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第六百五十五話

 秀星が構築した『ダンジョンポイントシステム』だが、もちろんこれは独断である。

 聡子やアトムはバトルロイヤルの様子を見て、『やってくれたな……』とは思ったが、あえて強く追及することはなかった。

 禁止されていない。

 そもそも『ボスキャラのメンバーはアイテムの製造や通貨の発行などの新しいシステムをダンジョン内で作って導入してはならない』などというルールは、あまりにもピンポイントすぎて作っていて絶句するレベルだ。


 そもそも、それらの通貨システムを作ったとして、そのシステムを一つのダンジョンの中で浸透させるなど、魔法の使い方としてはあまりにもやらなければならない段階が多すぎる。

 『偽造困難なポイントチケットの作成』

 『配布するためにマスコット・セフィアの放出』

 『教会の売店において適正価格の設定』

 『チケットに価値を持たせるための自動販売機の配置』

 パッと考えてみてもこれくらいは存在する。

 それらを魔法で、しかも実用的なレベルで構築して実行。

 オマケに、このチケット云々は秀星としても最初に行ったものだ。

 だが、今のところシステムに不備はない。


 好き勝手する。という言葉があるが、独自の概念をいきなりぶっこんで来るあたり秀星らしいといえる。

 何より『朝森秀星という人物が生み出したシステム』というだけで、一定の信頼を得ているのだ。

 そもそも朝森秀星という魔戦士の情報収集が甘い生徒たちは、このポイントシステムが秀星が作り上げたものだということすら気が付いていないだろう。

 そして、秀星のことについて調べていれば、必ずどこかで『世界樹商品販売店』に行きつく。

 商品の値段は高いが、サービスの質とセキュリティが世界でもダントツなので、そういう意味でも信用がある。


 実はアトムが隠れてこのダンジョンに入り込んでいるが、チケットを手に入れた感想は、『このチケットを持ち帰って、新貨幣の製造にあたって技術を使えないか』と考えるほどの質だ。

 物理的な技術でしか偽造防止ができていないものは、そのほとんどが魔法で複製できてしまう。

 それすらも突破するレベルの『信用性』がある一枚の紙が、ポイントチケットには秘められている。


 秀星が作ったシステムはこのバトルロイヤルが開始してからわずか十五分で浸透した。

 正直、このレベルで広まってしまうと『これはもう全部なし!』とはいえない。

 幸い、秀星も『バランス』というものを考えているので、『数段階進んだバージョン』というレベルで止まっているだろう。


 ただ、いずれにしてもアトムや聡子のような『ダンジョンバトルロイヤル』を考案し、ルールを整備していたものたちからすれば、『自分たちが作ったルールには土足でもちこんでくるのに、こちらからはあまりにも介入余地が少ない』というのは、悔しい話である。


 バトルロイヤルはすでに、激戦区と化していた。


 ★


「うわわっ!的矢君。すごいことになってるね!」

「奏は楽しそうだなぁ……」


 沖野宮高校の一年生コンビである奏と的矢は、ダンジョンの曲がり角で、天窓学園の生徒と撃ち合いになっていた。

 奏が炎で作った剣を操り、そしてそれよりも遠くから的矢が歯車が組み込まれた特殊な弓で狙っている。

 『中~長距離』+『長距離』という攻撃範囲だが、奏の操れる剣の本数がそれ相応に多いため、総合力がとても高い。

 加えて、マスコット・セフィアからポイントチケット(七百くらい)を受け取っているので、それを自動販売機に突っ込んで魔力用のポーションを購入しているため、持続力も相当高くなった。


「向こうも結構撃って来てるね。もともと撃ち合いになってるのかな。別の方向に撃ってる時もあるよ」

「曲がり角の反対側には沖野宮高校の生徒がいるみたいだな」


 単なる通路で角に追い詰められている天窓学園の不運を嘆いたりはしない。

 バトルロイヤルルールで協力関係を築いて同率の高位を目指すのはルール違反ではないし、人のサポートすることばかり自分のリソースを使っている人間はいるので、的矢はそこを責めたりはしない。


