第六百六十話
天窓学園の生徒たちは連携を取って秀星に挑んでいる。
沖野宮高校は、あくまでもチーム戦を用いながらも連携がうまく取れず、『他の生徒を狙う』という方針になった。
簡潔に言えば『チーム内では狙わないことにする』という提案に同意するということである。
とはいえ、天窓学園の生徒たちが秀星に挑んだのは、あくまでも『チームとして行動した結果、加点とチケット確保において挑んだ方が効率がいい』と判断したからである。
ボスキャラである秀星たちに挑むのはあくまでもサブイベント的な扱いなのだ。
そのため、加点はかなり手に入るが膨大ではない。
というより、『秀星に挑む』というのであれば、それ専門のプログラムを作る方がいい。
バトルロイヤルというのはあくまでもお互いに狙いって、数多くの視点を持つことの大切さを体感することが重要なのだ。
そこにチームを組む意義はあるが、どこにいるのかがわかっているボスキャラに挑む意味はない。
仮に『このポイントチケットを使ってアイテムを揃えて挑戦したい』というのであれば、秀星をラスボスとするダンジョンを作って、それに挑戦し、そして最終的に秀星と戦う。という方針でいい。
ちなみにこの方法を取った場合、『朝森秀星への挑戦権』を最終的に獲得し、使用すれば秀星を戦えるという状態になるので、秀星がいつもダンジョンで待機する必要はない。
さらに言い換えれば、『合同演習中のプログラムに組み込む必要すらない』のだ。
普段から秀星が作ったダンジョンへの転移ポイントを天窓学園の敷地内に作っておいて、好きな時に好きなように挑めばいい。
あくまでも、彼らの目的は『バトルロイヤル』であり、協力プレイではない。
コンビを組んでいる生徒はいるものの、大人数となっているのは二十人規模になっている両校の派閥のみ。
そして、『ボスキャラ生徒を除いて、最強は誰なのか』という議論は最初から存在する。
バトルロイヤルルールにしては珍しく、教会で復活するルールがあるからだ。
それは言い換えれば、時間制限内であればいくらでも倒し続けることが可能で、討伐スコアを積み上げることはいくらでも可能なのである。
そして思い出してほしいことが一つある。
鑑定神祖ライズの体を使ってパライドが脅威鑑定を行ったときのデータだが、その時の内容を考慮し、ボスキャラやここにいないメンバーを除外していけば、五位の石動優奈と六位の八代風香が該当する。
そして、五位の石動優奈が脅威判定に乗った理由は、彼女が『模倣神ユウナ』だからである。
彼女は普段は『石動優奈』として生きており、神の力を使わない。
模倣神とまで呼ばれるユウナがコピーしている石動優奈という存在は、おそらく『剣の精鋭には入れる程度』の実力なのだろう。
しかし、それより上位の人間に勝てるような実力ではない。
よって……。
「『神風刃・波紋風震』」
引き起こされたのは、風か、地震か。
あるいは両方か、それとも、そのどちらでもないのか。
明確な答えを出せるものがいるとすればそれは本人だけだろう。
風香は刀を一回、真横に振るだけで、その破壊をもたらした。
風香の前に立った沖野宮高校の生徒は、それだけで倒れていた。
「次に行こう」
このバトルロイヤルにおいて、風香の実力は圧倒的だ。
純粋な戦闘力に加えて、風の力を利用してダンジョンの構造の把握、生徒の発見まで行っている。
ただ、それだけやってもマスコット・セフィアを発見できないところを考えると何かが負けているのだろうが、生徒たちの中では圧倒的。
他の剣の精鋭メンバーと比べても戦闘力が高い風香は、止まることはなかった。
これにより、『最強のボスキャラ』と『バトルロイヤルの最強の生徒』という認識が確定する。
それが良いことなのか悪いことなのかは、この際考えても仕方がないので放置させてもらうが、様々なことが定まり始めたこの戦場で、『策』という言葉の力をどこまで引き出せるのか。
何が重要なのかまだ判別できない中、この戦場においては、それが必須なのだと考えて戦っている生徒は、案外多いのであった。
生徒は全員でほぼ百人。
埋もれていたものを開花させる可能性は、ゼロではない。




