第六百五十八話
バトルロイヤルが始まってから、初めて『苦情』が発生した。
そしてそれは、もちろん秀星に対するものではない。
ポイントチケットが秀星が取り入れたものだと気がついているものと気がついていないものがいるが、そもそも、聡子やアトムが用意したシステムでは、『生徒全員が活躍する』ということは不可能だった。
『チートアイテムを手に入れることができる』という新要素は、少しでも『生徒全員が活躍できるように』と考えた上で導入されたもの。
だが、このシステムでは限界がある。
そこで秀星が導入したポイントチケットシステムは、セフィアというシステムに備わっている『鑑定・比較機能』により、適正かつ厳正に価値が判断されて金額が決まっている。
ちなみに偽のチケットを何らかの方法で作った場合、その場でマスコット・セフィアにボコられたあと、偽チケットは没収である。そのため偽チケットが流通することはありえない。
このシステムの導入により、ゲームの複雑性が増したが、元々通貨というものは普段から使われているものなので、生徒たちはその力を理解し、利用することができる。
なので、ポイントチケットに対して異論、反論はない。
彼らの主張はこれだ。
『来夏が強すぎる!』
である。
どんな攻撃も自らのギャグ次元でほぼ無力化させ、鍛え上げた一撃で敵を粉砕する。
そのパターンだけでその場にいた四十人が負けたのだ。そりゃ嫌味だって言いたくなるというものである。
だが、そんなことは聡子にだってわかっていたことだ。
そしてそれに対する返答はこれである。
『頑張ってください♪』
現実というものは残酷である。
だが、悲観してしまうと何もできなくなるので、行動するしかない。
半ばチーム戦に突入しているバトルロイヤル。
沖野宮高校、天窓学園の双方が、二十人という人数でチームを作った。
元々、生徒は各校五十人ずつ参加し、二人ずつ、ボスキャラになったり教会のお母さんになったりしているが、二十人ずつというのは四割くらいの勢力なのだ。
ちなみに、ここで彼らからセフィアに対して要求があった。
『教会にある店舗の窓口の数を二つにして、できる限り双方の様子がわからない位置にしてくれ』というものである。
元々、マスコット・セフィアが店番をするカウンターは一つしかない。
もちろん、処理能力が圧倒的なのでこれでも十分間に合うのだが、『大型派閥』が誕生し、そして教会というスペース共有であることを考えると、彼らにとっては少々都合が悪いのだ。
お互いに何を買ったのかがバレるのは不味い。
であれば、『そもそもカウンターの数を増やしてもらえばいいのでは?』という話になった。
これが一人や二人であれば個人のワガママだが、お互いのリーダーが同意し、結果的に四十名がその意見に同意した。
元々がバラバラであり、剣の精鋭メンバーですらコンビを組んでいるものが少ない状況。コンビを組んでいる程度が大多数の中で、全体の四割から申請されれば秀星も頷く。
というわけでカウンターが二つになり、それぞれの派閥が拠点に使えそうな『小部屋』をポイントチケットを払うことで買えるように設定された。
『秀星やりすぎ』
と思った聡子とアトムだが、秀星からすれば、ポイントチケットを勝手に導入したことに対しては『生徒全員が明確に活躍するため』という建前があり、生徒たちからの要望も『運営側の技術的な限界により採用されていないだけで、意見としては真っ当なもの』と判断したものしか採用していない。
聡子とアトムもそこはわかっているので怒ることはないのだが、流石に『数レベル先の技術』を見せつけられると気が滅入る。
ちなみに聡子とアトムが最も驚いているのは、セフィアが決めた『価格設定』誰も文句を言わないことだ。
通貨というシステムは導入できれば素晴らしいものだが、バランス調整というものは一つミスすると破綻する。
価格設定を見る限り、複雑な査定プログラムをいくつも通した上で、表示される金額を簡略化していると思われるが、それを可能とするシステムを考えることは誰にでも出来ても、実現には程遠いと考えていた。
いずれにせよ、と前置きしよう。
来夏全力で暴れた結果。派閥に属する生徒は、『連携』を大切にしなければ何も得られないということを理解する。
そしてセフィアのカウンターのメニューを見る限り、ポイントチケットを大量に積めば、ほぼ何でも買える。
このような環境で戦えることはそうそうない。
どうせなら全力でやろうということで、多くの生徒が納得した。
第何ラウンドなのかは定かではない。秀星があまりにもシステムを追加しているからだ。
だが、とりあえずわかっていることは一つだけ。
腹が減っては戦はできぬ。




