第六百六十三話
バトルロイヤルは時間制限が設けられており、その中で行われる。
スコアをどんどん積み上げていくのだが……。
「あー……もうこれは優勝が確定ですね」
聡子はがっくりと肩を落とす。
彼女が今見ているのはスマホだ。
そこには、既にこのイベントでの途中経過が乗っている。
ちなみに、今回のバトルロイヤルは生徒を誰か一人倒すと+2点。倒されると-1点。というものになっている。
その方がシンプルであり、負けても特攻し続ければいい。という考えをなくすために敗北した際のマイナスポイントを設定している。
ただし、所有する討伐ポイントそのものはゼロより下のマイナスにはならない。
……というものなのだが。
『八代風香 262P』
二で割ればわかるが、生徒の討伐数が百三十一人である。
全体で九十六人しかいないはずなのにどうなっているのか、どかどか教会に放り込まれる生徒がとんでもなく多いのだ。
「暫定二位の英里さんが102であることを考えると圧倒的ですね……」
沖野宮高校の副生徒会長が暫定二位。
相変わらず鉄ブロック入りのアタッシュケースと血濡れの棍棒で撲殺しまくっているのだろう。
ちょっとトラウマを抱えた様子で教会に来るものがいるのはそれが原因だろう。
「一部の強い生徒がいるのは構わないのですが……やはりというか、剣の精鋭の中でも突出しているメンバーは本当にすごいですね。正直ちょっと自重してほしいです。というか風香ちゃん。戦闘になるとストイックですね……もうちょっと肩の力を抜いてくれた方がこちらとしても助かりますが……かなわないでしょうね」
溜息を吐く聡子。
すると、電話がかかってきた。
アトムからである。
「アトムさん。どうしました?」
「まあ、ほぼほぼ一位が決まったようなものだからな。すでに言いたいことがいろいろ出てきて、ちょっと本音をぶちまけたい気分になっただけだよ」
「フフフ。実は私も同じ意見ですね。ポイントチケットシステムは確かにすさまじい完成度です。ただ、それ以前の問題ですね、風香ちゃんが強すぎます」
「さすがに神器を持っているものと比べればそうではないが……彼女も次からボス生徒にしてもいいくらいだ。というより、基樹君に関していえばそもそも神器を持っていない時からボスキャラをやっていたし、それでもいい気がする」
想定外だった。
そもそもバトルロイヤルそのものが、必要な技術力が高すぎて何度も行えるものではない。
そして、『秀星がいれば多少の無茶はできる』という状況なので、かなり頼る方針になっている。
ただ、秀星に付随してついてくるメンバーというものは、秀星が『沖野宮高校の生徒』であり、『剣の精鋭メンバー』である以上決まっている。
その関係で付いてくるメンバーがやたら強いのだ。
正直、戦っていて嫌になるのは避けられない。
「まあ、そのあたりは後で調整するとしよう。ところで……ポイントチケットそのものに関してはどう思う?」
「私は画期的だと思いますよ。『通貨』が持つ画期的な『交換システム』は、戦況を大きく広げてくれます。ただ、それを可能とするのが秀星君が持っている技術だけというのがなんともいえませんね」
「交渉すればシステムの基盤を買うことはできるだろう。彼はそういう男だ」
「そうですね」
秀星は意外と交渉に応じる男である。
アトムとの個人的な関係も悪くないので、うまくいけば格安で買えるかもしれない。
最も、『似たようなもの』を買えるだけで、本質的に同じものを買うことは不可能だと思われるが。
「まあ、そのあたりの交渉は私がやっておこう。バトルロイヤルももう残り時間がないが……最終的に何が起こると思う?」
「さすがに私にもわかりませんよ。それに、『合同演習』という形でバトルロイヤルを行うのは初めてなのですから、一回目で大きなことを求めるものではありません」
「……それもそうだな」
「秀星君がいろいろ企んでいて何かに警戒している様子なのは分かります。ただし、あなたまで慌てていても事態は解決しませんよ」
「……そうだな」
アトム一人でできることは広い。
だが、アトム一人だけでできることなどたかが知れている。
「ふう。少し休むとしよう。秀星君にはいろいろ振り回されていて疲れているかもしれない」
「この場で起こる程度のことなら私が何とかしますよ。アトムさんは休んでいてください」
「そうさせてもらおう」
最後に溜息を吐いて、アトムは電話を切った。
「さて、私もそろそろ、何かしら本気を出した方がいいかもしれませんね」
フフフとほほ笑んだ後、新しく教会にやってきた生徒の相手をする聡子であった。




