第六百六十四話
バトルロイヤルの終了時間が近づいてきた。
こうなった場合にどうするのかは人それぞれだ。
ギリギリまで生徒を狙って加点を得ようとするもの。
隠蔽スキルを使って終了まで隠れようとするもの。
チームを組んでいる生徒たちは『バトルロイヤルの加点で総合的に稼げそう』な宗一郎に挑んでいる。嬉々としてたたかってくれるだろう。あとボスキャラに挑んで手に入れた加点の分配も必要である。
ただ、隠れる努力もせずにセコセコ動いていると、ゴリラが空間をぶち割って直来するので(字面だけでかなり地獄)、それ相応に技術を使う必要がある。
といったこともあり、『生徒同士でのガチバトル』は減った。
「で、俺のところに来たわけか」
「うん。なんとなく、戦っておこうって思ったんだよ」
秀星がいるボス部屋。
そこに、腰に刀を二本つけた風香が入ってきた。
真剣な表情で、どう戦おうかと考えている様子である。
「……そういや、そこそこボスキャラ扱いでバトルロイヤルに入ってるけど、剣の精鋭のメンバーから挑まれたのは初めてかもな」
「私もそう思う」
風香は刀を二本抜いた。
それを見て、秀星は鉄の剣を一本魔法で作ってそれを右手で握る。
「流石に神器は出してこないんだね」
「そうでもないぞ。『素質』を強化する神器と、『常にベストコンディションを維持する』神器を常に使ってるからな」
「それもそうだね……行くよ」
そのまま突撃してくる風香。
二本の刀には風をまとっている。
「『双風刃・懺悔輪唱』」
風で作られた刀が五本出現する。
もちろん、それだけなら何も珍しいことはない。
(視線が俺から離れないし、ブレもない……)
秀星はそう判断する。
そしてそれがもたらす推測の通り、すべての刀が秀星の心臓めがけて飛んできた。
剣を振ってそれらを弾こうとして……剣が刀をすり抜ける。
(なるほど)
元々、秀星の剣は空気だろうと切れる。だが、少しイジれば、剣との衝突にたいして『噛み合いが悪くなる』のだ。言い換えれば『攻撃判定』が無くなる。
しかし、イジったそれに合わせて攻撃すれば『噛み合う』ので問題はない。
秀星は攻撃の質を理解して、足を振り上げる。
すべての刀がバラバラに砕け散った。
風香の表情が一瞬曇ったが、すぐに戻して突撃してくる。
そして連撃を選ぶ風香。
秀星は全て弾いて反撃という単調な手順に付き合うことにした。
だが、すぐにそれを中断して、上段から振り下ろす。
風香はそれに反応して刀を交差させた。
鍔迫り合いになる。
本来なら秀星が押し勝っているだろう。
だが、風香も筋力などを魔法で強化しているようで、秀星の筋力についてくる。
「さっきの刀。当てられると思ってたんだけど」
「ん?ああ、さっき飛ばしてきた奴か。俺に小細工は通用しないと判断して、『正面戦闘』で使えそうな『ルールの外』の技術を組み込んだってところだろ。解明されてないことは世の中たくさんあるからな。ただ、その手の『ルールの外』の攻撃は、『更に広いルール』で戦ってる俺には通用しない」
「よく覚えておくよ!」
風香は足の裏に風をあつめてそのまま距離を取る。
その置き土産として、風で作った弓矢をいくつも飛ばしてきた。
秀星が見る限り、変な細工はない。
剣を振るが……またすり抜ける。
(別の視点か……)
ちょっと面倒になったので普通に手で掴み取る。
そして後ろにポイッ。
風香の表情がゲンナリしたものになる。
だが、秀星が矢に夢中になっている間に、小道具らしい釘を出していた。
風香が二本揃えて構える刀の間に電気が発生し、釘たちがそこに引きつけられている。
(あの魔力の使い方は……)
狙いは分かる。
ただ、その狙いのための土台となっている電気を構成する魔法の魔力が、秀星にとって知識はあれど馴染みの薄いもの。
「『双風刃・螺旋点弾』!」
「いつから小道具アリになったんだその術……」
発射される釘に対して、秀星は魔力を固めて、それを剣にまとわせて振るう事で飛ぶ斬撃にした。
だが、それが釘に直撃してもお互いに素通りしている。
(完全に素通り……アレか!)
攻撃の正体が分かった秀星は、釘に対して普通に剣を振って弾く。
それをした瞬間に風香の目が泳いだが、手はブレることなく釘を発射し続ける。
「……秀星君。やっぱりすごいね」
「風香は結構面倒な理論を使ってるな。感心はするが……まだ甘い」
秀星は釘を弾くのではなく自分の手で掴んで止める。
次の瞬間、秀星の手に雷が出現。
釘が高速で回りだした。
それを放つ。
風香が刀を使って構えているレールガンを狙った。
それがわかった風香は即座に離れる。
「あの一瞬で私以上の威力……」
「まあそんなもんだ」
「それなら……」
風香が突撃してくる。
秀星も剣を構えた。
風香の間合いに入った瞬間……キキンッ!と言う音とともに、風香の刀が納刀。
そのまま抜刀術に移行すると思った瞬間、風香の右手が刀の柄から離れた。
「!」
「『無刀旋風刃・嵐竜逆鱗』!」
右手に纏われた暴風雨が、風香の拳とともに秀星に突き出される。
秀星は左手を前に出してそれを止めようとした。
いや、それはたしかに止まった。
今まで後ろに下がったことなどない秀星の足が、ザザザッと下がる音とともに。
「……」
秀星が少し驚いた様子で自分の足をみて……。
『バトルロイヤル終了です。すぐに転移システムが作動します。生徒の皆さんはその場で待機してください』
聡子の声が部屋中に響いた。
「……バトルロイヤルは終了か」
「そうみたいだね」
秀星はため息を吐いて、右手に持った剣を保存箱に入れた。
尤も、剣をしまう程度なら保存箱を開ける必要もないので、傍目からは消えたようにしか映らないが。
「思ったより強くなってるな」
「そうだね。自分でもびっくりした。でも……遊びも何もなしで、ただ勝つって勝負だと、まだまだ秀星君には勝てないなって思うよ」
「当然だ。そんなに甘くない」
そう言って、秀星は指を鳴らす。
すると、風香の震えていた右手の痛みが全てなくなった。
「!」
「これでもう問題ないな」
「あ。うん。ありがとう」
そう言うと、風香の下に転移の魔法陣が出現する。
「あ、秀星君。また後で」
「ああ」
風香は転移していった。
「……強くなってるなぁ」
「そうですね。私も少々驚きました」
「なあセフィア。ちょっと楽しそうな表情だけど、何かあったのか?」
「大したことではありませんよ」
「ん?」
「椿様を経由して未来の私から送られてきた画像データに、【小学一年生の椿様が運動会の借り物競走で、『一番好きな人』のカードを引いて『セフィアさーん!』と叫んだ映像】と、【その時の過去最大の苦笑をする秀星様と風香様】が写っている写真が入っていただけです」
「……」
「子供とのふれあいが甘いようですね。秀星様」
「今の俺が悪いのか!?」
「それは言いませんが、気にしておいたほうが身のためかと。それで失礼します」
セフィアは転移して消えていった。
……あとで風香にも、子供とちゃんと接することを提案しようと思う秀星であった。




