第六百五十六話
「やってるやってる。もうチーム戦に切り替わったのか。速いねぇ」
秀星は自分の待機エリアにある椅子に座って、タブレットを見ていた。
マスコット・セフィアの目から入ってくる情報は、全てこのタブレットで確認できるようになっている。
加えてマイクの機能もついているので、音もバッチリだ。
もちろん、遠くの映像と音を拾うだけなら他にも手段はいろいろあるのだが、あえてこの方法を選んでいるのは『なんとなく』である。
「ていうか実際のところ、ここまで速く変わるとは思ってなかったけど、何が原因なんだ?」
「剣の精鋭メンバーのように個人で強い生徒は一定数存在しますが、戦闘向きではないスキルを持っている人にとっては誰かと組んだほうが得です」
「まあ当然だな。」
「他には、宝箱を発見できるスキルを持っている人がチームに一人いると、それだけでこのバトルロイヤルは有利になりますから」
「あ、宝箱サーチか。存在忘れてた。確かにあると便利だよな」
「実際のダンジョンに潜っても、臨時報酬として使えるスキルですからね」
バトルロイヤルというルールである以上、ただ戦うだけでは勝ち残れない。
「加えて、宝箱をサーチするスキルと、アイテムボックスのスキルを両方持っている人は、秀星様を除いてこの場にはいません。宝箱の中から出てくるアイテムの中にもボックスはないので、手に入れたものは自分で持って管理する必要があります」
「なるほどな……まあ、宝箱サーチもアイテムボックスも、メンバーの中で誰か持ってたほうが便利だからな」
「二人が手を組めば、宝箱を発見し、そしてその中身を回収する。という手段を取ることはできます。問題なのは、『その二人が組んでいる』という情報が知れ渡ると狙われるということです」
アイテムボックスを持っているものは少ないだろうが、宝箱サーチはそれ相応の数がいるだろう。
ただいずれにせよ、アイテムボックスのスキルを持っているものが中心になるのは間違いない。
「チートアイテムを大量に持ってる。だが、すべてを効果的に使うっていうのは無理だから仕方がない」
「ただし、宝箱から手に入れたアイテムは、本人を倒しても教会に一緒に転送されるだけなので、手に入れるためには交渉するしかありません」
「あー……なるほど、このバトルロイヤルにおいて、そいつらは『金庫』になるってわけか」
「倒されて教会に行けば、使えないアイテムをポイントに換金可能ですからなおさらです」
通貨という概念を秀星が突っ込んで、そしてその金や、金になるものを手に入れて保管する金庫。
アイテムボックスのスキルを持つ者の役目はいろいろ考えられるが、今回は『金庫』になるようだ。
「まあ、普段なら恫喝すればいいと考えてる連中もいるだろうけどな」
「魔法学校でセフィアシステムを導入する場合、いじめは鉄拳制裁ですからね」
「……マスコット・セフィアの手って綿だよな」
「もちろんです」
なるほど、『これ以上突っ込むな』と言われているようだ。
「ここからの展開は、金庫を抱えるチーム戦になるってことか」
そして、おそらくこのチーム戦の形式になったほうが派手である。
チームを組んだほうが生き残りやすいのかどうかは別だ。
元のルールがバトルロイヤル故に、フレンドリーファイアはアリなので。
「ただ、あまりにも密集しすぎると……」
「まあ、風香なら全員まとめて殲滅できそうだしな。それにギャグゴリラまでやって来たら戦場そのものが壊滅するぞ」
「おそらくそれを危惧している生徒がいるようですね。小競り合いはあっても、戦争にはなっていません。まあ最も、『企業』に入る気のない生徒もいるようですが」
元がバトルロイヤルなので、倒した生徒の数が多いほうがいい。
秀星が持ち込んだシステムは過程にも結果にも影響はするものの、『加点』はない。
最終的にポイントをどれほど持っていたとしても、総合評価にはなんの関係もないのだ。
そのため、戦争が勃発すれば、その盤面をまとめてなぎ倒せるような出力で一網打尽にしたほうが効率がいい。
「ていうかさ。このシステム。ちょっとデメリットがあるな」
「そうですか?」
「ああ。通貨って概念を持ち込んで、その通貨に価値を与えて、通貨が持つ複雑なゲーム性ができて多くの生徒が最大限に活躍できるようになったけど……俺達が暇だ」
「それはご愁傷さまです」
全く来ないわけではない。
秀星がいる部屋にはアタッシュケースがそこら中に存在する。
その中にはポイントチケットやチートアイテムの引換券が入っている。
マスコット・セフィアに運ばせて、基樹や宗一郎の部屋にも配置している。
だが、ほとんどこないのだ。
「ちょっとやりすぎたか?」
「今更ですね」
「まあ、うん、そうだな」
全く否定できない秀星。
彼はゲームマスターはできても、ラスボスは務まらないらしい。




