応が速い。
もちろん、その状態でもどうにかするために的矢がいるわけだ。
そして、次第に奏の攻撃のテンポが悪くなってくる。
それを見た猿は、『今だ!』と思ったのだろう。
そして狙ってくるであろうと思った的矢の方を見てくる。
だが……的矢は後ろを向いて矢を放って、『後ろから狙っていた猿』の心臓を貫いて木から落とした。
正面にいた猿が驚く。
そしてそれを見た奏が、完全に速度重視のペティナイフを作って、超高速で飛ばす。
猿にあたってひるんだとき、猿を大剣が貫く。
「よしっ!」
ガッツポーズをする奏。
「……連携での奇襲は通用しないっていうのは、この山だとかなり強いのかもしれないな」
一つの戦闘を終えた的矢はそうつぶやいた。




