第六百五十四話
バトルロイヤルルールであり、順位に応じた報酬も存在するが、時間制限が設けられていると『同率』という言葉が浮上する。
要するに『生徒同士で協力し合う』ことも認められていないわけではない。
優奈と美咲は、遭遇してすぐに一緒に行動していた。
「とりあえず来夏さんには会わないようにするです」
「まあその気になれば、バールで空間を割っていつでも来れると思うけど、芋ってる人しか狙わないだろうし、動いてれば問題ない。しっかり行動するわよ」
「はいです」
「フニャァ……」
ダンジョンというものは遭遇戦だが、美咲の胸に抱かれているポチは小さい虎モードである。
ただし、そこを二人が責めることはない。
ポチは種族的に『マーキング』を行うのが得意なのだが、小さくなっている方が性能が上がる。
今回のバトルロイヤルは地図が提供されていない。
生徒一人一人に対するスタートポイントから探索を始めて、頭の中、もしくは何らかの手段で地図を作りながら進む必要がある。
マーキングをしておくことで、間接的な地図を作り出す方法をとっているので、ポチが現在小さい虎になっている。
ちなみに、来夏は『悪魔の瞳』でダンジョンの内容を知っているのだが、これは彼女のスキルを使っているだけなので否定はできない。
「む?何かいるです」
美咲がなにかに気がついた。
その視線の先にいたのは……マスコット・セフィアだった。
手には封筒を持っている。
ただ、このマスコット。そもそもあまり大きくない上に二頭身なので、ATMの横においてあるような普通サイズの封筒がやたら大きく見える。
「宝箱があるとは言ってたけど、これは聞いてないわね」
「封筒を持ってるです。何か書かれているかもです」
というわけで、美咲が近づいた。
マスコット・セフィアがそれに気が付いて、二人のほうを見る。
そして、手に持っていた封筒を美咲に手渡す。
すると、『バヒューーーーーン!』という音が聞こえてきそうなほどの速度で走り抜けていった。
……あ、転んだ。
「大丈夫です?」
「多分問題ないと思う」
メイドの神器が作り上げた人形だ。問題はないだろう。
……多分。
「とりあえず開けるわよ」
「わかったです」
美咲が一度ポチを下ろすと、封を切って中をのぞく。
そして、そのまま封筒をひっくり返した。
中からチケットのようなものが六枚出てくる。
「ナニコレ」
「四枚が『100DP』で、二枚が『50DP』って書かれてるです」
「え、ポイントが必要になることがあるってこと?」
「まだ美咲たちは一度も倒されていないのでわかりませんが、『教会』ではポイントを使って何かを買えるかもしれないです」
「確かにね……どこかに自動販売機があるかもしれないけど、まだ私たちは発見してないし……」
「多分、『自動販売機』の存在は大きなカギになると思うです」
「なんで?」
「モンスターの気配がないので、おそらく『ポイントを直接入手しようとする』場合は、セフィアさんのマスコットを見つける必要があるです。ただ、教会にもしも売店があるとすれば、宝箱から手に入れたアイテムを売って、ポイントに変換できるかもしれないです」
「あ、そっか。しかも、その『教会の売店』への出入りって……」
「はい。美咲たちは倒されることで教会に行くことができるです。ただ、『敗北転送』以外の手段で教会に戻ることはできないです」
生徒たちが教会に行く場合は、美咲が言ったように敗北転送のみ。
そして、教会から出る場合は、教会の中に存在する転移ポイントに乗ると、個別に設定されているスタートポイントに移動する。
ただし、このスタートポイントに戻ってきたとしても、そこから教会に行くことはできない。
「それと、宝箱からアイテムを手に入れて、それを持った状態で負けた場合、その人がアイテムを売る可能性はかなり高いです」
「そうかしら?」
「銃弾や魔力が入ったカードリッジなど、『消費アイテムを使わないと機能しないアイテム』がかなりあると思うです。宝箱からアイテムを手に入れても、無限に使えるほどの銃弾は入っていないはずです。弾のない銃は鈍器にしかならないです」
……ちなみに、遠くのほうでエイミーがそれを実感しているのだが、それはそれである。放置しよう。
「そっか、そういったアイテムを売ってポイントに変換して、そのポイントでまた新しいアイテムを買えば……」
「戦い方の幅はかなり広がるです。ただ、手持ちのポイントをすべて教会の売店で使うことはないと思うです。それを踏まえて、教会の外に出るともう『教会の売店』を利用することはできないです。そのあとで何かを購入して補充しようとすれば……」
「必然的に、『自動販売機』にみんなが集まるってことか」
「そうなるです。ただ……なんだか聡子お母さんっぽくない考えです」
優奈は『聡子お母さんって……年齢差六年くらいでしょ』と思ったが、それは優奈が神だから感じることなのであって、美咲のような小学生には聡子のような人間はやっぱりお母さんなのだ。
……ちなみに、優奈は聡子に何を言われても気にならないと考えているが、神器を持つものが神に勝つというのは秀星という前例がいる。
実は聡子がその気になれば優奈は聡子の膝枕コースに直行である。
「どういうこと?」
「聡子お母さんは、最初に『全員にかかわる情報』を話す人だと思うです。このシステムは聡子お母さんが考えたようには思えないです」
「よく見てるわね」
「はいです。あと、モンスターを出現させて討伐させることによる報酬ではなく、これをもってダンジョンを徘徊しているのがセフィアさんのマスコットであることを考えると……」
「考えたのは秀星ってこと!?」
「秀星さんは『通貨』という概念を認識できるゲームが持つ『多様性』を知っている人です。もし教会の店員がセフィアさんか、マスコットさんだったら確定です。チケットにしても、自動販売機にしても、おそらく秀星さんなら単独でこれらのシステムを構築可能です」
ボスキャラだというのにルールに介入するとは、さすがである。
「ルール違反じゃないの?」
「ボスキャラの生徒が独自のシステムをばらまいてはいけないというルールはないです。それに、基本的に来夏さんを除けば三人とも暇なので、システムを作ることくらいは認められていると思うです。やりすぎたら後で怒られるだけです」
美咲はそこまで自分で言って、ある事に気が付いた。
「多分、聡子お母さんが言っていたチートアイテムそのものは、このポイントとは関係がないです。チートアイテムを使うために、ポイントを使わなければならないということにはならないと思います。ですが、秀星さんがもしも勝手にチートアイテムを作って宝箱に入れていた場合、『ポイントチケットを消費する』ことで追加機能を使えるものがあるかもしれないです」
「そうだとどうなるの?」
「多分、出力は恐ろしいことになると思うです。秀星さんは自分の目の届く範囲であればかなり無茶なことをする人です」
美咲。これでも小学六年生である。十年くらい年齢詐称してない?
「とりあえず、優奈さんにも半分渡すです」
「あ、うん。ありがと」
250DPを受け取った優奈。
そのままポケットに突っ込んだ。
「さて、そろそろだれか見つけたいわね。いくらダンジョンが広いからって、さすがに倒した数がゼロっていうのは不味いわよ」
「売店では『生徒を発見できるアイテム』が売られているかもしれないです。そのうち向こうからくると思うです」
とか何とか言っていると、遠くから足音が聞こえてくる。
「というわけで戦うです!」
槍を構えて元気な様子になる美咲。
優奈はそれを見て、『うーん。賢いけどやっぱり幼いわよねぇ……』と溜息を吐いた。