「あの天窓学園の三人。すごいですね。多分反対側の角からも撃たれてるのに、全然撃ち負けてないですよ」

「……」


 感動している様子の奏を半ば放置するかのように黙り込む的矢。

 何かを『視て』いるようだ。

 そして、奏の炎の剣の出現時間が限界を迎えた。

 一度ポーションを飲み直す必要がある。


 だが、ここで、天窓学園の生徒が叫んだ。


「今だ!」


 天窓学園の生徒のその言葉に反応して、沖野宮高校の生徒が三人ほど出てきて、六人で一斉に的矢たちを狙い始めた。


「うわわっ!え、どういうこと!?」

「問題ない」


 的矢は弓を引き絞ると、左手で弓のギミックを作動させる。

 歯車が『ガキン!ガキン!』と、『回る』というよりは『ギアを変える』と言ったような動きをする。

 それが五回発生し、ギアが変わるたびに、引き絞る魔力の矢の数が一本ずつ増えていった。

 合計六本になる。


「『ギア・バースト』!」


 解き放つと魔力の矢が高速で飛んでいき、六本の矢は六人の生徒に直撃して、そのまま教会に直送した。


「うわ。すごい威力だね」

「だろ?」

「あと、的矢君」

「なんだ?」

「さっきのって弓の機能であって的矢君が魔力を練ったわけじゃないよね。技名を言う必要はなかったんじゃない?」

「……」


 技名を決めておいたほうが、技術が必要なことを行いやすいということは奏も分かる。

 だが、先程の技はそういうものではない。

 そういうものではないのだが、あえてここに第三者がいたとするなら、『魔法学校に入学するような高校一年生にそんなことを言っちゃいけません!』と注意されるだろう。

 勝ち確の状況で派手な攻撃が出せそうだったのだ。思春期ならみんな誰しも通る道なので追求しないであげてほしい。


「まあ、そういう気分だったんだよ」

「的矢君ってそういうところがあるよね」


 純粋な目で言われたくないセリフとしてはトップテンには入りそうである。


「あと的矢君は、反対側の沖野宮高校の生徒が、さっきの天窓学園の生徒と手を組んでるのに気がついてたの?」

「ん?ああ、そうだよ」


 的矢のOESは『歯車相関図(ギア・マップ)

 目の前にいる人間の『人脈』を視認できるのだ。

 そのため、あの段階で関わり合っていた歯車が三つではなく六つであることに気がついていたのである。


「すごいね!」

「まあ、得手不得手はあるからな。それにしても、意外とチームを組んでるところが多いんだよなぁ……」


 開始からそこまで時間は経過していない。

 だが、チームを組んでいるところは多いようだ。

 的矢のスキルによって、人を見れば誰とつながっているのかがわかるので、『別行動をしているが協力関係にある』といった状況でも判別可能である。


「確かにそうだね。僕もかなり早く的矢君に会えたし」

「もしかしたら、スタートの位置はある程度チームを組みやすいように作られているのかもしれない。バトルロイヤルというからには個人戦、多くてペアだと思ってたけど、思ったよりチーム戦になるかも」


 的矢のスキルは、単に人脈を見れるのではなく、それを歯車として認識するゆえに、『どれほど深く関わり合っているのか』が分かる。

 意外と『チームを組むに値する』と言える関係のものは多いようだ。


「でも、本当にチーム戦になったら、僕たちは不利だよね」

「真正面から戦わなきゃいけない理由もないって。とりあえず俺たちはキル数を稼いでいこう。さっき六人倒したけど、俺が倒したことになって、奏には加算されてないからな」

「あ、本当だ」


 スマホで確認すると本当にそうなっていた。


「誰に倒させるかも重要か……そこまでの戦術、俺達が組み立てられるとは思えないけどなぁ……」


 できるものが一人もいないとは言わない。

 ただ、注意しなければならない。

 もしもそんな生徒が一人でもいたら、確実に『最高戦力派閥』を構築できる。


「まあ、戦争状態になったら、漁夫の利作戦で稼いでいこう」

「わかった!」


 いいんだ……と自分で言っておいて思う的矢。

 素直な子の扱いというものは難しいものである。

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